第15話◆顕現(けんげん)
〈原田〉の試合を一緒に観に行って以降、
〈英二〉の《ダイバーショップ》にも顔が出せず・・・〈知夏〉も逢っていなかったのは、
やはり、例の件があったからだ。
まさか、あの《騒動》が飛び火して〈英二〉達にも何かしらの『迷惑』を掛けてはいないだろうとは思いつつ、
『この先』またあらぬ 《デマ》で迷惑が二人にも及ぶかも―・・・と考えただけで、自然と足が遠退いてしまっていたのだった。
そんなある日の《休日》。
自宅に、〈英二〉から〈知夏〉が《伊豆》の病院に『入院した』との電話連絡を受け、
血相を変えた〈サトル〉はその足で急いで場所もままならない《病院》へと向かう。
《都内》ではなく《伊豆》の病院という事は、明らかに《ダイビング》の事故によるものだと直感的に思った。
『―・・・まさか《発作》・・・⁉️』
今まで〈英二〉の車でしか行った事の無い《伊豆》が、こんなにも遠い場所なのかと思ってしまう程に《電車》を急かしてしまいたくなる。
『焦れったい』気持ちだけが空回りして、
〈サトル〉はイライラするだけの自分に虚しさすら感じていた・・・。
ようやっと最寄りの《駅》に着くや直ぐさま今度は《タクシー》に乗り込むが、
《病院》にまでどう辿り着いたのか『記憶』にさえ無い。
「・・・英二さんっ‼️‼️」
《病室》の前に居る〈英二〉の姿を見付け〈サトル〉は、やっとの思いで駆け寄った。
―・・・が、『連絡』をして直ぐに駆け付けて来るとは思わなかったらしい。
〈英二〉は大層驚いて、息を切らしながらも心配そうな顔をしている〈サトル〉に感謝した。
「・・・さっき《手術》が済んだ所なんだ。《命》に別状は無いから安心していいよ。
―・・・にしても、
一人でよくココまで来れたモンだね?」
労(ねぎら)いの《言葉》を掛けられても耳に入らないのか、確認するように訊ねる。
「・・・《水中》で『発作』を起こしたんですね⁉️」
「―・・・あぁ・・・」
その様子に思わず小さく苦笑する〈英二〉は、安心させるべく丁寧に言い聞かせるようにして話を続けた。
「いや―・・・実際、今まで《ダイブ》の最中に『発作』を起こした事が無かったから、知夏(アイツ)もオレも油断してたのが原因の『一因』でもあるんだ・・・💧
・・・ただ。入水して直ぐで《水深》が浅かったのと、アイツが息を止めたのが『発作』の瞬間だけだったのが幸いして『大事』には至らなかったんだよ」
「・・・会えますか?」
「《麻酔》が未だ効いていて眠っているケドね―・・・」
〈英二〉に案内され《病室》に入ると、
目の前に痛々しい〈知夏〉の眠っている姿があった・・・。
その《ベッド》の脇の《イス》に静かに腰を掛けると〈サトル〉はグッと身を乗り出し本当に〈知夏〉が生きているのかを知りたくて、顔に自分の耳を近付ける。
そして―・・・弱いながらもその『呼吸』を確認すると、《ベッド》の端に両肘を付き頭を垂れ・・・まるで神に祈るように手を組み、
「――・・・良かった―・・・」
ただ、そう一言だけを呟いた・・・。
その声も微かに震えていたが、組まれた両手も小刻みに震えて止まらない。
ここまで来る間―・・・本当に、怖くて怖くて仕方が無かったのだ。
〈知夏〉が『発作』を起こして《パニック》になったであろう『状況』を想像しただけで、〈サトル〉も《同調(シンクロ)》するように息をするのも辛かっただけではない。
―・・・それは、
自身が度々・・・《夢》に見る《母親》の『苦しみ』とも重なり、涙を堪えるのでもう精一杯だったのである。
あの時は――・・・ただ己れが『非力』で救えなかった。
その《母》の《生命(いのち)》を想い・・・未だに悔やんでいる『気持ち』が、
〈知夏〉を想うそれと何ら変わらなかっただけに『・・・失いたくない・・・‼️』と、何度もそう強く、心の中で叫んでいたのだ。
そんなカタカタと震えている〈サトル〉に〈英二〉は優しく肩を叩く。
・・・その小さな《後ろ姿》を見れば、
どれだけ《娘》の心配をして駆け付けたのかが充分に伝わって来て、
《言葉》を掛けるのにも躊躇してしまうのだが―・・・。
「・・・サトル君、《駅》まで送ろう。
本当は家まで送ってやりたいが今日、オレは『泊まり』になりそうだからね。キミにまで付き添わせる訳には行かない。
