第8章 変異スライム

 宙に浮いた、アルウィの目で自分を見つめている光の女神を見て、タニルはまだ驚いている。


 そんな冗談を言っても、相手は相変わらず優しく穏やかな顔をしてた。


「でも、あの子は怒っているでしょう。」

「うん……」


 女神の慈愛のまなざしと向き合ううちに、タニルの罪悪感がこみ上げてきた。それでもホッとしました。


「光の女神、本当にすみません!」


 改めて立ち直ったタニルは、丁重に頭を下げて謝罪した。 しかし、光の女神依然として静かに微笑んでるだけだ。


 気を緩めた後、タニルはまた深呼吸をした。少し落ち着いて、


「終わります。」


 …アルウィが着地した後、すぐに意識を取り戻した。


 タニルは緊張したようにアルウィを見て。 アルウィは口を尖らせて、自分を睨みつけ、これはタニルをさらに緊張させた。


「…タ、ニ、ル!」


 アルウィが口を開いた。


「はい!」


 タニルは身震いした。


「説明してください!」

「悪いことをしたんだ!…ごめんなさい!! 謝ります!!」


 タニルはあわてて膝をついた。


「な、 何してるの!?…」


 突然土下座したタニルに、アルウィ驚いたようだった。


「俺はただ、君が光の女神になった姿は面白いと思っただけだ!… あの、何ていうか… いつもと違って、威厳があって、魅力的です!」


 タニルは自分のしたことを説明し、話し方もだんだんこびへつらうようになっていった。


「おい、タニル!……恥ずかしいから、これはやめて…」


 アルウィは可笑しいと思ったり、恥ずかしいと思って、タニルの顔を両手で遮った。それがタニルを止めると思ったのか、それともタニルという人はいなかったふりをしていた。


 しかしタニルは相変わらず厚かましく、心からの賛美のような言葉を続けてて。


「だから俺は思えてたんだ。多分将来、アルウィも成熟した姿になるかもしれない…… 俺が間違っていることを知って、ただ自分を抑えられなかった! ごめん!!」

「もういい!!!!!!  」


 少年が忌憚のない大声で話し、ついに少女は更に恥をかき、穴だけを見つけて潜り込みたいとした。


「ぷっ!」


 部屋の最も内側の布団の中で、体を横にして眠っているふりをしてたグランは、やっと笑い声を抑えられなかった。




 正確には、タニルだけが選ばれた勇者だ。


 広義では、タニル、アルウィ、グラン、三人とも冒険旅に足を踏み入れた者である。


 現実的に言えば、三人は大したことをしたことがない。


 この世界には魔物がある。――魔法生物、多くのは有害ではない。 魔物狩りに従事する人が多く、生計を立てる人もいれば、楽しむ人もある。


 タニルたちの状態は両者の間にあるようだった。 たまたま何度か、三人で人助けをする機会があった。そんなとき、彼らは勇敢な冒険者のような気が感じた。


 最近、确かに変な魔物が現れた。 まだ村にいた頃、大人は村からあまり離れないようにと、いつも戒めていた。


 いま――


「いつものように、速戦即決! グラン!」


 タニルは剣を持って、目の前の汚れたスライムを見つめ、後ろの仲間に向かって言った。


「了解!」


 仲間はタニルより背の高いエルフで、すぐに反応した。


 彼らの中で唯一の女の子アルウィは、戦闘能力があるにもかかわらず、なぜか手ぶらになり、緊張しながら見てて。


 三人はある丘の中の小道にいて。 直面している状況は、カートを押して食糧を運んでいた農夫が、変異したスライム粘液質の生物に襲われた。 三人はたまたま通りかかった。


 農夫は無事だったが、変異スライムに汚い病原菌がたくさん携帯していたせいで、カート中の食糧はすべて汚染されまった。


 怯えている色を浮かべて、一人で農夫は小道のそばの芝生に立ってて、三人と近くない距離を保っている。


「タニル、私も手伝いたい。」


 戦いを傍観していたアルウィは言った。 彼女は両手を十本の指で交差させ、かすかに背伸びして、躍起になっている様子だった。


「必要はない、アルウィ。 この程度の奴は… 簡単だ!」


 タニルは自画自賛していたが、いつも目がスライムを見つめ、迎え撃つ覚悟をしている。


 汚れたスライムはもう完全にカートにまとわりつき、固定形のない肥満の体がうごめいてた。


 そのまま前に進み出て、タニルは両手で剣を振り、全力で攻撃した。 確かに攻撃は効果的で、スライムの体の一部は長剣で切り裂かれた。


 タニルは長剣を担ぐと、切られた部分がカートから離れ、地面に落ちた。


 しかし、地上に落ちた半匹のスライムはまだうごめいてて。まだ生きているようだ。


 グランは直ちにアーチェリー攻撃を追加した。 光の女神によって強化された矢に命中されると、地上の半匹のスライムは衝撃を受け、多くの半透明びらに分裂し、水しぶきのように四散する。


