第9話「苦労人の集い……優花×百合音」

「乾杯。そしてお疲れ様」

 偶然にもお互いの暇が合ったある日の夜。私と百合音は居酒屋で女らしさや淑やかさなどとはかけ離れた愚痴とぼやきにまみれた飲み会を開いた。私は仕事さえ上がればその後なんてあげはも大人、放置していても一向にかまわないのだが、百合音の方は住み込みで働く身だ。中々夜の時間が取れることはない。もちろん昼間はもっと暇を取れないので、幼馴染である私たちは数年単位で会うことがなかった。

「しかし、感動の再会も居酒屋だとなんか、薄れるものね」

 生ビールで乾杯したのちに、私はついそんな愚痴をこぼしてしまう。まあ高い店に入るのも気が引けるし、まあお互いの苦労を語るには最適だろう。お嬢様の家での給仕もどうやら大変らしいし。

「それよか優花、前話してた別居提案の件どうなの。このまま終わっちゃう感じ?」

 百合音の質問に、私はため息をこぼしてしまう。このまま、か。このまま終わったら、私も一人暮らしになるわけだ。それは絶対に嫌だ。かと言って誰かがいればいいわけではない。あげはだ、あげはが良いんだ。

「何とか引き止めたいんだけどね……百合音は? あんたのところのお嬢様、最近変わったらしいけど」

 私は仕返しとばかりに問いただす。最近のメールでのやりとりでは、そのお嬢様の変化が寂しいみたいじゃないか。どうだとばかりに顔色を窺うと、案外すっきりした表情で私を見る。

「私もそろそろ子離れしなきゃいけないってことよ。残念ながらね」

 いつから親になったんだとは言えない雰囲気だったが、そういう考え方もあるのかと、互いに励ましながら、私たちは酒を煽った。

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一日ひとつの百合物語:第二期 an=other @an_other

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