―・・・一人でも『大丈夫』?」
「・・・ハイ。帰れます・・・」
〈知夏〉が目覚めるまで自分も傍に付いていたかったが、諦めて〈英二〉の好意に甘えるコトにし《病室》を後にした・・・。
「・・・もう《ダイブ》は無理ですか・・・?」
車に乗り込みしばらくは沈黙していた〈サトル〉だが、どうしても気になり〈英二〉に訊ねた。
「・・・ん?―・・・あぁ知夏のコトかい?・・・そうだな・・・やらせたくは無いかナ。《親》としては、どうしてもね」
ハンドルを握る〈英二〉は、視線だけを《助手席》に座る〈サトル〉に向け小さな溜め息を吐いた。
「《肺》の過拡張による『胸部圧外傷』と診断されて『減圧症(※)』にはならなかったコトに正直ホッとしたヨ💧
・・・だけど、《娘》が『パニック障害』を抱えている以上、今日みたいな『発作』がまた起こるかも知れないし、
今回のように助かるかどうかも判らない。
アイツが『また潜りたい』と言っても―・・・もう、オレは首を縦には振れないなぁ・・・」
『親一人子一人』―・・・《娘》を想う《父親》として『当然』だろう。
自分も〈英二〉の立場なら、同じコトを思うに違いない。
しかし、〈知夏〉の《気持ち》も知っているだけに、例え〈サトル〉自身もそうであったとしたら・・・それは何よりも辛い『宣告』になる。
――・・・それに・・・
《伊豆(ココ)》に来るまでにずっと思い悩んでいたコトがあった。
どうしようか訊くべきか躊躇(ためら)っていたが、思い切って聞いてみた。
「・・・あの―・・・知夏さんの『発作』の《原因》は何なんでしょう・・・?
心身的に『不安要素』が無い限り、簡単には『発作』は起きないと―・・・
以前、知夏さん自身から訊きました。
・・・ここ最近でそんな《出来事》が、『あった』・・・って事ですよね・・・?」
まるで『心当たり』でもあるような〈サトル〉の口振りに、
〈英二〉も少々躊躇いながら渋々答えた。
「―・・・そうだね。無くはないヨ・・・。
キミが何を気にしているのか――・・・判らないでも無いケドね💧」
「・・・『やっぱり』・・・ボクのコト――・・・」
〈サトル〉は、自分が〈知夏〉を危険な目に遭わせてしまった『原因』でなければいいと願っていたが、
本当にそうだったと知り―・・・ショックで項垂れてしまう。
しかし、〈英二〉はそれを『責める』のでなく『気の毒』に思い、慰めた。
「サトル君はかなりの《有名人》だったんだね?・・・まぁ木崎の《息子》ってだけで、既に充分そうなんだけれど(苦笑)。
知夏も深くは考えて無かっただろうから、自分が『原因』で《噂》になっただけじゃなくて、それが《学校》で『問題視』されてると知った時には、
キミの《学校》にまで(笑)乗り込んで行きそうな勢いで憤慨してたんだ・・・(苦笑)」
「・・・まさか、ウチの学校の《女子達》に何か『嫌がらせ』とかされてたり――・・・」
そう言って青褪める〈サトル〉の様子に、
〈英二〉は即座にそれを『否定』した。
「いや、多分それは無かったと思う。『嫌がらせ』を受けて黙ってるような《娘》じゃないからね?(笑)――・・・ただ・・・💧」
「・・・ただ・・・?」
「・・・それ以降、キミが《店(ウチ)》に顔を出さなくなった事をヒドく気にしてたヨ💧
『嫌われてしまったんじゃないか』って落ち込んでいたし、
キミが唯一・・・《ダイブ》出来る場所だったのに『自分のせい』でそれを奪ってしまったと――・・・」
「そんなっ・・・‼️💦」
〈英二〉の言葉に〈サトル〉は絶句する。
「・・・ボクは―・・・今回の事で《父さん》にもスゴい迷惑を掛けてしまいました・・・。
ひょっとしたら知夏さん達にもそれが及んでしまうんじゃないかと思うと『怖くて』・・・
《お店》に顔なんて出せなかっただけなんです・・・。なのに――・・・」
《相手》に良かれと思った『行為』が逆に〈知夏〉を『不安』にさせていたと知り、
〈サトル〉は『自責の念』で今にも押し潰されてしまいそうなくらいの、苦渋の表情で唇を噛み締めた・・・。
「・・・さぁ、《駅》に着いたケド―・・・。」
〈英二〉はゆっくりと車を止めるが、
