5 白菊

 白菊


「あなた、この乾神社の娘さん?」

 乾を見て、銀色の髪の大人の女の人は言った。


 その人は白色の紫陽花の模様の入った美しい着物をきていた。帯は薄紫色。頭には赤色の蝶々のかんざしをつけている。

 銀色の髪は腰まで伸びている。その髪を頭の後ろで、紺色の布でまとめている。

 背は高く、体の線は細くて(それなのに、胸とお尻はとても大きかった)そして、顔はびっくりするくらいに美しかった。


 妖艶に微笑むその美貌は、うわ、すごく綺麗な人、と同性の乾でも、どきっとしてしまうくらいに美しかった。


「……は、はい。そうです」

 顔を赤くしながら乾は言う。


「そうなんだ」ふーん、と(乾を観察するようにして)言ったような顔つきをしてその銀髪の大人の女の人は言う。

「私は、白菊と言います。よろしくね、乾神社の巫女さん」白菊は言った。

「あ、えっと、私は乾って言います。こっちは、薄明。よろしくお願いします。白菊さん」乾は言う。

 乾の横にいる薄明はじっと、白菊のことを、赤い目を細めて、見つめていた。


 白菊は乾を見て、それからそんな薄明を見て、にっこりと笑った。


「白菊さんは、乾神社にご用ですか?」

「……いえ、今日はもういいの。今日はちょっと様子を見に来ただけだから」白菊は言う。

「それじゃあね、乾ちゃん。薄明さん」

 ふふっと笑い、白菊さんはそのまま、さっき乾たちが上ってきた石段を下りて、乾神社の赤い鳥居の前からいなくなった。


「……不思議な人」乾は言う。

 悪い人には全然見えないのに、なんでだろう? 白菊さんからは、……すごく嫌な感じがした。


「ねえ、薄明?」

『なんだい、乾』乾を見て、薄明は言う。


「白菊さんのこと、どう思った?」

『ああ、そうだな。とても綺麗な人だと思ったよ』にっこりと笑って薄明は言った。

「あとは?」

『そうだな。胸が大きかった』薄明は言った。

(そんな薄明の感想を聞いて、乾はため息をついた。女性の胸が好きなのは、薄明のいつものことだった)


 まあ、とにかく、……薄明は白菊さんに、嫌な感じを感じていないのか。


 じゃあ、やっぱり私の勘違いなのかな?


 乾はそんなことを思って、首をひねった。


『白菊さんが、どうかしたのかい?』薄明は言う。

「ううん。なんでもない。さ、家に帰ろう」乾は言う。


 それから乾と薄明は赤い鳥居をくぐって、乾神社の中に入っていった。


 その二人の様子を、遠くの森の中から、どこかに行ったはずの白菊が、じっと、その『黄色い目』を細めて、見つめていた。(……まるで獲物を狙う獣、あるいは蛇のように)

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