生涯の1%

第0話 日本橋

江戸の昔から人の往来に使われた五街道がある。今でも宿場町には、江戸まで何里、京まで何里、と書いてある。交通機関の発達した今の時代にあって、自分の足で歩いてみたい、と思った。

今も昔も、東海道は多くの人で賑わう。対して、難所の多く路程の長い中山道を歩こうと思う人間は、東海道に比して、多くない気がする。それに、東海道で育ったから、その雰囲気や旅程を、何となく見て、知っている。どうせなら、見も知らぬ道を歩いてみたい。こうした考えから、大学を中退する最後の冬の終わりに、東京駅に降りた。


誰かにひけらかす為にやった訳でも、SNSに上げて満足する為にやった訳でもないから、あまり詳細な記録は残していない。何となく撮った写真や記憶の糸を辿って、加筆修正を加えながら、ポツポツ書いていきたい。


日本橋に旧街道の起点が残っている。どこが起点なのか、こだわることに意味を感じなかった。とりあえず国道17号線の起点と思う交差点を探しあてて、そこから歩き始めた。後から聞いた話では、そこは起点から少し外れた所にあった。


駅から日本橋の交差点に向かう高架下に古いラーメン屋台が1軒だけある。大してラーメンが好きでもないし、屋台でラーメンを食べたこともなかったが、都心の高架下に佇んでいる屋台は、これまでも何度となくここを歩く人を見守ってきたのだ、と思うと、これから古街道を辿ろうとする自分と同じ、何となく時代に流されて廃れることに抗おうという心が見えた気がした。

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