エピローグ
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「翠先輩がバカップル化していて羨ましいです」
放課後の準備室。
いつものように翠先輩が一方的に惚気て消えた後、桜さんがそんな台詞を言った。
「私なんか今回の疫神騒動で冬休みだったのに安浦先輩と会えなかったんです。冬休みこそ進展させようと思ったのですけれど」
「桜は遠距離恋愛だから理由がつくけれどな。近くても進展しない連中もいるぞ」
こら大和先輩、俺の方を見てそんな事を言うな。
「そうなんですよ。ダーリンともよく考えると全然進展していないんですよね。少しは間違いがあってもいいと思うんですけれど」
こら愛梨何を言っている。
もう暫くこのままでもいいって言ったじゃないか、なんてことは無論言えない。
「やっぱり既成事実を作ってしまうのが一番早いと思うわ。具体的には短絡路で相手の寝室に忍び込んで、意識混濁の魔法をかけつつ身体をいじって」
こらこら有明透子何を言っている。
「それで既成事実を作れるものなんですか?」
「うーん、私は女の子相手しかしたこと無いしなあ」
何だかコメントに困る会話が展開されている。
まあいいか、俺は俺で勉強に集中しよう。
そう思ったのだけれども、
「何だったらその作戦、愛梨が実行してみたらどうだ。そうすれば上手く行くかどうかわかるだろう」
と聞き捨てならない台詞が耳に入ったので仕方なく反論。
「頼みますから学校内で犯罪教唆するのはやめてください。だいたい他人のことより先輩自身はどうなんですか。噂とかは聞いたことないですけれど」
「魔女は寿命が長いからな。そのうち見つけるさ」
そういえば前にも胸は成長途中だから100年待ってくれとか言っていたよな。
なんて思ったらボールペンが3本飛んできた。
全く勘がいいよなまったく。
ん、待てよ。
「そう言えば前に大和先輩、寿命が長いと今も言いましたけれど戸籍とか勤務先とかはどうするんですか?」
今後の為に聞いておこうと思ったのだ。
「何だ正利知らなかったのか。その辺に使える公的な制度があるぞ。住民票書き換えとか戸籍改変とか卒業証明書年度変更とかさ」
何か何処かヤバそうな雑誌やWebページに載っているような……
「それってアングラな方法じゃないですよね」
「ちゃんと国がやっている事業だぞ。Webにも載っているから確認してみればいい。対魔討伐免許か亜人・能力者認定カードの本人確認が必要だけれどな」
一応討伐免許は定期入れに入っているから大丈夫だ。
「何処にあるんですか」
「宮内庁の対魔討伐免許のところの『特典』欄からリンクがある」
全然知らなかったな。
そう思いつつスマホでちょいちょいと確認。
リンクを踏んだ後にカード認証があったのでスマホ背面にカードをかざす。
おっと、新しいページが出て来た。
順にざざっと読んでみる。
うーむ。
「結構至れり尽くせりですね」
『普通の数倍生きる方々へ』というコーナーに制度が書いてあった。
年齢と見かけが一致しない場合の戸籍・住民票・免許証等書換サービスや提携大学等との卒業証明書年度書換サービス等。
きめ細かくバックアップがあるようだ。
『年金及び国民健康保険料等は書換後書類の年齢に応じて取り扱われます』等の注意書きもあるけれど。
「能力者や亜人はそれなりに色々必要な場合が多いからさ。疫神の時も大分現場に行っているようだし、他にも霊的侵略から霊的事故とか表に出ていないだけで活躍している場面は結構あってさ。そういう場合にいざという時に備えて登録して貰っている訳だ。その登録の見返りというかまあそんなもんだろ」
「表向きは能力者や亜人の人権」
「まあそうだけれどさ。日本は亜人や能力者に対する偏見があまり無いし、そういう面でもおおらかというか過ごしやすいんだろ。本来西洋由来の魔女だの獣人も結構日本に亡命していたりするしさ」
