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乾と白い狼の薄明が並んで歩いて家までの道を帰っていると、街の交差点のところまでやってきた。
そこで二人は信号待ちをする。
信号が赤から青に変わったところで、二人は横断歩道を渡って、交差点を通り過ぎた。
世界は、街は、とても静かだった。
乾と白い狼の薄明のほかに、街の中を歩いている人の姿も、動物の姿も見えない。ただそこには緑あふれる、森と融合したような、広い神域の街の風景がいつものようにあるだけだった。
「今のところ、いつも通りだね」
にっこりと笑って乾は言った。
『今のところはね。でも、油断はできない。『悪い出来事は或る日突然、予想もできないところから突然やってくるもの』だからね』
乾を見て、薄明は言った。
そういうものなのかな? と乾は思う。
(たとえば、さっきの交差点に突然車が突っ込んでくるとか、いつも乗っているバスが事故にあうとか、そういうことだろうか? もしそうなら、確かにそんな悪い出来事を防ぐことはできないだろう。運命に順ずるだけだ)
「まあ、私には薄明がいるもんね」
乾は薄明を見る。
「どんなことがあっても、薄明が私のことを守ってくれるんでしょ?」
『もちろん。そのために私は君のそばにいる』
薄明に赤い目を細めてそういった。
「うん。ありがとう、薄明」にっこりと笑って乾は言った。
(薄明は満足そうにうなずいた)
それから二人は、朝のバス停の前を通り過ぎて、緑の道を歩いて、やがて、坂のある石段のところにまでやってきた。
その石段の上には赤い鳥居の姿がうっすらと小さく深い森の中に見えている。
そこが乾の家である、乾と同じ名前をしている(というか、乾が神社の名前からとって、その名前をつけられたのだけど)『乾(いぬい)神社』の入り口だった。
「もう直ぐ家だね」乾は言う。
『ああ。そうだな』薄明は言う。
「やっぱりなにもなかったじゃない」石段を登りながら、乾は言う。
『なにもないことはいいことだよ。それに、なにもなかったのは、私が君を迎えに言った結果かもしれない』薄明は言う。
「強がっちゃって」薄明の頭を撫でながら、乾は言った。
「でも、ありがとう」
そういって、乾が石段を登りきって、乾神社の赤い鳥居のところまで来た時だった。
すると、その赤い鳥居の前に誰かの人影があった。
見慣れない人影だ。
その人影は、赤い鳥居の前にやってきた乾と薄明の気配に気がついて、こちらを振り向いた。
するとその人は、今まで見たことがない、初めて見る、『銀色の長い髪をした、とても美しい大人の女性の人』だった。
「こんにちは」にっこりと笑って、その綺麗な大人の女の人は乾に言った。
「……こんにちは」突然、その人と出会って、ちょっと戸惑いながらも、乾はそういって、その人に頭を下げた。
(……その人からは、なぜか、とっても、なんだかすごく嫌な感じがした)
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