6 星を見上げる

 星を見上げる


「星、綺麗だね。薄明」満天の星空を眺めながら、乾は言った。

『ああ、そうだな』眠たそうな顔をしている薄明が言う。


 薄明は乾の横に、寝そべっている。

 乾はそんな大きな薄明の体に、少し寄りかかるようにして、家の屋根の上に座って、そこから夜の空に輝く、満天の星の光をずっと見ていた。


 たくさんの星が輝く夜。

 本当に美しい、まるで、奇跡のような風景がそこにはあった。


 乾の実家の二階の部屋には、天井裏から抜けられるようになっている、星見台(星を見るための場所)があって、そこに出て、子供のころからよく、乾はこの場所で、白い狼の薄明と一緒に星を見た。


 神域では、晴れた日の夜なら、街のどこからでも、美しい星の姿を眺めることができた。


 でも乾は、自分の家の屋根の上にあるこの星見台から、星を見るのが一番好きだった。


 そこには星の美しさと一緒に、いろんな思い出があったからだ。


 ……もう、ずっと前にいなくなってしまった、お父さんやお母さんの思い出。二人がいたころの家族の記憶。出会ったころのまだ小さかった薄明のこと。今よりずっと若かったおばあちゃんのこと。

 ……泣いてばかりいた私。

 

 そっか。私、ここでよく泣いていたんだっけ。


 そんないろんな思い出がこの場所(星見台)にはあった。


 そんなことを思い出して、乾はにっこりと笑った。


『どうかしたの? 乾』薄明が言う。

「ううん。なんでもない」薄明の体に顔を預けるようにして、乾は言った。


 大丈夫だよ。薄明。


 私はもう泣いてばかりの子供じゃない。


 私には、薄明がいるし、おばあちゃんがいる。


 それだけで、私はずっごく幸せだよ。


 乾は思う。


 夜空に輝く満天の星を見て、そんなことを一人、乾は思った。


 その乾と薄明の見る夜空に流れ星が一つ、流れ落ちた。


「あ、流れ星」乾は言う。

 薄明はその赤い目を開けて、落ちた星を見る。


「ああ。お願いごと。間に合わなかった」残念、と言った表情をして乾は言った。

『なにをお願いしようとしていたの?』薄明は言う。


「そんなの秘密に決まってるでしょ?」にっこりと笑って乾は言う。


「そろそろ、中に戻ろうか。風邪ひいちゃうかもしれないしね」乾はそう言って星見台の上に立ち上がった。

『そうだね。そうしよう』薄明はそう言って、乾と一緒に立ち上がった。


 乾と薄明は木の階段を下りて家の中に戻った。


 乾の願いごと。


 それは、これからもずっと、薄明と、おばあちゃんと一緒にいられますように、と言うお願いごとだった。

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神域 雨世界 @amesekai

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