原作解説

解説:ヤマグチノボル

 さて。「ゼロ」を振り返るとなればやはり、最初に綴るべきはこの男のことでしょう。

「彼」そのものではなく、偏在してはいますが、割合で言えば彼が一番「登場人物」してますからね。


 ・・・・・・適当言ってるわけじゃありませんよ? というのも、パーフェクトブックの見開きを見れば分かります。


「体験したいことを書く」


それが彼にとっての執筆であり、ということは裏を返すと作品を読み込めば、彼を真に理解することが可能ということです。


 ・・・・・・さて、山口昇一という男。一体どういう人間だったのでしょう?


 ここで役に立つのが「なぜ?」「どうして?」という言葉。人を成長させる上でもっとも重要な言葉であり、使いこなせれば大概の物事に法則性を見いだすことが出来ます。


「なぜ」彼は「それ」を書いた? 

「どうして」彼は「それ」を選んだ?


 ・・・・・・これは僕がたどり着いた結論ですが、「彼」は非常に強がりで、しかし自分に自信がなく、至って女々しく傲慢で、何より純粋な人物だったかと思われます。


 多分彼を知る人は、おそらく口をそろえて「違う」というかもしれません。ですがそもそも人は見かけによらないもんですし、ましてや強がりの人間が、自分の弱さを誰かに見せると思います? 

見栄張りまくって「楽しい人」を演じつつ、己の悲哀に酔って沈む。そんな気はしませんか? 


 もちろんこれにも根拠があります。ツイッターを遡ってみると、彼がリプライを返す友人がおりまして。その友人が彼との思い出を、鍵垢にして残してるんですよね。


 やっぱり、作家は筆に自分を込めるべきですね。作品から読みとれる彼と、鍵垢で語られる彼は、まったく同じ彼でした。才はあれどもそれ以上に苦しみ、時に情けなくすらある、等身大の彼の姿でした。


 ・・・・・・貶してなんかいませんよ? むしろ誉めてますし、感謝すらしています。僕がこうしてこの筆を続けてられるのも、彼以上に恥ずかしく惨めな生を歩んできたからですし・・・・・・


 何よりその才に驕ることなく、這いつくばってでも前を向き続けたからこそ。彼のキャラクターには彼の心がこもっていて、彼亡き今でもこうして動いてくれるのですから。

 

 ルイズ・フランソワーズがなぜ、あんなに自分に自信を持てない女の子だったと思います? 

 どうしてそんな女心の機微を、男の身である彼が書けたと思います? 

 とてつもなく女々しかったからですよ、彼が。

 

平賀才人がどうしてあんなに、意地っ張りでがむしゃらな男の子だったと思います? 

 しょうもない拘りを通さなきゃ気が済まない、融通の利かない男だったと思います? 

 バカみたいに傲慢だったからですよ、彼が。


 もちろんメインキャラクターだけでなく、サブキャラたちにも「彼」は埋め込まれています。すべてが「彼」ではないですが、そこは流石のヤマグチ、「もしも」という言葉を誰より上手く扱える男です。


 一を聞いて十を想えるのは作家の特権ですが、彼は百も二百も想えましたからね。 あまりに正確(性格)すぎたので、僕もプロット立てるときはそう苦労はしませんでした。

 読み込みさえすれば彼が「なにをするつもりだったのか」だいたいなぞることができたので。


 ・・・・・・さて。ここまで読まれて「ん?」と思った方、いるんじゃないでしょうか?


「だったらどうして僕と彼で、違う筋書きになったんだ? 本当に理解が出来たのなら九割どころじゃなくて、完全に同じシナリオになっただろ?」と。


 ご名答。しかし、それには少し理由があるんですよね。「理解出来なかった」ではなく「理解を拒んだ」が正解です。

 というのも彼の残したプロットって、既刊で描かれた彼自身を根こそぎ否定するものなんですよ。


 さて、メモリアルブックを手に取り、氏のプロットを読んだ皆様に質問です。


 サーシャがブリミルを殺した、理由はエルフたちに「生命」を放ったから。

 生存競争のために「仕方なく」愛が引き裂かれる展開。

 これってファンタジーですか? それともリアル?


