黒い翼と白い雪

電咲響子

黒い翼と白い雪

△▼1△▼


 市街地に轟音が響き渡る。

 爆弾テロだ。燃え盛る火炎が人々を焼く。狂気にとらわれた化け物モンスターが、爆弾を撒き散らしている。さながらこの世の地獄。


 私は爆弾魔から離れようと必死に駆ける。が、誰かにぶつかり倒れてしまった。

 爆弾魔がせまってくる。もはやこれまで。


 その刹那。


 猛烈な風音とともに黒ずくめの男が私の間際を横切り、爆弾魔を蹴り飛ばした。


「怪我はないか? お嬢さん」


 美しい声が私の耳に届く。


「……はい。転んだときの擦り傷程度で。あっ!」


 爆弾魔が立ち上がり、凶悪な顔面でこちらを睨んでいた。


△▼2△▼


「ほう。あの蹴りを耐えるとはな」


 黒衣に身を包んだ男がしゃべる。


「ならば真の姿をお披露目しよう。でよ、我が両翼!」


 男の背中から翼が生える。漆黒の翼が生える。


「危ない!」


 私は叫んだ。爆弾魔が、大量の爆弾を縛り固めた特大炸裂弾を投げてきたからだ。


「ふん。小賢しい」


 翼の男は右手をかざす。同時に炸裂弾は消滅した。


「次は貴様だ」


 翼を羽ばたかせ、男は一気に対象に詰め寄る。

 そして右手を振り上げ、てのひらを手刀の形にし、


「喰らえ! 無刀真空斬!」


 の体に振り下ろした。


△▼3△▼


 ものの見事に両断された爆弾魔の死体の前で、漆黒の男がしゃべる。


「お嬢さん。この翼の色は黒。しかし心の中は」

「わかっています。艶やかに輝く純白の魂です」


 彼が微笑む。私も微笑む。


「あ、雪だ」


 空から降り注ぐ雪は、彼の黒をも白く染め上げた。


「私の名前はサキ。あなたの名前を教えてください」

「ふっ。俺に名などない。あるのはこの身ひとつだ」


 翼が消えた私の救世主は、きびすを返しその場を立ち去った。


<了>

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黒い翼と白い雪 電咲響子 @kyokodenzaki

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