第6話

ライハは泣いていた。 明確な敵味方が誰か分からないこの状況で感情の処理が追いついてなかった。

せめて父親が何を背負っていたのか。 いつか知りたいと子供ながらに思った。



ユウたちはロイザを埋葬した後、ライハを連れて加治屋キヨに戻った。


「僕はこれから北方の国アレキサンドライトに行きます。 アイさんはどうしますか?」


「もちろんついて行くわ 」


「俺も行く。 あんたについて行けば何か得るかもしれない 」

ライハは立ち上がりユウの顔を真剣な眼差しで見つめていた。


「分かった。 ちょうど銀狼の里に行こうと思っていたから。 それにあんたではないよ。 ユウって名前がある」


「じゃあユウこれからよろしく。 オレはライハだ」


「よろしく。 ライハ…… 君にはこれを渡しておく」


父親の形見である『銀翼の白き双竜』を渡した。 そしてライハは神妙な面持ちで受け取った。



「そういえばそこには何があるの?」


「闇の叡智の手掛かりです」


「そう。 ユウ君はまた何かを知っているのね」

アイさんがさみしそう顔をしている。


「ロイザが銀狼族だったから手掛かりがあると思っただけですよ!」


苦しい言い訳だ。


(だか、もし……もしあの魔女が生きているとしたら……)



僕たちは急いで準備を整え、母国アマント帝国を出た。




山を越え、谷を越えてさらに極寒の中を十日ほど過ぎたあたりで氷河にたどり着いた。


「ユウ君、この氷河の上はさすがに登れないわ。 どうする? それにライハも疲れてる」


確かに百メートルほどの氷の壁がある。 隣でアイさんが呪剣を振り回しているがびくともしていない。 ただの氷ではなさそうだ。


「二人とも後ろ向いてて」


二人が向いたのを確認して魔力を込めるのに集中した。


──鬼眼「断絶」


人の身で吸血鬼の魔眼を構築することがはじめてだっただけに、魔力の消費が激しい。

『断絶』は幻術など精神に作用する魔法に有効だ。


──バリッ、パリン。



何が弾けた音がした。 それと同時にそびえ立つ氷河の壁が崩れ一人分の幅の登り階段が現れた。



「もしかして幻術……? はじめての経験だわ。 それに軽くあしらうなんて」


「全然軽くないですよ!」

目の奥が重い……


「とりあえず早く行こうぜ──」

「待っ──」

アイさんが止めようとしたのもつかの間、ライハが一人階段から転げ落ちた。


そして当然の如く僕たちが巻き添えをくらい全員が氷の地面に強打した──



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勇者の師匠の冒険 かかっ @otyatya

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