 地球に帰らなくちゃいけない。自分には自分の世界がある。

 それを言う才人と、受けいれられるルイズ。

 結局片道切符で地球に向かう二人。

 これってリアルですか? それともファンタジー?


 ・・・・・・僕はここに、彼の絶対的な「絶望」と「拒絶」を見い出しました。


 「仕方なく」エルフたちに生命を放った。「仕方なく」ブリミルを殺した。

 ブリミルが勝手に決めたのか? となると間違いを犯したブリミルを殺し、サーシャは自らも死を選んだということになる。

 なるほど、確かにそれは愛だ。ただ、それを選ばせることは、本当にファンタジーなのでしょうか? 

 もっとコルベールの過去のような、救いのある話にだって出来たのに。


 ・・・・・・運命に抗がえず「仕方ない」で終わってしまう。そんな悲しい出来事に、わざとしたんじゃないですか? 

 これってつまり「彼」の辛苦そのものだと思うんですよね。自分が受けた理不尽を、読者に突きつけたかったんじゃないですか?

 

 ルイズが地球で生活する、これもまたおかしな話です。


 地球が「リアル」でハルケギニアが「ファンタジー」。だからこそ平賀才人はハルケギニアにやってきたのです。

 「現実」ではない「異世界」で。彼の夢を、願いを背に乗せて駆けめぐっていたはずなのに。突如として「自分には自分の世界がある」と言い出す主人公。


 「ハルケギニアにいる理由」なら、11巻でケリが付いています。14巻でも、結局ゲートはくぐらなかった。

 結婚まで視野に入れておきながら、あっさりと愛する人との別離を選んでしまう。おかしくないですか?

 

 ・・・・・・いや、おかしくても仕方がない。彼にはきっと、己の筆を曲げてでも大切にしたかったものと、確固たる信念があったのでしょうから。


 思うにですが、彼はこう思ったのではないでしょうか?

「愛してくれた親御さんに、下手な筋書きを残したくない」と

「自分の人生が終わったのに、物語の先を想わせたくない」・・・・・・と。


 親御さんと仲が良かったことは、日々のツイートから察することが出来るんですよね。察するに彼は一人っ子だったはずで、私大の明治大学まで出してもらってるんですから、相当愛されていたことは想像に難くありません。


 ・・・・・・で。読者の皆様に質問です。

 もしあなたが彼だったとして。病に伏せる自分に何度も会いに来てくれる親御さんに、下手な筋書き残せます? 

「地球で我が子を待ち続ける両親の気も知らずに、異世界を選んでしまう主人公」って、書き残せますか?

 

 ・・・・・・地球とハルケギニアの選択には、地球を選べば親御さんを、ハルケギニアを選べば恋人を取るという意味合いが含まれます。

 

 ええ。仰る通り本来、作品と作者は切り離されるべきなんですが、「ヤマグチノボル」はその限りではない。

 そりゃあそうです。自分がやりたいことを綴ってるって公言しているんですから、彼。

 

 しかも彼は自分の命では、現世にいる恋人のことを「愛せない」と知っているわけですから・・・・・・実質一択なんですよね、これ。

 「ルイズを愛するために異世界で生きる」という選択を才人がしたとしても、彼自身は病魔に蝕まれて命を落としている。


 「ゼロの使い魔」という作品は、言わば彼自身の物語ですので。・・・・・・できないことを物語で描いてしまえば最悪、恋人の楔になりかねない。

 可能な限り不安要素を排しておきたいと考えていても、おかしいことはありません。

 

