第2話 野菜炒め肉入り

「あっの野郎……」


 バックレには腹が立つし。

 飯を食わずに召喚れたから、腹は減るし……


「いまの俺にある選択肢は2つ。さっきの屋敷に戻るか、司祭を探すか……」


 先ほどの状況を思い出すと、俺一人が屋敷に行ったところで何も好転しないだろう。


「とりあえず、あのバックレ司祭を探すしかないな」


 腰をあげて、背伸びをする。


「空気だけは本当に気持ちが良いな〜」


 来た道を、今度は一人で引き返す。


 ゆっくり自分のペースで歩きながら、街並みを見ると、改めて驚かされる。


「まるでRPGゲームの世界だ。本当に異世界に来ちまったんだな俺……」


 いまだに状況を飲み込めてはいないが、少しづつ実感は湧いてくる。


 しばらく歩いていると、自分が召喚された建物が見えて来た。


「あのバックレ司祭、とっちめてやるっ!って、あれ? 扉が開かないぞ」


 扉には、しっかりと鍵が掛かっててた……。


「おい! いるんだろ! 開けろよ! おいっ!」


 ドン! ドン! と握りしめた拳で強めにドアを扉を叩く。


——扉の中からは、一切の応答もない。


「居留守か……これ」


 扉に耳を当てて、中の様子を伺うが……まったく音すらしない。


 どうすることもできずに、扉に寄りかかるようにして座り込んだ。


「本格的に参ったな。海外旅行で一人迷子になった気分だ。いや実際には、もっとマズイ状況なんだが。連絡手段もなければ、土地勘もゼロだ。唯一の頼りにバックレられたからには、他に人を探すしかない」


 いつまで扉の前で座り込んでいても状況は好転しないだろう。

 陽も落ちてオレンジ色に空が、余計に俺の心を焦せらせる。


 建物が立ち並んでいた、先ほど通って来た街道に戻って見ることにした。


「いや、一体何て声を掛けたら良いんだよ……」


 言葉に関しては、問題なく通じることは分かっている。

 司祭との会話と、多くの野次を理解できたからだ。


「あの、異世界から来たんですけど……、いや違うぞこれは」


 街道の真ん中で、ブツブツと独り言をいっていると……


「あんた、さっきから何をオロオロしてるんだい?」


 はっ! と振り向くと、そこにはエプロン姿のおばさんが立っていた。


「あ、いや……人とはぐれてしまって」


「それでオロオロしてるんのかい。ところであんた召喚者だろ?」


「——!? 俺が召喚者って分かるですか?」


「そりゃ、そんなヘンテコな格好していればね」


 確かに……黒のスーツ姿は、改めて客観的に見ると、周りからはかなり浮いている。


「司祭を探しているんですが、見つからなくて困っていたところなんです。さきほど召喚されたばかりで、この世界のことが全く分からないもので……」


「はっはー! あんたさっき召喚されたばかりなのかい! ようこそだね。まあ、それじゃあ不安な気持ちでオロオロしちゃうわ!」


 何かがツボったのか、おばさんは大爆笑している。


「ギルドってところにも断られてしまったようで」


「あんたギルド入れてもらえなかったのかい? そりゃ気の毒に。つまり……ブロンズってことね」


「はい……、そのブロンズってやつらしいです」


「まあ立ち話もなんだし、入りな!」


 そう言って、おばさんが振り向いた先には、一軒のお店があった。


「うちの店だよ。飯屋をやってるんだ」


 入り口をくぐると、平均的な定食屋ほどの空間が広がっていた。


「はいはい。ここにでも座って」


 カウンター席の台をバン! バン! と叩きながら、おばさんはカウンターの裏にまわった。


「では、失礼します」


「お腹は空いているかい?」


「実は……、はい」


 照れながら頷く俺をみて、おばさんがニコっと笑った。


「まだ店の準備中なんだよ。ちょっと待ってな」


 店の中から見える通りを見ていると、時折、夕日に照らされた人々が通り過ぎていくのが見える。

 しばらくすると、おばさんがカウンターから一皿の料理を出してくれた。


「とりあえず、これでも食べてな」


 そういって出されたのは、野菜炒めのような料理。

 何かの肉も入っている。


「ほら、遠慮せずに」


「あっ……はい。いただきます」


 久しぶりだった。

 つい手を合わせて、出た台詞。


 最近はコンビニ弁当ばかりを、ワンルームの部屋で食べる毎日。


 この儀式をやるのは、随分と懐かしく感じた。


「あっ……美味しい……」


「そうかい! 口に合って良かったよ」


 お腹も減っていたのもあって、あっという間に食べてしまった。


 おばさんは食べるのも邪魔しないようにか、黙って見ていてくれたようだ。


「ご馳走さまでした。美味しかったです」


「あいよ!」


 そういってお皿を片付けてくれるおばさん。


「これからどうするんだい? といっても、何にもあてがないのか……」


「はい。普通は召喚されるとギルドが引き取って面倒を見てくれるようなんですが」


「まぁ、ブロンズじゃあしょうがないさ!」


 おばさんは、また笑って俺の顔を見る。


「はは……、はは」


 少し安心したのか、自分でも自然と笑いが出た。


「もう日も暮れて来たし、人探しの続きは明日にでもしな。店の裏に空き家があるから。まあ、荷物置き場になっていて散らかっているけどさ。」


 そういうと、店の裏手にある空き家まで案内してくれた。


「ほれ。こんなもんしかないけど使いな」


 俺に毛布を手渡し、お店に戻ろとするおばさん。


「ご親切に。本当にありがとうございます。でも、なんで見ず知らずの俺なんかに、あの……こんな……」


 召喚されてから散々だった。

 野次を飛ばされ、厄介者扱いされ、置き去りにされ……


「あんたのその格好を見てね、他人事に思えなかったんだよ」


「このスーツが……?」


「ああ、そうそうスーツって言ってたね。死んだおじいさんも」


「おじいさん!?」


「あたしのじいさんが召喚者だったんだよ。ちなみにブロンズじゃあなかったよ! はっはー! まあ、困った時はお互い様ってね。今日は大変だったんだろ? ゆっくり休みな。それじゃあ、あたしは店の準備があるから戻るよ。また明日」


「お言葉に甘えて、休ませていただきます」


 俺は深々と頭をさげて、心からのお礼をいった。

 人の優しさが、温かかった。


 あまりにも非現実な状況にいまだに理解は追いつかない。

 しかし、こっちに飛ばされて、はじめて気が緩んだ。


 頭の中は、混乱でグワングワンする中、すぐに眠気だけはやってきた。

 自覚していなかったが、かなり神経を使っていたのだろう。

 

 こうして、俺の異世界生活の1日目が終わった。

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俺、異世界召喚ガチャで大爆死したんだが エイボン @eibonnovel

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