「どうする?・・・サトル君の《気持ち》は、キミ自身で・・・直接、知夏に伝えたいんじゃないのかい?」
隣で《声》を必死に押し殺して泣くのを堪えていた、その〈サトル〉の『健気』で尚且つ『純粋(ピュア)』な姿があまりにも愛しくて、〈英二〉は素直に《娘》を想うこの少年を迎え入れてやりたかった。
「・・・はいっ。お願いします―・・・っ‼️‼️」
・・・そう口にした途端、
大粒の涙を溢して泣き出した〈サトル〉の頭を軽く撫でると、
「ヨシ‼️・・・じゃあ《病院》に戻るか‼️」
〈英二〉は駅のロータリーをぐるりと周りそのまま《病院》へと車を走らせた―・・・。
再び〈知夏〉の《病室》へ戻った頃には、
さっきよりは『意識』がしっかりして来たのか呼び掛けにも反応して、
空を見るようではあるものの『認識』は出来るみたいだった。
「・・・サトル君だぁ―・・・」
《酸素マスク》で声が籠るが、〈知夏〉は嬉しそうに目を細める。
「・・・ゴメンねぇ・・・《学校》・・・大変だったんでしょう・・・?―・・・もう・・・大丈夫ぅ?」
「ボクは、『大丈夫』。
・・・だけど、知夏さんは――・・・」
「エヘヘ・・・ドジっちゃったぁ・・・💧」
弱々しくも明るく振る舞おうとする〈知夏〉に〈サトル〉は胸が痛かった。
「・・・私の《(ウエット)スーツ》をねぇ・・・(手術時に)バラバラに切られたんだよ?・・・ヒドいよねぇ💧・・・アレ超高かったのにぃ・・・。
きっと、もう―・・・《パパ》は買ってくんないから・・・私、《ダイブ》・・・出来ないんだろうなぁ・・・💧」
「ボクが、買ってあげる‼️」
〈サトル〉の言葉に、
〈知夏〉は驚き・・・大きく目を見開いた。
「・・・『今すぐ』は無理だけど💧
ボクが《アルバイト》出来るようになったら
必ず買ってあげる。・・・そしたら、また『一緒に』潜ろう‼️
――・・・もう、絶対。知夏さんを『不安』にさせたりしないから・・・っ」
その《言葉》を聞いた瞬間、
〈知夏〉の頬に涙がゆっくり伝う。
「―・・・いいの・・・?私が、『相棒(バディ)』で・・・」
〈サトル〉は〈知夏〉の不安げな気持ちに答えるようそっと手を握り、
「もちろん。・・・だから、諦めたりしないで?『少しの間』だけ・・・ガマンしてね?」
「・・・うん、うん。
―・・・ありがとう・・・嬉しい・・・」
優しくもしっかりと握り締めてくれているそこから、〈サトル〉の『想い』まで温かい感触と共に『実感』出来る。
それが《麻酔》による『夢心地』で無い事を確認するように、
〈知夏〉もまたしっかりと握り返すのだった――・・・。
『術後』の経過は良好で、
比較的早い時期に『退院』した〈知夏〉は、
それ以後―・・・〈サトル〉に《ダイビングスーツ》を『プレゼント(笑)』される日を夢見て、〈英二〉のサポート役に徹している。
――・・・そして。
〈亮〉が《日本》での『仕事』をする為に帰国したのも、ちょうどそんな時期だった。
その『出迎え』には〈サトル〉だけではなく〈英二〉達、《父娘(おやこ)》の姿も見せている。
〈木崎亮〉の《FAN》である〈知夏〉は、
《小学生》の頃・・・自分の《母》の『葬儀』で一度だけ〈亮〉に会ったきりだと言い、
この数日前から珍しく『緊張』しているその様子が何だか妙に『可笑しい』と、
ずっと〈サトル〉に「クスクス」笑われているのが悔しかった。
「・・・あ‼️《父さん》っ‼️‼️」
素早く〈亮〉を見付けるや大きく手を振って迎えたが、その《父》に続いて懐かしい《スタッフ》の面々に気付くと、
〈サトル〉は満面の笑みで「皆っ‼️こっちだよっ‼️」と流暢な《英語》で呼び掛け駆け寄った。
その姿に《メンバー》も気付くと、
一斉に〈亮〉よりも先に(笑)、一目散で〈サトル〉の元へと駆け寄り、
この『再会』の喜びを手荒い《挨拶》で次々と交わして行く。
「しばらく見ない間に、大きくなったナ‼️」
「《日本》に帰って『色白』に戻ってると思ったのに、やっぱり『黒い』まんまじゃないか‼️(笑)」
「チームの《アイドル》が居なくなってから《おっさん(笑)》ばかりで『華』が無くてさぁ~(笑)」
各々が〈サトル〉に声を掛けて行く中で
一人が淋しく、こうも呟いた。
「・・・あの後、ケリーも居なくなっちまって―・・・オレ達大変だったんだぜ?
