エリザベス、死す。
1956年 昭和31年 12月
沙羅がこの世界に転生し、早くも20年が経った。やはり相変わらず歳は取らず、博文もいつしか自分の所帯を持ち、沙羅の元を離れていった。
オブザーバーの役目も終え、もうかつてのように自らを神と称し暗躍する事も、各国首脳と論戦を交える事もなくなった彼女は次第に衰弱していった。
「何が神よ・・・・・・何が恒久平和よ!結局、あちこちで紛争は起きてるし、人間なんてそんなものだったの?あんなに尽くしてくれた博さんも結局私から離れていった・・・・・・」
「私は一体どうすればいいの・・・体は限界まで衰弱してるのに死ねない・・・・・・それに、この家には自殺出来るようなものが何もない・・・博さん、その思いやりはいらなかったなあ・・・・・・」
死にたくても死ねない。彼女はこの世界に転生した事を後悔していた。
確かに日米戦の回避や第二次欧州大戦での日本の貢献、その後の日米による世界分配等目的は全て果たされた。しかし、しかし何かが足りない。
「いくら世界を動かそうが、何しようが、ずっと足りてなかった・・・・・・家族・・・・・・そう、生きて帰るって約束したお父さんお母さん・・・この世界にはいないもん」
「ねぇ、神様。私、充分この転生コース満喫したよ?そろそろもう、いいよね・・・・・・」
そう呟くと沙羅は、裸足のまま玄関を飛び出し、銀行の預金を全部おろして、ある場所へと向かう。
「横浜・・・博さんと初めて来た場所。あの時は松岡さんにわがまま言って・・・・・・懐かしいなあ」
「前世で30年、現世で20年・・・・・・もういいよね、さよなら現世」
ダァン
(現世の銃規制が緩くて本当によかった・・・・・・これで今度こそ本当に死ぬのね・・・・・・)
(遺体は東京湾の底・・・・・・エリザベス元大統領死亡の情報は流れない。博さんも私の事はどうかわす・・・・・・れ・・・・・・)
暗い闇の中を沈んでいく沙羅。
(あ、でも本物のエリザベスさんには悪い事しちゃったかも・・・・・・ごめんなさい・・・・・・)
闇に溶ける寸前、本来のエリザベスの魂に謝罪する沙羅。と、再び前回の様な光を感じ、微かに目を開ける。
「あなたが私の身体に入り込んでた子?」
「え・・・リザベスさん?てか、この展開はまた?」
「そうよ、私が本来のエリザベス・ジョンストン。それに、あなたはまだ死ぬべきじゃない」
「今までどこにいたんですか?!それに、死ぬべきじゃないってなぜ?!」
「まあ、落ち着いて。私はずっとあなたと共にあったわ。あなたが日本語と英語両方話せたのもその影響。おかげで私もこうして日本語で話せてる。まあ、あなたは元々生きて帰るって強く思い続けてたから、死ねないのよ」
「・・・・・・」
「それに、あなたがピストルで撃ち抜いたのは元々私の体。だから、本当に死ぬのは私よ」
「じゃあ私は・・・・・・」
「言ったでしょ?死ねないって。霊魂管理局だったかしら?そこにまた行ってもらうわ」
「・・・・・・・・・え、えええええええええ!!!!」
「それじゃ、今までありがとうね、沙羅ちゃん」
そう告げると、エリザベスの魂は昇天し、沙羅は再びエリザベスに転生した際の不思議な空間へと降り立っていた。
「ピストルで自殺とか、ウケる。日本人なら切腹だろつって、あ、今はアメリカ人でしたね」
「うざっ、あんた本当に神なの?」
「日本の神は元人間も多いので。死んだらなんか神にされちゃってつれーわー笑」
「で、本物のエリザベスさんの言ってた私は死ねないってなんなの?!」
「あー、それなんですけどねぇ」
防人娘の見る夢は〜戦後編〜[完]
次作 防人娘の見た夢はへ続く
防人娘の見る夢は〜戦後編〜 侑李 @yupy
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