第8話「あの日の絆……静流×百合音」

「静流、百合音さんから電話だよ。はい」

 食後の運動代わりのストレッチをしていると、依子が私に電話が来たことを知らせる。そのまま受話器を受け取ると、百合音の声が聞こえてくる。懐かしい、旧友の声だ。

「静流、久しぶり。元気にしてる?」

 受話器の向こうから聞こえる声は、会った時の定型文としてのニュアンスだけでなく、心から気にしているようで、やはり心配させてしまうのだなと、僅かに苦笑する。

「元気だよ。おかげ様で。百合音は?」

「こっちも元気。誰かさんのおかげでお世話は得意だったからね。お嬢様と上手くやってる」

 誰かさんと茶化すように言う声に、笑い半分、申し訳なさ半分。私なんだろうな、昔から目の見えない私を助けてくれたのは百合音だ。私の耳には家族の次に百合音の声が浮かぶし、その声に安心出来る。依子が頼りないのではない。百合音と一緒だった時期が、それ以上に深く長かっただけなのだ。

「依子とは、上手くやれてる? 私の親しい後輩だったんだけど、いざ預けると心配でね」

 百合音の言葉に、私はすぐさま否定する。上手くやれているし、なんなら共依存が心配になるほど距離は近い。しかし、それ故に少し気まずいのだ。百合音は私を社交的にする為に、頼りきっている自分から切り離そうとしたのだから。しかし、寧ろ頼りきりがちな私の傾向は悪化したような気がする。

「あはは、仲はいいんだけど、近過ぎてるかも。前なんておねだりしちゃったし」

 苦笑しながら話すと、百合音の方から溜め息が聞こえる。

「もっと広く、皆と仲良くしないとダメだよ。杖とか使って、誰にも依存しないで生きてる人もいるんだから」

 百合音の優しさゆえの厳しさに、私は何も言えなかった。変わらないと、そう、思う。

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