第98話 出し抜く方法

「ユースティア様? 一体何をしてるんですか?」


 ユースティアが自身に銃口を向けたのを見て、ドートルは首を傾げる。


「私がお前を出し抜く方法が思いついた。それだけだ」

「? 速度を上げた所でわたしを出し抜くことは……っ!」

「もう遅い」


 ユースティアの狙いに気付いたドートルはそこで初めて顔色を変えた。

 ドートルが止めに入ろうとしたその時には、ユースティアはすでに《刻限》の引き金を引いていた。

 己の速度を限界ギリギリまで高めたユースティアは、瞬きの間にレイン達の近くへと降り立つ。


「ユースティア、一体何を——」

「今は話してる余裕はない。エルゼ、コロネにイリスも、抵抗はするな」

「え?」

「あなたまさか……」

「ユースティア……様?」


 ユースティアが何をしようとしているのか気付いたのはエルゼだけ。それ以外の面々は突然のことにわけもわからず疑問を浮かべるだけだった。

 しかしユースティアが言った通り、全てを説明しているだけの時間はなく言葉で説明するよりも先にユースティアは動き始めた。


「開け」


 短く呟くユースティア。すると、レイン達の背後に小さな黒点が現れる。そしてそれは少しずつ広がり、大きく大きくなっていく。まるでドートルが今開こうとしている東大陸へのワープホールのように。

 

「よし、上手くいった。後は——っぅ!」


 顔を顰めながらユースティアは徐々に広がる穴にさらに力を注ぎこむ。さらに加速して広がっていく穴。そして人をすっぽりと呑み込めるほどの大きさになった穴から、今度は腕のようなものが伸びてきた。


「っ、な、これは」

「大丈夫だ。見た目はあれだが、別に悪いものじゃない。私の力だからな。後少し——っ!?」

「それはダメですよ、ユースティア様」

「ちっ、邪魔をするな!」


 背後から襲いかかってきたドートルの攻撃をいなすユースティア。しかし、途中で邪魔をされたことでユースティアの開いた穴の広がる速度が緩やかになる。


「まさかこの短時間でわたしと同じことができるようになるとは……さすがあの型の娘ですね」

「私をそう呼ぶな!」

「そんなに怒らないでください。私にとってはそれが真実なんですから。ですがそうですかぁ、そこまでして彼らのことを……いえ、彼のことを守りたいんですね」


 ドートルの視線がレインに向けられる。ユースティアはそんな視線を遮るようにドートルの前に立つ。


「たとえ誰であってもあいつには手出しさせない。あいつに何かしていいのは私だけだ」

「怖い目ですね。ですが……そう言われるとなおのこと興味深い」

「させるか!」


 ユースティアの前から忽然と姿を消したドートル。その狙いを察したユースティアは脇目もふらずにレインの元へと向かう。

 そしてそんなユースティアの考え通り、ドートルはレインの前に降り立っていた。


「っ!?」

「どうも。こうして近くで見ると普通の人族の少年なんですけどねぇ。一体あなたの何がユースティア様をそこまで惹きつけているのか。実に興味深いじゃあないですか」


 突然目の前に現れたドートルの視線に、レインは背筋が凍るような感覚を覚えていた。

 ドートルの目は人を見る目では無かった。まるで実験動物を見るかのような目。そこに温かみなどは一切なかった。


「はぁっ!!」

「おっと。さっきまでよりも速くなりましたねぇ。だいぶ力が体に馴染んできたんじゃないですか?」

「黙れ」

「ははっ、そんなに怒らないでください。ちょっとした冗談じゃないですか」

「お前の冗談に付き合う義理はない」


 レインの前に立つユースティアはチラッと横目で生み出した穴を見る。広がる速度こそ若干落ちたものの、すでに十分な広さが確保されてた。


「もう行けそうだな」

「ユースティア?」

「…………」


 レインが呼びかけても、ユースティアは振り返らない。

 その顔を見てしまえば、決意が揺らぐかもしれないと感じていたから。

 そんな自分の心を押し殺しながら、ユースティアはレインに向けて告げた。


「ここでお別れだ、レイン」

 

 

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罪喰らいの聖女 ジータ @raitonoberu0303

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