 ええ、そうです。彼は誰より賢明で、そして優しい男ですからね。

 少なくとも僕が彼の立場だったとしたら、僕と同じプロットは絶対残しませんよ。残せるわけがありません。


 愛する者を切り捨てて筆を執っている僕でも、そんな非道はいただけない。僕のプロットは絶対に、「死を覚悟した者」が綴っていい筋書きではないのです。

 僕が切り捨てることができたのは、単に僕が生者であり。また愛する人たちが生きているから、言葉というリカバリが効くというだけのことで。

 死は永遠であるが故に。生者に愛の言葉くらいは残したいと考えるのが、死に往く者が抱くことができる唯一無二の救いであり、そして希望なのですから。


 しかし、地球を選ぶことで親御さんへの愛を表明したとしても、それはそれでおかしな話になってしまいます。

 

 なぜなら作中で才人は在学中。いきなり嫁を連れてきたからといって、その後の展開がまったく読めない。

 息子の帰還を喜びはすれども、ルイズを地球で養わねばならない以上、その幸せへの道はあまりにも険しく遠い。


 そもそも作中で何度も、ルイズが箱入り娘であることは言及されていますね。

 ・・・・・・魅惑の妖精亭で働くのですら大変だった彼女が、地球で生活できると本当に思いますか?

 病院に通うのだって保険がいりますし、戸籍の取得は必須ですよね。

 この国で生きる上で、いかに身分の証明が重要なことであるかは、この場で語るまでもないでしょう。


 とはいえ、不可能というわけでもありません。記憶がない男性が戸籍を拾得した事例があるそうですが、しかし、それには莫大な資料と手続きを踏むわけです。

 誰が踏むんです? 当然本人であるルイズです。いきなり地球にやってきた、貴族の女の子に、そんなこと出来ると思います?

 

 そもそも学業まっただ中の才人に、ルイズを養うことなど出来ません。

 通学中はルイズは才人の実家に居ることになるでしょうし、学校を中退して働き出すにしても、就職には苦労するでしょうし。

なにより才人が仕事に言っている間、ルイズはただ家で待つことしかできないんですよ? ティファニアの母親みたいに、異界の地で寂しく。


 地球に来て右も左も分からないのに、才人の両親以外の人間関係、どうやって作るんです? 

 ・・・・・・ただでさえ人付き合いが上手くない少女に、家族も友人も捨てさせてるんですよ?

 才人の両親にも気を使ってしまうでしょうし、その精神疲労は想像に難くない。


 で。孤独な籠の鳥となり、心をすり減らして皺を増やしてボロボロになってくヒロイン、見たいですか?

 イヤですよ僕は。そんなもの、ファンタジーと呼べやしませんから。 

 子供育てるにも病気にかかっても、病院にもいけないですから、普通に生活することもままならないでしょう。

 それとも両親におんぶにだっこで、一生実家暮らしするんです?

 

 ・・・・・・いやね、確かに彼は言いましたよ。「英雄がお姫様を連れて故郷に帰るから『ゼロの神話』」だって。

 でもね。それって親に伴侶の顔見せて安心させるためであって、伴侶を連れてかえって一緒に住むことじゃないんですよ。


 あくまで子供が家庭を持って、親元離れてくれるから親は安心できるわけで、それがわからないヤマグチ氏じゃないはずです。

 8巻の後書きでも似たようなこと言ってましたし、彼が分かってないはずがない。

 要するにこれ詰んでるんじゃなくて・・・・・・「詰ませた」んじゃないですか?


 なのでここだけの話、本当にヤマグチ氏が描こうと思っていたのは、総監修したアニメ4クールのED、じゃないかと思ってるんですよね。

 ハルケギニアと地球の相互通行。これならオールオッケー。オールハッピー。


 ・・・・・・じゃあ何でそれをしなかったと思います?

 

 何度でも言いますが、「ゼロの使い魔」とは彼の物語です。

 なので自分の先が長くないと知った彼は、作品の先を読者に「想わせないように」したんじゃないですか? 


