第6話 パスコードと顔認証

 今日は日曜日なのに早番で7時から出勤だ。

 正直、だるい。

 たった1日は疲れなんて取れるわけがない。

ダラダラとべっどから出るとコタツに入って菓子パンを食べながら軽く化粧をした。すぐに白衣に着替えるからと私服はかなりいい加減で、今日もグレーのパーカーにジーンズそれにベージュのダウンのコートにスニーカー。そしてマスクと言う出で立ちだ。

 冬はいい。

 コートを着れば外に出ても恥ずかしくない格好になる。


 駅のロータリーにあるいつものコンビニでコーヒーを買い、手を温めながら出勤した。

 何かの温もりを感じられるのは、コタツとコーヒーだな。と思いながら早足で歩く。

病院は小高い丘の上に建っていて、駅からも白いタイル張りの病院が街を見下ろす白亜の城のような存在感と孤高の存在であるというプライドを以ってそびえ立っている。

巷では丘の中に地下構造が存在していて人体実験が行われていたとか、たくさんの人が埋葬されていて、数え切れない程の骨が埋まっているなどと言う噂があった。その丘にトンネルを作って短絡道路を作る計画が始まった時は、みんな呪いがかかるとか骨が出てくるんじゃないかとか気味悪がっていた。結局、何にも出てこなかったけど…。

今となっては笑い話だが、裏門から入ると両脇に鬱蒼と木が茂る薄暗い坂道があって、やはり気味が悪いものだった。


病院からは、看護師は人気の少ない裏門からの道は、痴漢が出るので使用を控えるようにと通達があるのだが、近道なのでついつい裏門を使ってしまう。裏門を上りきる手前で病院の地下1階から入る通用口がある。ドアには四角い蓋のついたコード入力盤がある。

 パスコードは「5963」「ごくろーさん」だ。

(きっとどこの職場でもこれだろう。これっているのかな?中に顔認証システムもあるのに…)と思いつつ、(まぁ、私みたいな小物が言っても変わらないとるに足らない問題だろ…)と思いつつ、通用口を入った。


ー過失や事故が起こる時は、こうしたなにげない気づきをスルーした時に起こる。ー


 大抵、医療現場で発生する「ヒヤリハット」「インシデント」「アクシデント」などの事故が起こる前には、「ナンカヘンダナ」とか、「アトデカクニンシヨウ」と思っていることが多い。

 事故というものは、いくつものチェック機構をスルスルとすり抜けて(スルーして)発生する。たまたまちょっと確認を見逃した時に発生したりすると、もう運命なのではないかと思ってしまう。

 あとで、事故についてのレポートを書く時に、「意識を高める」と言う結論にしかならない時もある。

 その「意識」が途切れた隙間をぬって事故は起きる。

 だが、「意識」を張り詰めた状態を続けるのには限界がある。でも、AIはずっと警戒し続ける事ができるのだろう…。


 ー間違いを犯すのが人間なら、間違いを正すのはAIか?ー


 着実にAIが人間世界に浸透している。

 しかし、医療の現場ではAIはまだ人間に勝てないところが多い。


 通用口を入るとすぐに下駄箱があって、更衣室の入り口がある。

 そこには防犯カメラが一台出口の方に向いていて、入ってくる職員の顔認証をしている。

 もちろん更衣室の中には防犯カメラは無い。


 慈旦大学病院の白衣は可愛くて人気だ。修道士をイメージしたデザインのスタンドカラーで胸元まで白、胸の下は紺色。両サイドのの切り込みには赤十字があしらわれている。

 変わったデザインである事もあり、噂ではネットで高く売れるらしい。

 まぁ、そんな事バレたら即クビになるし、買われた先にどんな使われ方をするのか考えるとゾッとする。


 制服に着替えると「病院の人」になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

Nueroclouder(ニューロクラウダー) ニューロクラウダー @neuroclouder

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