【2】誰の視点から描くべきか
数年前に上梓した「まずシナリオを書いてから小説に変換する方法 〜シナ説変換法」では、シナリオから小説へ変換する際、「視点(人物)を設定する必要がある」とまで書いておきながら、具体的な中身についてはギブアップしました。(ぶっちゃけ、道半ばでした)。以下は、その不備を補填するものとなります。頑張ります。
▶主人公か、脇役か。あるいは……
前述したとおり、手法としては「人物視点」もしくは「カメラ視点」が有利です。いずれにせよ、登場人物の誰に寄り添うか決めなければなりません。以下に3つほどパターンを考えましたので、それぞれのメリット・デメリットを列記します。
A:主人公
例文1〜3において野球選手=デイヴ、または重病の少年を主人公と考え、どちらかに視点をくっつけるパターンは、小説としてノーマルな仕上がりになります。登場人物の数を減らすことができる(=最低一人が登場すれば成立する)ため、作品を短くシンプルにできるというメリットがあります。
デメリットとしては、主人公を中心に重大な出来事を次々と重ね、あるいは主人公が何もかも解決するという流れになった時、ご都合主義と受け取られかねません。とはいえ「数奇な運命」を描くことが目的なら当然かもしれないし、コンパクトな物語であれば、さほど気にする必要もありません。
また、個性的な主人公を語り手にすると、地の文のトーンが奇天烈すぎて読者が拒絶反応を起こしやすい、という点もデメリットといえますが、それが作品の個性として評価されるかどうかは腕次第といったところでしょう。
さらに、探偵小説では主人公=探偵を語り部にしてしまうと、推理のプロセスが逐一明らかになってしまうので、サスペンスの要素が作りづらい。あるいはその逆もありえます。推理のプロセスをろくに語らず進行する探偵を語り部とする場合、読者との信頼関係が破綻するかもしれない。有名どころでは作家レイモンド=チャンドラーの探偵小説に登場する主人公フィリップ=マーロウが、語り部でありながら事件の種明かしを先送りにするので、不誠実だという批判があります。
#宣伝になりますが、カクヨムにて発表済みの短編はこのスタイルとなります。
『ボーイ・ミーツ・AI』 https://kakuyomu.jp/works/1177354054880656325
作品例:『ロング・グッドバイ(レイモンド=チャンドラー)』『おれは裸だ(筒井康隆)』『化物語(西尾維新)』ほか多数
B:脇役
全編にわたり主人公と行動を供にするパートナーを置き、その人物に寄り添って描写するパターンです。メリットは主人公の並外れた能力や好ましい部分を語り部が客観視しつつ強調することで、読者へのアピールがしやすい点です。探偵小説で好まれ、たとえばアガサ=クリスティの諸作では定番キャラクターとして軍人や牧師が登場し、無能ぶりを晒しつつ、あるいは間違った推理で読者をミスリードしつつ、有能な主人公=探偵の引き立て役となります。と同時に、バカな語り部と賢い主役の会話を駆使すれば、地の文で説明をする必要がなくなる。「どうしてですか」「そんなこともわからないのかね。あれは……」といった会話で進行できるという点にも大いにメリットを感じます。単純で長ったらしい説明は読みにくく、読者を退屈にさせるからです。
メリットをたくさん並べましたが、探偵小説の場合は「謎を解く」というシンプルな目的があり、バディを組んで行動する理由が明瞭です。それ以外のジャンルでは二人が常に行動を供にするもっともらしい理由が必要となり、一人で行動できるAに比べて面倒な手法といえるかもしれません。うまく設計できれば強い構造となりますが、Aと同様、ご都合主義になりかねない危うさはあります。
作品例:『グレート・ギャツビー(スコット=フィッツジェラルド)』『空中ブランコ(奥田英朗)』『涼宮ハルヒの憂鬱(谷川流)』ほか多数
C:群像劇(=シーン毎にAもしくはBを選択)
基本はAもしくはBですが、そのご都合主義っぷりを排除する——言い換えればリアリティ(信頼性や臨場感)を担保するには、複数の人物に別々の出来事を絡ませ、連鎖しつつ物語が結末へ向かうことが好ましい。いわゆる群像劇です。映画や舞台芝居、マンガの大部分はこの形式を採用します。ということは、本ドキュメントが提唱するシナ説変換法においても、シーン毎に代表的な人物を選んで視点を定め直す(視点を移動する)のが現実解となります。
作品例:『幼年期の終わり(アーサー・C・クラーク)』『図書館戦争(有川浩)』『デュラララ!!(成田良悟)』ほか多数
#宣伝になりますが、当方がカクヨムに発表した長編作品はこちらに分類できます。
『ネッ禁法時代』 https://kakuyomu.jp/works/4852201425154872036
……というわけで、本ドキュメントではまずCの群像劇に言及し、次節でデリケートな問題である「視点の移動」をとりあげます。また、視点移動の技法を踏まえた上で、移動させない技法についても詳細に検討します。
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