Mr.キザキ・・・《リーダー》に随分と『負担』ばかり掛けちまって―・・・💧」
「・・・きっと、今のサトルに一番逢いたかったのは〈ケリー〉だったろうナ・・・」
その《言葉》に皆が『しんみり』する中〈サトル〉も、思わず目頭が熱くなって泣きそうになり、咄嗟に俯く。・・・と、
「・・・バカ。何て《カオ》してんだ💧」
そんな〈サトル〉の頭を、後ろから小突くように撫でて来た〈亮〉は、
そのまま〈英二〉達の元へ行った。
「・・・この夏は《息子(アイツ)》が随分と『世話』になったみたいだナ。ありがとう」
「いや、コチラこそ。《娘》の面倒を見て貰って(笑)、オレは『大助かり』だったんだ」
〈英二〉の言葉を聞き、
隣に居た《娘》に視線を向けると〈亮〉と目の合った〈知夏〉は、頬を赤らめ・・・はにかむと軽く『一礼』した。
「・・・ずっと木崎さんの《FAN》でした❤️
今日はお逢い出来て光栄です‼️」
差し出された〈知夏〉の手を握ると、
「・・・驚いたナ💧
以前、キミを見た時よりも―・・・〈莉緒(りお)〉・・・キミの《お母さん》に、
こんなに似てくるだなんて―・・・」
〈亮〉のその《言葉》と『握手』に〈知夏〉は感動して思わず涙ぐむ。泣き出してしまわない内に、と話題を変えた。
「この夏、サトル君と何度か一緒に潜りましたが、彼の『游ぎ』に木崎さんの《仕事》の素晴らしさを感じて・・・何だか『体感』出来たような気分になりました❤️」
〈知夏〉がそう言うと、
〈亮〉は途端に優しい《父》の顔になり嬉しそうに微笑んで、
「・・・ありがとう。・・・でも、オレの《仕事》はオレの『才能』だけど、
《息子》の游ぎはアイツの『本能』だ。
このオレも到底、敵(かな)いっこ無いんで💧正直、かなり『嫉妬(笑)』しているんだがネ💧(苦笑)」
《我が子(サトル)》を『溺愛』する〈木崎亮〉の意外な一面に触れ〈知夏〉は親しみを感じたが、
側で聞いていた〈英二〉はニヤニヤと笑い
「あの〈木崎亮〉が、まさかこんな『親バカ(笑)』になるとは、誰も―・・・。
夢にも思わなかっただろうなぁ・・・(笑)」
と、茶化すと・・・たちまち〈亮〉は赤面し誤魔化すように『咳払い』をして笑いを誘っていた。
『・・・やっぱりいいなぁ・・・この《雰囲気》』
〈サトル〉は〈ケリー〉が居た頃の感じを思い重ねる。
〈亮〉へフランクに『悪態』を付ける人間なんて、限られているだろう・・・。
その『昔からの馴染み』のある者だけに許されている《特権》は、
〈サトル〉からすれば―・・・《勲章》さながらの、なかなか手に出来ない『憧れ』で羨ましい限りだ。
そう感じていた瞬間。
突き刺さるような『視線』に気付き、
振り向く先には―・・・自分を睨み付ける見慣れない《スタッフ》の一人が居た。
《スパニッシュ》系の褐色の肌をした若いその《青年》と目が合った〈サトル〉は、
直感的に彼が《父》の『恋人』だと悟る。
「・・・あの人も《スタッフ》なの?」
〈知夏〉に声を掛けられ我に返るも、
「何だか『カンジ悪い』ケド―・・・💧
サトル君が『ワイルドな青年(笑)』になったらあぁいう風になりそうかもね?(笑)」
そう何気に口にした〈知夏〉の言葉に、
〈サトル〉はどうしようもない位の『嫌悪感』が沸き上がり、青褪めてしまう。
「・・・サトル君?《顔色》悪いよ⁉️・・・具合でも悪い?💦」
さっきまでニコニコしていた〈サトル〉の《様子》が『おかしい』と気付いた〈知夏〉が心配して声を掛けたのだが、
逆に、益々その《表情》が暗くなり・・・辛そうな様相に戸惑う〈知夏〉に、近くに居た〈亮〉も反応し、「おい、大丈夫か?」と〈サトル〉に声を掛けた。
