第9章 消失と墓石

 信じられないことが起こった。


 女武神であり、少女であり、それにタニルとグランの一番良い仲間である。


 先日の夜、彼らはまだ少女と遊んでいた。


 もっと前に、タニルとグランが少女の両親に引き取られた時から…そのころタニルは物心ついたばかりだった。 小さい頃のこと、タニルはほとんど忘れてた。


 タニルの記憶の中で、三人はいつも影と形のように離らない。


 しかし、たった今、少女が皆の前で、彼女の全知の槍を構えて、変異スライムに向かって一気に攻撃したてきた時、


 …少女は跡形もなく、消えてしまった。


 山間の小道の泥の上を滑っていた足印さえも、一緒に消え、少女には何も残されていなかった。


「アルウィ、消えた?」


 グランは戸惑って、目の前で騒いでいるスライムの群れを忘れた。


「一体どういうこと?! 何が原因か?…」


 グラン百思はその解を得ない。


「おい!……おい!!……おい!!!! …………」


 グランの前にいるタニルは、怒りのあまり体のバランスが悪く、アルウィの消えたところへと、ふらふらと歩いてて。


 同様に現状を見ていた農夫は、もうへなへなと座り込んでいる。 少女の消え方も常識を超えて、自分のカートが壊されたことを忘れてた。


「返せ!!… アルウィを俺に… 返せ!!!! 」


 群れをなした汚れたスライムに、タニルは声をあげて怒鳴ってた。


「落ち着け!! タニル!! 」

「…」


 グランの叱咤によって、タニルは静かになる… 同時に心の中に無数の困惑が生ずる。


「どうして???……… 」


 タニルは茫然としてあたりを見てる。


 分裂した変異スライムは、互いに隣り合っていた数匹が再び集まり、一つに合体した。最終的には三匹残っており、どれも最初の本体と同じ大きさ。


 そのうちの二匹がうごめいてて、タニルに向かって来る。


「タニル、気をつけろ!!」


 グランは素早く矢を放って、スライムを撃退しなかったが、それらを引き寄せた。 スライムがタニルに巻きつき、タニルの衣服を腐食させようとしたとき、彼らは突然標的を変えて、グランの方向へと移動し始めた。


 タニルはぼんやりと自分の体を見回して、腐食された衣類、軽いやけどの皮膚を見て…


 それに、ぼんやりと遠くないところを見ていて、矢を撃ち続け、スライムと闘うエルフ仲間。


「集中しろ、タニル! 目下、この厄介なやつらを退治させてやる!」


 弓を引く隙間を利用して、グランは大き声で言った。


「こい…つら?…」


 タニルはこれらの―― 定形のないスライムを睨みつけ。 そして再び剣を持ち上げる。


「あああ……!! いやああああああ!!!! 」


 タニルは怒鳴りながら突進した。 全力で斬り込み、余力をほとんど考えずに攻撃を展開する。


 ……けど剣の斬りには威力がない。


「えっ?」


 スライムの身体に切り込んだ長剣は、これまでのようにスライムを切り分けるのではなく、スライムの身体に巻きこまれた。 変異したのスライムは、金属まで飲み込もうとしている。


 状況の変化を意識した、タニルはあわてて長剣を抜き取く。


「私の……勇者の力は……なくしなった。」


 タニルは疑問を思って今。 なぜ? アルウィが消えたからか? それは明らかだ。


 でもなぜアルウィは消えた。


 スライムは再び前に動いたが、タニルは迷わなかった。 彼はすぐに能力を失った事実を受け入れた。


「キャーァ! キャーァー! キャーァー!! 」


 能力を失うよりも、少女を失うことが本物の重要だ。 悲しみ怒りを力に変えている。


「キャーァァァァァ!!!! 」


 あれは苦しい悪戦だった。


 少年のかすれていた泣き声と咆哮の中で、どれぐらいの時間が経ったかわからない。 最後の最後、変異のスライムはついに全滅した。


「ふ…… 」


 グランは荒い息をしながら、涼しい黄昏に激しく汗をかき、体が脱水して目眩がしている。


 長い戦いの中、弓を引き続け、矢を発射して、彼をへとへとになるほどだった。 矢はいつもすぐに使い終わるので、樹木の枝を取ってスライムに対抗し、周囲に落ちた矢を回収した。


