2 放課後
放課後
夕焼けの帰り道
「じゃあ、また明日ね、乾」
「うん。また、明日」
にっこりと笑って乾は黛に手を降ってさよならをした。
黛はこれから放課後に陸上部の部活動に参加する。部活動に参加をしていない乾は、中学校が終われば、いつもそのまま家に帰った。
(ただ、乾も遊んでいるわけではない。乾は実家の神社の巫女としてのお手伝いの仕事があり、そのため部活動に参加することはだめだとおばあちゃんから言われていたのだ)
乾が「はぁー」とため息をつきながら中学校の正門を出ると、静かな夕焼けの風景の中、車の走っていない道路の向こう側に『見知った顔の知り合いの姿』を見つけた。
大きな木々の生えている白い歩道の上に大人しく座って、こちらをじっと見つめている『少し大きな、赤い瞳をした不思議な白い狼』がいる。
その白い狼は乾の姿を見つけると、じっとその赤い瞳を細めて乾を見た。
乾は白い狼を見て、不満そうな顔をするけれど、そのまま、信号の青信号を確認してから、横断歩道を通って、白い狼がちょこんと大人しく座っている歩道の上まで移動をした。
「どうしたの? お迎えなんて、小学校のとき以来じゃない。私にはもうお迎えは必要ないよ。私、もう中学二年生なんだからさ」
乾は不満そうな顔のまま、白い狼に向かってそう言った。
『今日は、嫌な感じがする。とても悪いことが起きるような気がするんだ』
白い狼は乾に向かって『そう言った』。
白い狼は口を動かして、確かに乾にそう人間の言葉を話した。しかし、乾は別に驚いた様子を見せない。
白い狼が人間の言葉を話すことは、この『神域においては珍しいことではない』。
なぜなら、『神域において動物は人間と同じように、言葉をしゃべる生き物』だったからだ。
この言葉をしゃべる白い狼が不思議な存在なのではない。
神域においては、言葉を喋らない生き物は、植物(神域のいたるところに生えている、花や木々など)だけだった。
「それでわざわざ迎えにきたの? 薄明。あなた相変わらず『過保護だね』」
ふふっと笑って、(まだ少し不満そうではあるのだけど、やはり心配してくれるのは嬉しかった)乾は言った。
『当然だよ。私は君の『守護者』だからね』にっこりと笑って白い狼の薄明(はくめい)は言った。
(……これじゃあ、守護者というよりも、保護者だよ、と思いながら)「行こう、薄明。家に帰ろう」
そう言って乾は白い歩道の上を歩き出した。
『わかった。気をつけていこう。なにが起こるか、未来は誰にもわからないからね』白い狼の薄明はそう言って、乾の横を歩き始めた。
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