が、触れようとした瞬間―・・・不意に『無意識』だったに違いないが、スッと避けられてしまう。
「・・・大丈夫。・・・心配しないで・・・💧」
あからさまな・・・取り繕った〈サトル〉のその笑顔に、〈亮〉は離れた先で此方を窺う《彼》の存在を『察した(であろう)』《我が子》の『返事』だと、解釈し――・・・。
小さく《溜め息》を吐くと『観念』したようにただ一言。
「・・・スマン・・・」
そう言い残し〈サトル〉から離れた。
――・・・これも『嫉妬』なんだろうか?
幼い頃、《仕事》の『打ち上げ』や人の集まる席へ連れられた時、側にいる自分の横で〈亮〉の《腰》に『馴れ馴れしく』手を回して来る《男性》が『大嫌い』だった。
だから、それを見付けるや否や(笑)駄々を捏ねては〈亮〉をその場から遠ざける事を、よくしていた。
また〈亮〉も心得たモノで、
その《タイミング》を計るように〈サトル〉を抱き上げ、そのまま《会場》を脱け出す事もしばしばあり―・・・。
毎回。
二人、示し合わしたように微笑(わら)い合うのが堪らなく『嬉しかった』事を思い出す。
・・・しかし、やがてそれが《父》ではなく成長した〈サトル〉自身に周りからの『好奇』の視線と共に『行為』まで及び始めると今度は〈亮〉が《息子》を護るべく側から離れる事をしなかった。
今にして思えば―・・・
随分と『酷なコト』をしてしまったモノだと
〈サトル〉は申し訳ない気持ちになる。
〈亮〉自身の意思だったにせよ、
突然『子持ち』になった挙げ句に『恋愛』の自由まで奪われてしまった〈亮〉にだって、
『性欲』はあったハズだ。
いくら『ストイック』だったにしても、
己れを律し《我が子》の為に・・・変な《噂》までが『流布』されてしまった、
あの状況下で――・・・一体、《父》はどんな思いでいたのだろうか―・・・?
〈亮〉達一行は《出版社》で『打ち合わせ』があるとの事で、
夜にまた《都内》で落ち合う『約束』をし一旦別れた。
〈サトル〉は〈英二〉達の車で帰っていた
が、窓の《景色》を眺めたまま・・・未だ一言も発する事も無い様子に、
〈知夏〉もどう接していいのか悩んでいると不意に、声を掛けられる。
「・・・もし英二さんに、新しい《彼女》が出来たら―・・・知夏さんはどうする?」
突拍子も無い《質問》に、
〈知夏〉は面食らうも・・・真剣に空を見つめながら考えていた。
「・・・う~ん・・・💧そうだなぁ―・・・💧
別にそれは『いい』んだけど、私の目の前で『イチャイチャ(笑)』はして欲しく無いかも💧・・・(苦笑)」
そう言って微笑むが、
それに対して尚も『真顔』で〈サトル〉は訊ねる。
「・・・それって・・・『妬きもち』?」
「そうねぇ・・・(苦笑)。『嫉妬』かもね?」
〈知夏〉は素直に答えた。
「だって『私のパパ』は〈伊藤英二〉だけなのヨ⁉️・・・《世の中》には他にたくさん《男性》がいるのに、どうして⁉️―・・・って(笑)、
思っちゃうわヨ💧
私には未だ未だ《パパ》が『必要』だもの❤️《彼女》が出来ちゃったりしたら、何だか甘えられなくなりそうだから―・・・💧」
そこで、二人の話を聞いていた〈英二〉が口を挟んだ。
「・・・じゃあ、オレが『どうしても《彼女》が必要だから再婚する』って言ったら、
知夏はどうするんだよ?(笑)」
《ミラー》越しに、
後ろに座っている《娘》に意味深な笑みを浮かべると、恨めしそうに《父》を見る〈知夏〉の顔がそこにあった。