 しかし、彼よりも、タニルはもっと体力を消耗した。 タニルの怒りによって、変異スライムは逐一と切り裂き、最終に再生できなくなる。


 体力が尽きているのに、今のタニルは疲れを知らないそうに体を揺らし、バタバタと歩きまわる。


「アルウィ…どこにいるの?…… ……アルウィ!!! 」


 タニルは茫然として探してる。


 もちろん、アルウィが消えたことを、グランは哀しげに感ずる。 このとき、仲間がこの心を奪われない姿になることを見て、グランは更に胸を締めつけている。


 だがタニルを止めるのではなく、彼の気持ちを解放させるのだ。


「どうして、アルウィは消えたの?…」


 タニルは困惑してて。


「魔法を使う副作用? 女神の意志に耐えられない? 物陰に隠れた敵? それともあの日のいたずらのせい?」


 タニルはその夜を思い出した。


 ただ、好奇心から出たくだらないいたずら。――アルウィが眠っている間に、タニルはアルウィに憑依した光の女神を何度も呼び覚まし、ついにアルウィを起こしてしまい、タニルも謝罪せざるを得なかった。


 おそらく… アルウィに憑依した光の女神は呼び覚まされるたびに、アルウィの身体に負担をかけるかもしれない。


 確証はできないが、もしそうだったら……タニル自身が張本人だ。


「いいえ、それは不可能だ。近くにいるはずだ… たぶん…聖剣の破片になったかもしれない」


 タニルが一生懸命推測してた。


「もう一度探してみろ……」


 最後の少しの希望を抱いて、山の林と道の中で。農夫が去るまで、日が暮れるまで、グランが食べ物と水を取ってくるまで。 タニルが疲れて眠って、翌日夜が明けてまた目が覚めるまで。


 タニルはまだあきらめていない。




 どこを探してもアルウィが見つからなったので、二人は村に帰るしかない。 旅に出てから、ずいぶん時間がかかったし、帰るのにも数日かかる。


 タニルとグランにとって、冒険はもう意味がないだ。


 家の前の庭の玄関に帰ると、グランが門をノックして叫んで、彼の隣のタニルはまだぼんやりしている。 しばらくして、アルウィの両親が前庭に迎えに来た。


「どうしましたか? 伯父さん、伯母さん?」


 庭の門が開いた後、グランが聞いた。 どういうわけか、伯父と伯母は二人に熱心に挨拶しなかったが、頭を下げて涙を流し、長い間泣いていた様子だった。


「グラン、タニル?… どうやって帰ってきたの?」


 伯母は顔の涙をぬぐったが、目は依然として赤く腫れていて、彼女は疑わしいそうに庭の外の二人を見た。


「その…俺たちは……」


 家に帰る前には言葉の準備を繰り返していたにもかかわらず、この時になると、グランはどうやって言えばいいのか分からなかい。 伯父と伯母に、アルウィが消えたことをどう伝えるか……


「まあ…やめておこう。 帰ってきたら、もう一回行きましょう…」


 伯父はそう言いた、 その後、彼と伯母は、わけのわからないグランとタニルの二人を連れて、家の後ろへ出ていった。


 垣根で囲まれた家の裏庭に、まもなく前に立てられたように見える立石があり、その上に誰かの名前が刻まれた。


 それはアルウィの名前だ。


 横を見ても縦を見ても、墓石の石だが、その上に誰かの名前が刻まれていると、それが何を意味するのか、誰もが知っているのではないかと思う。 そのような理由でなければ、こんな冗談はもひどいだ。


 せめて目の前の伯父と伯母が、自分の娘を決して冗談にはしない。


「どうして……どういうこと?… アルウィ……死んだの?」


 タニルは断続的につぶやいた。


 グランも同じようにショックを受け、しばらくは悲しむべきか、それとも困惑するべきか分からなかった。

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