月近く夜に

とはるみな

第1話

月曜日。

 それは学生、社会人共に最も嫌悪する曜日だ。

 

 だが、俺にとってはそうでもない。

 むしろめんどくさいのは日曜日の方だと考えている。その理由は。

 

「ほら来た……」

 

 ブーブーっと鳴り響く己の携帯に、俺は思わず頭を押さえた。

 時刻は午後七時。月曜日を迎えるための心構えも終わり、寛んでいる時間帯に。

 また一件のメッセージが届いた。無論差出人はいつものアイツ。

 

 はぁ、とため息を吐きつつ、携帯を開く。どうせ下らない内容だろうと確信を持って。

 

『ツツツツツ――、学校やだ』

 

 知らんがな……。てかツツツツツ――ってなんだよ……。にしてもやっぱりくだらない内容だったか。まぁ、アイツがまともな内容送ってきたら寒気がするけど。なんて考えつつ指を滑らす。

 

『俺だって嫌だわ』

 

 返信を打ち返して数秒も立たないうちに次の返信が来る。

 

『奇遇ね、私もよ』

 

 ……なんと返せと?

 また返信に困る内容を…………。

 因みに過去にスルーした結果酷い目にあったことは今でも悪い思い出となっているため、スルーの選択肢は俺にはなかった。

 

『それなー』

 

 故に当たり障りない文章を打ち込む。

 

『学校滅びればいいのに……』

 

 今度はスケールの大きな話が来たな。確かに滅びたら滅びたで面白そうだが……。

 

『あり得ないだろ……現実を見よ』

『詭弁は聞きたくないでござる』

 

 コイツッ。俺のメッセージ内容を予測してやがったな。

 

 間髪入れず返してきたバカに、戦慄を覚えながらも、何とか返信を返す。

 

『詭弁じゃねぇし』

『零時の鐘がなったら私は……きっと……死んでしまうのね』

 

 シンデレラのハードモードじゃあるまいし。死ぬわけないだろ。

 

『現実を見なさい』

『嫌よ。絶対に見ないわ』

 

 こんな会話が十二時。彼女がご飯、風呂、に行っている時間を除き、寝るまで続く。

 

 俺はそれを日曜日の返礼と呼び、彼女のことを(月)曜日が近づくとやってくる習性からかぐや姫と内心呼んでいる理由でもある。

 

 

 

 

「へぇー、貴方私のことかぐや姫だと思ってたんだ。私の名前がないと思ったらそういうことねー。ねぇ、皆聞いてー、私かぐや姫だってさー」

「うるさいっ……理由は今言ったばかりだろ…!!!」

「それにしてもかぐや姫かー…………そんな洒落た考え方が出来るならいい加減私のメッセージの法則性にも気づけると思うんだけどな」

「は? …後半よく聞こえなかったからもう一回言ってくれ……」

「いやなんでもないわ。貴方に何度も言うほど私の言葉は安くないのよ。バカ」

 

 月曜日が始まる。

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月近く夜に とはるみな @tohalumina

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