本当なら朝と同じようにいつものバスに乗って帰るつもりだったのだけど、まあ、たまにはこうして歩くのもいいかな。と乾は思った。(こうして学校帰りに薄明と並んで下校していると、小学校時代に戻ったみたいで少し楽しかったし……)


 乾は人気のない白い歩道の上を白い狼の薄明と一緒に歩きながら、そんなことを思っていた。


 ……それにしても、「未来がわからないっていうのは、変な話だよね。薄明には『未来を見る力』があるんでしょ?」薄明を見て、乾は言う。


『私にそんな力はないよ。未来は誰にもわからない。さっき私が自分でそう言ったようにね』

 赤い目を細めて薄明は言う。


「え? そうなの?」乾は言う。


 白い狼の薄明には、『少し先の未来を見る力がある』、と乾はおばあちゃんから聞かされていたし、乾が子供のころからずっと、乾のそばにいてくれる薄明には、確かに少し先の未来を本当に予知しているかのように、話をしたり、行動をすることがあったから、乾はてっきり、薄明には少し先の未来を見る力が本当にあるのだと思っていた。(中学生になって、未来が見えるって、さすがに少し本当なのかな? って疑ってはいたのだけど)


『ああ。私に未来が見えるような力があると周囲の人たちが思っているのは、私にみんなよりも少しだけ、『いろんな気配に敏感になる性質』があるからなんだ』薄明は言う。


「敏感に? どういうこと?」乾は言う。


『人が、風の変化を感じたり、雨の気配を感じたりするようなものさ。そんな風にして、これから変化する天気のことをある程度予測することができるように、なにか、いつもとは違うことが自分の周囲(神域)で起こっている。そんな気配を感じることがあるんだ。そういうときは、いつも普段とは違う、なにかが起きる前兆になる。……まあ、だいたい嫌なことだけどね』首を降って、薄明は言う。


「それは薄明が狼だから?」薄明を見て、乾は言う。

『そうかもしれない。しかし、それだけではないような気もする』薄明は言う。


「自分のことなのに、わからないの?」乾は言う。

『乾たち人間だってそうだろう。自分のことは、案外自分でもよくわからないことがある』乾を見て、薄明は言う。


 ……まあ、わからなくもないかな。と乾は思った。


「その、いつもとは違う嫌な気配を感じたから、薄明はわざわざ、今日は私を迎えにきてくれたわけだね」乾は言う。


『そうだよ』にっこりと笑って薄明は言った。


「それは、どうもありがとう。薄明」乾は言う。

『どういたしまして』得意げな顔で薄明は言った。

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