頑張るかばんさんの話

モノズキ

かばんさんが新作じゃぱりまんを作るお話

ジャパリパーク 研究施設


研究も一段落つき、研究用具を片付ける、

3人で鍋を囲んでいる時のふとした思いつきだった。

「ハカセさんやミミちゃん助手が辛いものが好きなのなら。甘いものが好きなフレンズさんもいるハズ」

そんな突飛な発想からパークガイド、かばんの新味じゃぱりまん開発が始まった。

しかし、フレンズといえど元は動物、一部の食べ物を消化、分解出来ず、死に至らしめてしまうのではないかと思ったが、調べてみると何ら問題はなさそうである。

そう難しい理屈じゃない、決め手となったのはこんな事を考えている傍らで美味しそうに激辛きのこ鍋を頬張るハカセさんとミミちゃん助手、

ラッキーさんのデータベースによるとフクロウも動物の姿では「カプサイシン」という受容体を持たず、「辛い」という味覚を感じないらしい、その情報を念頭に置いた上でたちまち減っていく激辛きのこ鍋を見ていると……心配は杞憂らしいことが分かる。


深夜


2人は夜行性なので朝に弱い…なんてことは無いので2人が寝静まった頃に私はキッチンに立った。新作じゃぱりまんを作っている、なんて事がバレたら皆に配る前に材料が無くなっちゃうからね。

腕に手を当てておもむろにラッキーさんのパネルを触ると電源が付いた、それと同時にラッキーさんが喋りだす

「カバン、ドウシタンダイ?」

「こんばんはラッキーさん、何か甘い物が作りたいんですけど…」

「甘イ物、ダネ、ケンサクチュウ…」

暫くの間ピコピコと電子音が鳴り、ラッキーさんのコンピュータが起動する、この時のラッキーさんはほんのり暖かい

「オマタセ、カバン、今アル材料ヲタカンガ考エルト、“ティラミス”ヲ作ルノガイインジャナイカナ」

「ありがとうございますラッキーさん、“ティラミス”ってどんな食べ物なんですか?」

「レシピヲ表示スルネ」

画面に美味しそうなケーキの画像と材料の文字列が表示された、材料も今ここにある物ばかり、確かにこれなら今の私でも作れそうだ。


ーーーーー(料理する時のBGM)ーーーーー


まずは卵を割ってボウルの中に入れる、その次に砂糖適量、その他諸々を入れて、それらをハンドミキサーで掻き混ぜる、しばらく混ぜると色が変わるからその上から薄力粉やパウダーを入れて、それをまた混ぜる、

こうやって料理をしていると、いつかのヒトもこうしていたのかと思う事がある、ずっと昔にしていたような、私にも「ヒト」の記憶が残っているのかもしれない。前もそう思う事は何回かあったけど、それを相談出来るヒトはもういない、

そう思うと少し悲しくなった。


ーーー中略ーーー


本当は型に流し込んだり断層を作ったりするんだけど…今回はあれこれして冷やした物をじゃぱりまんの中に詰め込む、

……ヒトは案外無計画な動物だったのかもしれないとつくづく思う


まあ、兎に角

試作品じゃぱりまんティラミス味完成!

完成する頃には時計の針は4時を回っていた。

今回完成した試作品は3つ、で、1つは私が食べたから残りは2つ、甘くて美味しかった。

正直満身創痍だがなんだか誰かから感想を聞きたくなった、それも今すぐにだ、この時間に2人を起こす訳にもいかない、

この時間に起きていて…比較的味にうるさいフレンズ…!

深夜テンションのかばんに電流走る、天啓ともいえる発想で1人顔が浮かんだ。すぐさま鞄に袋ずめした試作まんをいれてバスへ向かう、ジャパリバスの椅子に腰掛けて

「あ、そうだラッキーさん、2人が起きちゃうのでなるべく静かに発進できますか?」

と尋ねたがラッキーさんは暫く考えた後

「無理ダヨ」

と言い残し轟音を立てながらエンジンを鳴らし、地面にタイヤ跡を付けながら走り出した。

「ラッキーさぁぁぁぁぁん!!」

必死に止めようとしたがその言葉は届かなかった。



みなみめーりか園


「……で、私を尋ねてきたの?キヒヒッ」

会いたがっていたのは2本の脚を木に掛け、ぶら下がりながら笑うフレンズだった。

彼女はナミチスイコウモリ、通称ナミチー、

白い服と赤いタイツのコントラストにティアラのような頭の模様が良く似合う、腰に付いた大きな羽と口から覗かせる小さな八重歯がコウモリらしさを引き立てている

彼女は「私“血”の味にはうるさいけどじゃぱりまんにはこだわったこと無いなぁ」という言葉を押し殺しながら話を聞いていた、その血もこの姿になってからは飲んだ事がない、あくまでも動物の頃の話だ、

それだけに彼女も新しい食べ物に興味があった、“血”に代わる新しい味なのかと思うとヨダレが垂れてくる、早速新作をのじゃぱりまんを受け取ると本能のままに齧り付いた。

むしゃり、むしゃり、ぺろり

動物の頃には絶対に聞けなかった咀嚼音は何度聴いても違和感を覚える、だが口の中に広がった味わいに比べたらそれはどうでもいい事、“血”とはまた違う甘い味、それは彼女が今まで体験した事の無いものだった。

「……美味しいね、キヒヒッ」

その言葉を発した瞬間にかばんさんの口角が上がった、いかにも嬉しそうな顔だ。

「あ…そうだ、もう1つあるんですよ、どうぞ」

かばんさんはうとうととした素振りを見せながらもう1つじゃぱりまんを差し出してきた、是非受け取ろうと手を差し出すと彼女の目の下に隈が出来ている事に気づいた、暫く寝ていないようで瞼を重くしているかばんさんを見かねて、腰の大きな羽で彼女を支えた、そしてヒョイと持ち上げジャパリバスの座席に乗せた、こうすればラッキーさんが勝手に施設まで運んでくれるはずだ、

ラッキーさんが喋りだし、バスが動き出した、正に思惑通りだ

「ふぁぁぁぁ…」

眠気が写ったか、私も欠伸が出る

もう1つのじゃぱりまんは明日の楽しみにして、今日はもう眠る事にしよう。




「カバン、モウスグトウチャクダヨ、」

バスの振動を揺りかごにしていた私は、ラッキーさんの声で目を覚ました。

「……おはようございますラッキーさん…アレ…?」

車の中で軽く伸びをする、目が冴えると共に何があったかを少しずつ思い出してきた

「……美味しいって言ってくれた…」

と、感傷に浸っていたが、その後すぐに大事な事を思いだした。

「そういえばあのキッチン…料理してそのまま…ねぇ、ラッキーさん、何とかごまかす方法無いかな…?」

たちまちに体温が下がっているのがわかる

「ケンサクチュウ…ケンサクチュウ…アワワワワ…」


「かばんが帰ってきたですよ」

「エンジン音で目が覚めたと思ったら」

「キッチンから甘い匂いがしていて」

「我々が眠っている間に自分だけ甘い物を食べようなんてふてえやろうなのです」

「全くもってずるいのです」

「どうしてやりましょうか、ハカセ」

「どうとっちめてやりましょうかね、助手」

2人のフレンズが野生を解放しているのがここからでもわかる

私は、必死に言い訳を考えていた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

頑張るかばんさんの話 モノズキ @monozukihurennzu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る