あの長靴のやつ



 1948年12月



 街にはサンタが溢れ、各百貨店のクリスマス商戦も佳境に入る中、沙羅も珍しく街に繰り出していた。



「じんごーべーじんごーべーじんごーおーだうぇー♪」



「一応アメリカ人の癖になんでそんな平仮名なんですか」



「雰囲気よ雰囲気」



「はぁ」



 本当少女みたいなババアだなこの人と思いながら、そんなババアをほっとけない自分も自分だと苦笑いする博文。



「それにしても若いカップルが多いわね。本当に爆発すりゃいいのに」



「ババアのやっかみですね」



 沙羅に一通りボコられた博文は、ボロボロになりながら沙羅の買い物に付き合わされる。



「博さん、クリスマスに欠かせないものと言えば?」



「えー、ターキーにクリスマスプディングにクリスマスツリーに・・・・・・」



「うん、確かにそうね。でも、それら以上に私にとっては欠かせないものがあるのよ」



「と言いますと?」



「クリスマスブーツよ。お菓子入った長靴のやつ」



 前世では昭和30年代頃から日本のお菓子メーカーによって発売され出したクリスマスブーツであるが、この世界では既に昭和17年頃に出現していた。



「はぁ・・・あれ子供が欲しがるもんでしょ?」



 ご尤もである。



「大人でも欲しいもん!お菓子出して履いて遊ぶんだもん!」



「精神年齢が小学生の70歳って恐ろしいですね」



「博さんだって人の事言えない癖に」



「半分あなたのせいですけどね」



「おぅ?!」



「やるかババア!」



 略



「ったく、一応元軍人のくせに私みたいなか弱い女にも勝てないとは」



「か弱い・・・・・・?」



「なんか文句ある?」



「いえ・・・・・・」




 というわけで、デパートの菓子売り場に向かう二人であったが・・・・・・



「えー、殆ど残っとらんやん」



「そりゃそうですよ、もう20日ですよ?」



「くそー、クリスマスブーツってろくなお菓子入ってない割に結構値段すんのに、裕福な帝都市民どもめ」



「まあ物価が上がるのに比例して帝都市民のみならず国民全体の所得も上がってきてますから」



「日米貿易協定でアメリカの衛生ガバガバだけど安価な食料品とか入って来てるから、物価下がると思ってたけどなあ」



「まあ、ドイツ占領も終わりが見えて、ヨーロッパにいた兵士達も続々帰ってきて、需要も多いですから」



「経済は本当によく分からんわ」



「で、どうします?残ってるやつ買いますか?」



「んー、でもなあ・・・・・・」



「もうこの時期はどこの店行っても一緒ですよ」



「そっかー、しょんにゃ」



 というわけで、残っていたクリスマスブーツを3つ程買って帰る沙羅なのであった。


























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