神域

雨世界

1 いつも、そこには君がいた。

 神域


 プロローグ


 いつも、そこには君がいた。


 本編


 私はある日、あなたと出会った。(……それはきっと、運命の出会いだった)


 神域 


 深い森の中にある霧に囲まれた不思議な街。


 朝の時間。


 大きな木の生えているバス停の横で、乾は小説を読みながら、学校に向かうためのバスがやってくるのを待っていた。(バス停の周囲には花と緑がたくさん生えていた)


 乾のほかにバスを待っている人はいない。

 静かな時間。

 乾の一番好きな時間だ。


 空気は澄んでいる。気温も、あまり寒くはない。(季節は春。月は四月だった)

 木々は緑色の葉を宿し、道路はまっすぐ、ずっと向こうの風景まで続いている。


 鳥が鳴いている。

 空は青色。

 風が、吹いている。


 そんな自分の周囲の世界の風景を眺めて、思わず乾は笑顔になる。


 緑で囲まれた街。

 春になると、色とりどりの花が咲き乱れる、空気と、水の綺麗な、緑の中にある不思議な街。(風の音が澄んで聞こえるような、とても、静かな街)

 

 神様の住まう場所。


 神域と呼ばれる街。


 そこに乾は暮らしていた。


 青色のバス停には、白い鳩が一羽だけいる。


 その鳩は誰かの足音を察して、青色の空の中にぱたぱたという音をたてて飛び去っていった。


 するとそのあとで一人の、乾と同じ学校の黒と白の色を基調とした学生服をきた、一人の黒髪のポニーテールの少女がバス停までやってきた。(少女はピンク色のリボンでその髪を纏めていた)

 ポニーテールの少女はそのまま「……よいしょっと」といって、乾の座っている青色のベンチの横に腰を下ろした。

 ポニーテールの少女は乾を見て、にっこりと笑った。


「おはよう、乾。なに読んでるの?」

 ポニーテールの少女は言う。


「おはよう。黛。今読んでいるのは、これ。お気に入りのミステリー小説」赤色のめがねの奥で、にっこりと笑って、読んでいた小説の表紙を黛に見せながら、乾は言う。


「ああ。最近出たやつ。もう買ったんだ」黛は言う。

「うん。ずっと楽しみにしてたから」乾は言う。


「で、犯人は?」黛は言う。(黛は陸上部に所属している運動が大好きな少女で、こういう、さっぱりとした性格をしていた)

「秘密」にっこりと笑って、乾は言う。(黛も楽しそうに笑っていた)


 そんな話をしていると、バスがやってくる時間になり、青色のバス停に時間通りに一台の真っ白なバスがやってきた。それは二人を朝と夕方に、二人が通っている学校、白樺中学校まで送り迎えをしてくれる、いつも二人が利用しているバスだった。

 その白いバスを見て、乾と黛はベンチから立ち上がると、やってきたバスに二人は乗った。(乗客はほかに誰もいなかった)

 そしていつものように、バスの一番後ろの席に並んで一緒に座った。


 乾はバスの窓際の席に座った。二人が席に座るのと同時に、白いバスはゆっくりと発車をした。

 そこから緑あふれる街の風景を乾は見る。


 そこには、いやでも目に入ってしまう、神域の中心に立っている、巨大な(本当に大きな)木のある風景が見える。

 天にまで届きそうな、本当に大きな一本の大木。その木は『神樹(しんじゅ)』と呼ばれているみんなから信仰を集めている大樹で、(つまり、神様の木だ)この緑あふれる神域の風景を象徴するような、存在だった。


 神樹には『本物の神様』が住んでいるらしい。


 そんな話を乾は、おばあちゃんから聞いたことがあった。乾の家は、神域にある神社の家系の家だった。


 乾は神様を信じているわけではないのだけど、(神社の娘なのに)あれだけ巨大な存在を見せつけられると、あの場所に『本当に神様が住んでいてもおかしくない』、と乾はたまに思ってしまうこともあった。


「乾。窓、開けてもいい?」黛が言った。

「いいよ。もちろん」乾は言う。


「では、失礼して」

 黛はそう言って、乾の体越しに手を伸ばして、窓を開けた。

 すると、気持ちのいい透明な風が、バスの中に吹き込んできた。


 あ、気持ちいい。


 その涼しい、清からな風の中で、乾はふとそう思った。(その風の中で、乾は思わず笑った)

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