「ユダヤ教の流れの一神教が諸悪の根源」
「アレで救われている人もいるから私はそこまでは言わないけれどな」
まあ川口先輩が言っている事の意味もわかるけれど。
ん、待てよ。
なら俺、そんなに頑張らなくてもいいのかなとふと思う。
元々俺が頑張っていたのは『長い長い老後の為に金を稼ぐ為』だった。
でもこんなサービスがあるならそこそこの稼ぎでも何とかなるよな。
ただせっかくここまで頑張ったのだ。
なら見栄と今後の為にもやっぱり大学はいい処を目指したい。
それに卒業証明書書換なんてサービスがあるのなら、年代が変わっても存続していて優秀そうな大学に行っておいた方がいいだろう。
また学歴偏重社会が来ても安心だ。
でも待てよ、愛梨の奴確か
俺も同じような事が出来ればほぼ一生全てをニート出来るぞ。
そう思って、そしてすぐ考え直す。
いつまでもそんな時代が続くとも限らないよな。
運が悪いと世紀末救世主伝説とかの時代になるかもしれない。
いやそうしたら余計学歴はいらないな。
でもまあいいか。
深く考えず、その時その時まず最善を尽くせば。
そんな訳でで俺の基本方針は変えない。
高校生の本分は勉強だ、取り敢えずは。
でもたまに愛梨とかここの連中と遊ぶくらいはいいだろう。
あくまでもたまにだ、毎日じゃないぞ。
「さて、冬合宿がつぶれたので春合宿の話だ。日本国内では疫神はほぼ消えたが海外はまだそうではない。ただ日本で行った儀式の影響で他の疫神も大分弱体化している。出元の某国は再パンデミックだの水害だの蝗害だの酷い目にあっているらしいけれどな。それが儀式のせいかどうかは別として。
さて、日本国内がほぼ終わったので今度は海外で疫神討伐ボランティアを大々的にやろうという話が出た。高対連及び青対協も含む日本全体での話だ。事前に訓練が3日入るけれどそれもいい経験になるだろう。更に言うとボランティアと言っても訓練期間以外は1日5千円程度は出してくれるらしい」
「でも疫神相手だと俺とかは体質的にいまいちですよ」
俺の台詞に先輩はにやりと笑みを浮かべる。
「愛梨の家の疫神を祓う為に自爆した馬鹿がいるらしいけれどな。高対連や青対協主催の事前訓練会で、体質的に疫神相手の魔法が使いにくい者でもそれなりの戦力になるよう鍛えてくれるそうだ。訓練の3日間はバイト代は出ないが食事は一応ついてくる。どうだ?」
「ダーリンは勿論参加だよね」
これ愛梨勝手に参加させるな。
でもまあいいか。
「訓練しておくにこしたことは無いですよね」
「他に異議ある奴はいるか。なければまあ、参加の方向で進めるぞ」
ちょっと待ってくれ。
「都和先生には聞かなくていいんですか」
まだ先生は対策から戻ってきていない。
ついでに言うと田土部先生も今日は不在だ。
だが大和先輩はにやりと笑う。
「これは都和先生からのメール情報だからだから問題ない。ついでに言うと訓練後にボランティアが配置される場所もある程度選べるそうだ。ただ希望場所は早い順とか言っていたな」
「なら早く申し込んだ方がいいですよね」
「でもどんな場所があるんだろ」
桜さんや有明透子の台詞に先輩は頷く。
「そう言われると思って取り敢えず一覧もメールで貰っておいた」
大和先輩が出してきた紙を皆で囲んで見る。
本当は春休みは何処かの春期講習でも通おうかと思っていた。
でもまあ、これくらいの遊びもまた必要か。
この学校へ来てもうすぐ1年。
様々な経験した今となってはそう思う。
今を楽しむことも将来と同じくらい大事なのだ。
多分、きっと。
(取り敢えず 完)
Errare humanum est. ~間違いだらけの高校生活~ 於田縫紀 @otanuki
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