命の火

雨世界

1 命はどこにあるんだろうね?

 命の火


 プロローグ


 命はどこにあるんだろうね?


 本編


 ……あったかいね。……うん。

 私たちいつか幸せになろうね。

 ……うん。


 雪の降る夜。


 小さな赤いレンガの家。


 あるところに幼い姉妹が二人だけで、小さな赤いレンガの家に住んでいた。


「ただいま」

 そう言って、白い雪の積もったフードをかぶった姉は隙間風の吹く、おんぼろの木の扉を開けて、姉妹の家の中に帰ってきた。

「あ、おかえりなさい」そんな姉の姿を見て、留守番をしていた妹はにっこりと笑って姉に言った。


 季節は十二月。寒い夜。雪の降る夜だ。


 二人の住んでいる赤いレンガの家はぼろぼろで、玄関のおんぼろの木の扉だけじゃなくて、壁とか、天井とか、がたがたとなる窓の隙間とかから、びゅーびゅーと少しの隙間風が部屋の中にずっと吹き込んでいた。

 だから、家の中は、(外ほどではないにしても)とても寒いままだった。

 妹は寒さに震えるようにして、ぶるぶると、椅子の上に一人で座って、(途中まで家の中の掃除をしていたあとがあった)毛布のしたでその小さな体を震わせている。

 

 妹の手は両手とも真っ赤になっている。ところどころ擦り切れて、赤い血が滲んでいるところもあった。


 姉は荷物をおくと、妹のそばに近寄って、そんな妹の真っ赤な両手を自分の冷たい白い手で、ぎゅっと覆うようにして、握りしめた。


「ごめんね。今日は、すごく寒かったでしょ? 早く帰ろうと思ったんだけど、どうしても仕事が早く終わらなくって」

 すまなそうな顔をして姉は言う。(姉は工場で働いていた。自由時間もほとんどなく、早く帰ることなんていつもできないことだった)


「ううん。大丈夫。全然寒くなんてなかったよ」にっこりと笑って、ぶるぶると震えながら、妹は言う。

 妹は姉に嘘をついた。(本当はすっごく寒かった)それはもちろん、頑張っている姉に余計な心配をさせないためだった。


 妹の顔は真っ赤だった。(まるでりんごみたいに赤かった)


 姉は妹が風邪を引いていないか、心配になって妹のおでこに手を当ててみた。……熱はないみたい。……よかった。姉は心底ほっとした。(薬を買ったり、病院に行くお金なんてないからだ)


「ちょっと待ってね、今、『暖炉に暖かい火をつけるから』」にっこりと笑って姉は妹にそう言った。


 姉妹の暮らしている小さなおんぼろの赤いレンガの家には、おんぼろの家に対して、すごく立派な(おんぼろであることには変わりないけど)暖炉があった。それは姉妹の両親が、この家と一緒に姉妹に残してくれた、姉妹の宝物だった。

 

 姉はすぐに、暖炉の横にある薪の束から薪を「よいしょっと」と言って、数本手に採って、それを暖炉の中に慎重に山を作るようにして組んでおくと、そこに大切なマッチを一本すって火をつけて、それを暖炉の中に投げ入れた。


 するとやがて、薪の山の中で小さな火がついて、それからその火はすぐに大きく、めらめらと暖炉の中で燃えだして、暗かった部屋の中を、暖かな明かりと温度で包み込んでくれた。


 その暖炉の中で燃える希望のような火の光景を姉妹は暖炉の近くに座って、二人並んで、じっと見ていた。(二人の顔は火の明かりの色である、オレンジ色に染められていた)

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