「・・・だから反対はしてナイじゃない💦―・・・ただ、私の前で『ベタベタ』されたく無いだけよ💧・・・だって、それって《私》だけ『蚊帳の外』みたいなカンジなんだもの💦」
「アハハハ‼️」
《娘》の『本音』を聞いて大笑いした〈英二〉は、今度はそのまま同じように《ミラー》越しから〈サトル〉に目線をやり、
「《女》ってのは『厄介』だろ⁉️(笑)
《娘》の意見なんて、何の『参考』にもならんから聞くだけ『ムダ』だぞ?(笑)」
そう進言し、
更に〈知夏〉を怒らせても笑っていたが、
〈サトル〉はこの二人の『やり取り』を聞きながら、《自分》と〈亮〉との『関係』で当て嵌め考えていた・・・。
『・・・《父さん》が―・・・《彼》を必要としているのなら――・・・。
《ボク》は、どうすればいいんだろう・・・』
《父》と離れて暮らしている今の自分では『出来ない事』が多過ぎる。
―・・・それに、
《恋人》だからこそ『出来る事』・・・してあげられる事のほうが、沢山あるんじゃないか―・・・と考えると、
《息子(自分)》の『嫉妬』なんて、如何に《父》の為にならないかを〈サトル〉は改めて思い知った。
そこに至った時に、
『・・・あの《青年(ひと)》は・・・《父さん》の事を、どう思ってるんだろう―・・・』
途端に、あの《青年》と会って話をしてみ
たくなって来た。
その時、
「・・・もう❗️💦サトル君からも、何とか言ってやってよっ‼️💦」
隣に座る〈知夏〉の声で我に返った〈サトル〉は、
「充分に『参考』になりましたよ?(笑)
・・・思わずボクが、英二さんに『妬きもち』を焼きそうになりました💧」
と、コトもなげに言い(笑)、
〈知夏〉は真っ赤になって固まり〈英二〉は嬉しそうに目を細めた。
「・・・参ったナ(苦笑)。そういうコトをシレっと言って退けるのは『木崎譲り』じゃないか(笑)」
「やっぱり似て来るんでしょうか?(苦笑)
・・・ボクも、《父さん》みたいにカッコ良くなれたら嬉しいケド―・・・💧」
そう言う〈サトル〉に、
「サトル君は、もう充分よ‼️💦
これ以上カッコ良くなられたら――・・・」
〈知夏〉が慌てて『フォロー』しようと口にしながら、自ら『墓穴(笑)』を掘っているコトに気付き、言葉を無くしていると、
「・・・さっきの話で判ったろ?(笑)
な?《娘》は《妬きもち》焼きだから、大変なコトになっちまうゾ?(笑)」
すかさず〈英二〉がそう〈サトル〉に『忠告』した。
「もうっパパ‼️・・・ヒドいっ‼️‼️」
みるみる内に、見た事も無い程に《赤面》した〈知夏〉の叫び声に《車中》は笑いに包まれ、
その雰囲気に〈サトル〉は救われた気がしたと同時に、今夜顔を合わせる事になるであろう・・・あの《青年》と、
どう話が出来るのか―・・・思いを馳せていた―・・・。
(※)【減圧症】
《ダイバー》に起こりやすく《潜水病》とも呼ばれる。
ダイビング中に《脳》や《体内》に溶け込んだ《空気タンク》内の『窒素』が過剰に残ったままの状態でいると、
ダイビング後に《地上》でそれらが『膨張』し『激痛』や『めまい』、
『だるさ』を始め『視覚異常』や『皮膚の痺れ』などの症状を伴う。
但し、これらは『軽症』の場合で、
『重症例』では《知覚障害》や《運動障害》までになり『長期治療』を要する危険な状態にもなり得るばかりか、
場合によっては死に至る《ケース》もあるので《ダイバー》が最も『注意』を必要としている病状である。
紺碧の海女(マーメイド)《外伝》~Satoru~ さいたに じお @jio_paradise
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