「よし! これで一部は解决した。」

「まあ、油断しないよ!」


 グランはまた弓と矢でいっぱい引いて、真面目な様子をしていたが、自信満々である。


 そのとき、二人は突然異常に気づいた。


 半匹から多くの花びらに分裂したスライムが、ばらばらになった後―― 一つずつの気持ち悪い半透明びらがうごめいうてて、山道の地面の泥、草の根、砂石、さらに砂石の隙間の虫まで吸収分解してた。


 吸収は非常に速く、一瞬にして、一つ一つのびらが小さなスライムに成長しまった! 地面をうごめいて進み、目に見える速度で吸収し、成長していく。


「まずい!! …どうやら変異のスライムは、分裂と繁殖が得意なようだ!!」

「そんな!… 君たち、本当に助ける必要はないの!?」


 アルウィは心配して、二人に尋ねた。


 タニルは彼女の好意を理解しながらも、自分の能力が疑われているとと感じて、納得しないで言った。


「心配するな! でも、確かに敵はそんな簡単ではない。 全力を尽くぞ!! グラン!!」


 二人も確かに全力を尽くしてた。――もっと強く斬り込み、もっと頻繁に矢を放った。 一工夫の後、再生されたスライムの一部は、みごとにびらの大きさの状態で扼殺された。


 しかし総量から見ると、変異のスライムはますます多くなっている。


 変異スライムが攻撃を受けるたびに分裂、繁殖する。 土地の部分だけでなく、カート中の食糧の栄養、カート自体まで吸収する。


「このままじゃ、きりがないじゃないか!…」


 タニルは文句を言った。 それに遠くから見ていたカートの主人は、今は両足がぐったりして、地面にひざまずいていた。


「俺のカートは!!……」


 農夫は今、さぞかし心が痛いだろう。 変異スライムの飲み込みと、武器の破壊によって、カートはボロボロになり、完全な形もなくなってしまった。


 三人は同情を禁じえなく。 戦闘の合間に、グランは農夫をなだめた。


「本当にごめんなさい! でも魔物に傷つけられたよりはましです… 元気を出してほしい!」


 ずっとそばに立って観戦していたアルウィも、この時、とうとう我慢できない。


「やっぱり私がやりますね。 」


 アルウィは得意げに、右手から全知の槍を呼び出し、上手に何回か振り回してた。 ここ数日、彼女は多くの使い槍の技を模索した。


 銀白色の光霧を放つ全知の槍は、邪悪を浄化する効果がある。 具体的な作用範囲は不明であるが、先日他の変異魔物との対決で、浄化効果が確認された。


 アルウィが振るう中、全知の槍は空気中に薄く白い煙を残し、かすかに光っていた。


「それじゃ!……」


 アルウィは一喝して、滑り駆けて、スライムの一匹に向かって突進し、長い槍を突き刺した。


 全知の槍の穂先が、変異スライムに触れて、たちまち大量の白い煙が立ち上る。


 またたく間に、全知の槍がスライムの体を貫き、スライムも燃えたかのように、一挙に浄化されていく。


 ………アルウィが突然消えた。


「え?…」


 タニルが呟いた。


 他の二人も呆気に取られて、目の前の状況が分からない。


 元々、少女が前を向いて滑る姿や、全知の槍が残した淡い光帯を見ることもできた。


 今は地上を這うスライムと、山道の砂利と雑草と、破れたカートだけが残ってる。


 少女が滑って歩いた足跡も、一緒に消えてしまった。


 人間が蒸発するように。 長い間たってから、タニル、グラン、そして農夫、三人はついに反応してきた。


「アル……ウィ?」


 何度確認しても、タニルは信じられないだろう。 目の前で起きたの事実。


 ついさっき、みんなの前にアルウィが――


 本当に消えだった。

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