ここは一つ、ハッピーエンドってことで大目に見てはくれませんかね
俺が遥を追いかけようとしてすぐに、照夫と朔夜がやってきた。議論が一段落したところで俺の姿がないことに気づき、慌てて探しにきたという。
気絶していた女子たちは照夫に任せた。経緯を話すと血相を変え、二度と君たちに危害を加えないよう責任をもって誓わせると約束してくれた。
照夫との対決から一週間が経った。
相変わらず遥と共に登校し、それを小野や原田にからかわれ、原田と加藤の痴話喧嘩を見て学校生活を送る。今まで通りの日常だ。
家には両親が戻ってきている。
無論、朔夜の姿は、ない。
照夫と一緒に吸血鬼界へ赴いている。予定では今日、報告をしに来てくれるはずだ。
放課後。
部活が休みの遥と下校するため、校門を出ようとしたその時。
「アキヒロー!」
「うおっ!?」
腰の当たりに誰かが飛びついてきた。誰か、じゃないな。声で誰か分かった。
「会いたかったのじゃ~! 一週間離れるのがこんなに辛いとは~!」
朔夜が嬉し涙を流しながらぐりぐり頭を押しつけてくる。
「熱い再会だねぇあっくん。アツアツだねぇ」
喜んでいるようにも怒っているようにも聞こえる遥の声音。怖いからノータッチで。
「朔夜、大げさだぞ。たった一週間で」
「大げさなものか! もう我はぬしなしでは生きられる身体になってしまったのじゃ!」
「こらっ! 誤解されるようなことを言うのはヤメロ!」
校門付近のため目立つ目立つ。なんだあいつらという視線が痛い。
「ぬしに報告じゃ! 照夫は約束を守って我が家、並びに吸血業界へ件の非公式試合の結果を報告したぞ。おかげで我は月読家次期当主へ返り咲いた! ぬしのデビュー戦も一ヶ月後に決定した! 照夫の報告により吸血業界には激震が走ってのぅ。連日連夜ぬしの話題で持ちきりじゃ」
「そっか。まあ、そうなるわな」
予想した通りの展開だ。期待に応えるべく、舌技の訓練を怠らないようにしないとな。月読の名に恥じぬよう、初公式試合で結果を残さないと。
「よって。我は実家に戻ることになった。ここから二駅ほど離れた実家にな」
「そうか。それはよかっ、って、二駅!? えっ!? 吸血鬼界って異世界にあるんじゃないの!?」
「何を言っているのじゃぬしは。そんな非現実的なものあるはずなかろう。吸血鬼は一般社会に溶け込んでおるのじゃ。実家と近くて助かる。毎日アキヒロに会いにくるからよろしくなのじゃ!」
ニッコニッコとそれはそれは嬉しそうに笑っている朔夜。つっこみたいことは色々あるけど、この笑顔を前にするとどうでもよくなってくるな。
「それで、なんだけど」
「ん?」
口調が変わった。態度も、もじもじした怪しい感じに。嫌な予感が。
遥も警戒するように小さくうなっている。お前は野生動物か。
「あのね、その、わたしの両親がね、うるさいの。アキヒロを紹介しろって。ぜひ婿として迎えたいって。だから、週末、うちに来て欲しいんだけど、ダメ?」
小さく首を傾げ、懇願するように上目遣いで見つめてくる。
顔を赤らめている朔夜は実に魅力的で、できるならずっと見ていたいくらいなのだが、隣りから発せられる強烈なプレッシャーがそれを許さない。
「あっくぅん?」
「俺にどうしろってんだぁ! 誰かこの状況の解決方法を教えてくれぇ!」
うん。まあ、総合的に見て、ここは一つ、ハッピーエンドってことで大目に見てはくれませんかね。
変態吸血鬼にされた俺とロリババアと幼なじみ 深田風介 @Fusuke
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