第75話 スローライフするぞ
アリシアの頬と唇に朱がさし、目にも力が籠ったように見える。
「ソウシ様」
ふわりと動いたアリシアが俺の背中に手を回し、しっかりと抱きしめてきた。
「魔力の様子はどうだ?」
「しかと、回復いたしました。ソウシ様、わたくしを許して下さっただけでなく、救い出して下さるなんて。あなた様こそ神の遣わした聖女なのではないでしょうか」
「いや、俺、男だし……」
「そ、そうだったのですか……はしたない真似をし、申し訳ありません」
飛びのくように俺から離れたアリシアが深々と頭を下げる。
あれ、モニカから鋭い視線を感じ無いし、フェリシアからむううって声も聞こえてこない。
こそーっとモニカに目をやると、何だか感じ入ったようにふるふると手元を震わせているじゃあないか。
フェリシアはフェリシアで涙目で俺とアリシアを交互に見つめているし。
「モニカ?」
「夢のようです。
「お、おう……」
よく分からないが、モニカは感動したらしい。
先ほどまでアリシアが復活したことで感じ入った様子だったけど、それがまだ継続しているってことかな。
「モニカ、わたくしは聖女ではありません。ただ、アリシアとお呼びくださいな」
「そ、そんな……
アリシアがモニカへ釘をさすと、現聖女であるフェリシアが抗議する。
「シアは
「シアは立派に聖女を勤め上げていたのでしょう?」
「そんなことありません! シアは
うわああんと声をあげて泣きながら、フェリシアがアリシアの胸に飛び込んだ。
「シアはアリシアのために聖女になったんだ。君を元に戻し、聖女になってもらうためにさ。だから」
「シア……あなたのお気持ち、とても嬉しく思います。ですが、わたくしはソウシ様をこちらの世界に引き込んでしまった罪があります」
「罪なんてないって。アリシアが聖女になってくれれば、シアもモニカも俺だって嬉しいんだから、もう聖女になれるだけの力が無いっていうのなら話は別だけど」
「……はい……」
アリシアは泣きじゃくるフェリシアの肩に自分の顎を乗せ、うつむく。
フェリシアの肩が濡れ、アリシアは彼女を抱きしめ肩を震わせた。
「コアラの見解によると、損傷が自然治癒するまで二ヶ月やそこらかかるらしい。それまでは、シア、聖女として頑張ってくれるな」
「はい!」
「アリシア、君の傷が癒えたら、聖女に舞い戻るか君自身の意思で決めて欲しい。だけど、俺のことは考慮に入れないようにして欲しい。君が民に奉仕する心を失っていないのなら……」
「はい」
俺の言葉にフェリシアとアリシアはコクリと頷きを返す。
「さあてと」
立ち上がって「んー」と伸びをした。
いやあ、いろいろあったけど、うまく行って良かったよ。うんうん。
っと、まだ終わっていなかった。大事なことが。
モニカの肩をポンと叩き、微笑みかける。
「ソウシ様?」
「モニカ、
「はい」
「俺のことはもう心配しなくても大丈夫だよ。こんな不便なところで暮らさずとも、アリシアの元に行ってもいいんだ」
「嫌です」
モニカが首を左右に振る。
「え、うん?」
「アリシア様にはフェリシアが付きます。他にも侍女がいますし、問題ありません」
「でも、モニカはアリシアのことをあんなに慕っていたじゃないか」
「も、もう……う、う」
何か言い辛いことがあるのか、珍しくうろたえたモニカがプイっと顔を背け二階に登って行ってしまう。
◇◇◇
「モニカ―」
彼女を追いかけて二階に来た。廊下にはいないようだ。
呼びかけるも返事が返ってこない。
んー。部屋は幾つかあるけど、いるとすればこの部屋しかないだろう。
ガチャリ――。
物置部屋の扉を開け、一歩踏み込んだ途端にモニカが俺の背中に手を回し抱きしめてきた。
「モニカ」
「わ、わたしはソウシ様といたいのです。アリシア様も、もちろんフェリシアのことも好きです。ですが、わたしはソウシ様といたいのです」
「俺もモニカがいてくれるなら、嬉しい。俺のところに居たままでも本当にいいんだな?」
「先ほども申しました。わたしはソウシ様といたいのです」
ぎゅううっとモニカの腕に力が籠る。
ギシギシと俺の骨が軋む。加減、加減をしてくれえ。骨が折れる。あ、折れたらアリシアに治療してもらえばいいか。
ってそんなことじゃねえ。
「モニカ」
「ソウシ様、わたしと一緒じゃお嫌なんですか?」
ドキリとした。
じっと俺を見上げるモニカの目から涙が流れていたんだから。
嫌なわけないだろ。モニカがいてどれだけ俺の生活が潤ったか。
彼女がいてくれて、どれだけ俺が楽しかったか。心強かったか。愛おしく思ったか。
親友として好きだと思っていた。だけど、このドキドキは……。
フェリシア達が来る前の一幕を思い出し、顔が火照る。
「可愛いです」
「そ、そうかなあ」
「何を想い、赤くなったか分かりませんが、恥ずかしがる様子もとても好きです。スカートをはかれた時とか、そうですよね」
「それはまた違う意味で恥ずかしい」
「ふふふ。これからもよろしくお願いしますね」
「うん。こちらこそ」
背伸びして迫るモニカの顔と俺の唇が自然と近づき……。
ついつい、彼女のおでこに唇を。
「ソウシ様……」
「あ、いや、つい」
「いいんですね、いいんですよね」
「すまん。気を悪くしたら……」
モニカの唇が俺の口を塞ぐ。
すぐに顔を離したモニカは首まで真っ赤になっていた。
「い、行きましょう。皆さんお待ちです」
「うん。そうだな」
モニカの手をそっと握ると、彼女も俺の手を握り返してくる。
彼女が動揺しているから
か、俺の骨が悲鳴をあげた。
その痛みが、なんだか愛おしくなって思わず口元が緩む俺。
「どうされたのですか?」
「ううん。何でもない。明日は何をしようか」
「お肉がもうすぐ」
「そっか、じゃあ、アリシアにヒールをかけてから、狩りに出よう」
「はい!」
お互いに顔を見合わせ微笑み合う。
これからもこんな感じで楽しい日々が続いて行くに違いない。
おしまい
※ここまでお読みいただきありがとうございました! また閑話など投稿するかもしれません!
聖女の替え玉だった俺の聖魔法は植物特化らしい~廃村で楽々隠居生活はじめました~ うみ @Umi12345
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