 自分の未来が壊れてしまったから、同じように壊したい。そう思っても不思議じゃない。僕ならそうしますから、ええ。


 だってホントに続けたいなら、舞台が「リアル」な地球になることはありえないはずなんですよ。もし地球が「ファンタジー」だと思っていれば、そもそもハルケギニアに行く必要がないので。

 「どこか違う、遠い世界」と作中ですら繰り返す彼が。わざわざ地球を下地に、物語を書くと本当に思いますか?


 ・・・・・・とまあ、ここまでが「僕が彼だったら」の予想です。

 いやまあ「彼が『そんなこと』も考えられないはずがない」とか

「僕は彼のためにすべてを捨ててきたのに、好きな女のために故郷すら捨てられない主人公なんてダメだろ」

 なんて私情も挟みまくっていますけど、全部が全部間違いというワケでもないはずです。


 そんなわけで要するに、分かってても認めたくないんですよ。だって、僕が描こうとしているのは彼が望む「彼」。つまり「病魔に冒されなかった」彼の文章ですから、違って当たり前なんですよね。


 ・・・・・・何の話でしたっけ? そうそう、僕が彼の筋書きから感じた、絶望と拒絶の話です。だから僕は原作22巻の先を綴るつもりはないですし、彼を襲った理不尽を否定して、彼本来の筆を読者様にお届けする義務があるわけです。


いやね、言いたい放題言ってますけど。闘病生活、本当につらかったと思うんですよね。ぼくなんて腹痛いだけで頭回らなくなって寝込むくらいですから。何十倍もの苦しみを背負って、あれだけの筋書きを残せる彼はすごいですし、万全の状態だったらもっと凄かったはずなんですよ。


 ・・・・・・ん? 「ホントにお前にできるのか」て? 

 あはは。今ここで何を言ったところで、貴方にとって僕は「偽物」ですし、そんな僕の文章なんて、読もうと思わないでしょう?

 どんな文章だって読まれなければ、何の意味も価値も与えることは出来ません。別に構いやしませんよ。僕は結局「偽物」ですから、それくらいの覚悟はしてますし。


 まあとにかく、一旦僕の実力は置いといて。彼の描かれた1巻から20巻。一緒に振り返ってみましょうよ。

 ヘンなことを僕が言うようだったら、遠慮なく切って捨ててしまえばいいですし。

 ・・・・・・ただもし、僕の言葉に興味をそそられて。その胸がオモチャ箱みたいに輝きで溢れだしたら・・・・・・

 ・・・・・・そのときはまた、考えてみて下さいな♪


 追記。

 僕の見解に違和を覚えた方がおりましたら、応援コメントの方にてどうぞ。

 ・・・・・・またその際「彼のプロットをどうすればよかったのか」というご意見も聞かせてください。


 ブリミルとサーシャに関してはそこそこ自由が利くんですが(●ゼロのロマネコンティみたいな風にするとか)

 平賀才人がルイズ・フランソワーズを愛しているという前提で、なおも地球に帰ろうとするというシナリオを僕が立てると・・・・・・13巻のような独断をルイズにさせてしまうわけで。


 ・・・・・・ええと、その、つまり・・・・・・平賀才人という個人を、完全に拒絶しないといけなくなるわけで。でもいまさら「きらい」とか言わせたところで、本音が透けてるから誤魔化せない。

(拙作でも最新話あたりで、そこら辺は書いてますし)


 ・・・・・・うん、まぁ、その、言葉が通じないなら態度で、態度で表せないなら行動、つまりはカラダで示さなきゃってわけで・・・・・・ジュリオあたりと一芝居打って、スキルニルとか使ったとしても、うん・・・・・・


 ええ、つまりそういうことです。「僕が言えない」ということ、「それ」が答えなんですよ。


 考えて見てください。あなたを本当に好きな人がいたとして、心の底から諦めさせられる行動があるとすれば、「それ」ぐらいしかないでしょう。


 これ以上は勘弁して下さい。んな胸糞悪いもん綴るくらいなら、この指食い千切ったほうがマシですから・・・・・・


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

所感 零之使ゐ魔 カゲヤマ @311010612

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る