番外編:≪ハングマン=カーチス≫

番外編:≪ハングマン=カーチス≫



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 ペンタチャネル島と呼ばれる島が存在する。アメリカとメキシコの中間の沖に位置する、風光明媚な孤島である。

オリーブの棚田と古い街並みが特徴的であり、今もなお伝統的な生活様式が息づいている島だ。

住人はみな旧来の古風な生活と、資本主義を礎とした新しい生活の狭間で日々を過ごしている。


 その島への定期船に乗って、二人の男が波の揺れに身を任せていた。

一人はロマンスグレーの頭髪を風にはためかせ、一人は黒い頭髪をオールバックにまとめている。

そのどちらの顔も険しく、どこか近寄り難い雰囲気を醸し出していた。


「あれがペンタチャネル、ですか」


 オールバックの男がぽつりと呟いた。それは隣の男に喋ったというよりは、思わず口をついて出たような台詞だった。


「そうだ。よく目に刻みつけておけ」


 ロマンスグレーの男はそう言うと、険しい顔をより一層厳しくしかめ、島を睨みつけるようにする。

男の名は、リチャード=ロマネスク。闇に巣くう猛者どもを束ねる、「組織」の頭であった。


「クリス。下船の準備をするぞ」


 そう言うとロマネスクは、船のデッキから颯爽と立ち去った。

クリスと呼ばれたオールバックの男は、言われるままに船室まで戻り、荷物をまとめる。

彼はロマネスクの右腕を務める、組織の参謀的な立場の男であった。

一週間前、彼はロマネスクに急遽ペンタチャネルへ発つことを告げられ、その準備を任された。


 目的も知らされず、ただ一週間ほど滞在することだけを伝えられ、ホテルの予約や金の用意をさせられた。

そこだけ聞くと、まるで個人的な小旅行のようにさえ思えてしまう。


 闇社会の要人にしてはやけに軽いフットワークであるが、ロマネスクと行動を共にしていれば、こんなことは日常茶飯事である。

彼が自分の行動理由を身内にすら掴ませないのは、今に始まったことではなかったからだ。


 やがて船は港へと着き、彼らはペンタチャネル島の土を踏んだ。

潮と魚の生々しい香りが、二人の鼻をついて香る。田舎の漁港で漂うものとよく似た香りだった。

観光地によくある小綺麗さを求める人間には受け付けられまいが、ロマネスクにはその雑味が心地よく感じられた。


 港ではまず、武装した男たちからボディチェックを受けた。

ポケットの中から鞄の中身まで、余すところなく丹念に、乱雑に調べられる。

それが終わると入管とおぼしき個室へ連れていかれ、幾つかの書類にサインさせられた。


 彼らの服に見受けられる意匠は、どこの国の管轄のものでもない独特なものだ。

それは地元民たちが組織する自警団のものであり、ロマネスクたち余所者を見る目は例に漏れず厳しい。

二人はそこで、入島までに一時間もの時間を要した。


 ものものしい警備であるが、そこに国家が介在している様子は伺えない。

現在この島は、非常に微妙な立場の上に成り立っているのである。


 ペンタチャネルは法律上、アメリカの準州という位置に甘んじている。

準州とは、州郡よりも法的な拘束度合いの弱い領土を指す単語である。


 アメリカの法は適応されるが、有事の際にアメリカがペンタチャネルの国土を守る優先順位は低い。

それは概ね、アメリカが過去に占領政策を敷いていた地域に適応されることが多いためである。

そのため自衛の大半は、国軍に頼ることなく住民の自治に委ねられるところが多い。

入島の際に自警団が審査を行っているのも、そういった理由からであった。


 植民地支配を受けている日本も似たような立場だが、こちらは中国が近いために正式なアメリカの国土として認定されている。

そうしなければ、アメリカへの宣戦布告の足がかりとして利用されてしまうからだ。

またこの島は、メキシコ系移民のアメリカへの密入国の経由地として有名な島でもある。

そのため本国アメリカからは、白眼視されることの多い土地でもあった。


 一部の住人はメキシコと手を組み、アメリカ政府を排斥しようと目論んだこともあるようだ。

これにはベトナム戦争が絡む複雑な背景があるのだが、それはまた別の話である。

ひとつだけ言える確かなことは、少なくとも観光に向いた土地柄ではないということだろう。


 長い入島審査の時間を終えて、二人はようやく港から出ることが出来た。

並の人間なら長時間の航行と拘束に辟易しているところだろうが、二人はどこ吹く風といった様子である。


 クリスは些かも疲れを見せず、波止場の近くにあった車屋へと走った。

そして予約していたレンタカーを借りると、その助手席にロマネスクを乗せる。

自家用車の手配もしていたが、レンタカーを借りるよう命じたのはロマネスクだった。

おかげで窓に防弾も施されていない、やや古い型式の通常の車に乗ることとなった。


 万が一襲われでもしたら命取りになりかねないが、ロマネスクはそれでいいと言って聞かなかった。

クリスはその足で、これから泊まる予定のホテルへ向かうつもりだった。

しかしロマネスクはそれを制止し、ホテルへ向かうものとは違う道を指した。


「このまましばらく車を流せ。適当なところで俺が止める」


「どうしました、誰か追っ手でも?」


「黙って指示に従え」


 そしてロマネスクはポケットからメモ帳を取り出すと、そこにさらさらと何かを書き殴る。

そのメモを破いてクリスへ渡すと、クリスがそれに目を通して驚愕の表情を浮かべた。

メモを上着のポケットへ突っ込むと、クリスはそれ以上何も言わずに車を走らせた。


 二人を乗せた車は、華やかな首都ヴィプスを抜けて、一般的な島民が暮らしている地域までやって来た。

アスファルトで舗装されていた道路は、途中から石畳のそれへと取って代わっていた。

密集した住居は、島が狭いゆえに隣家との隙間がほとんど無く、縦に長い構造となっている。


 クリスは路上からの襲撃を警戒しながら、ゆっくりと車を走らせた。

ロマネスクは相変わらずの寡黙さで、助手席から微動だにしない。

やがて車が古めかしい商店街のような場所へ差し掛かったとき、ロマネスクはようやく車を停めるよう指示した。


「ここに何の用で?」


 クリスが不思議そうな顔で尋ねるのも無理はなかった。

そこはホテルからも程遠く、初めて島を訪れた人間が何か出来そうな場所ではなかったからだ。

しかしロマネスクはそれに応えることをせず、黙って車を降りた。クリスも仕方なく、その後へと続く。


 ロマネスクが足を止めたのは、どこにでもありそうな古めかしい八百屋の前であった。

店の前には陳列台に乗せられた色とりどりの野菜や果物があり、その脇に店主とおぼしき初老の男が座っている。

店主はロマネスクの顔をじろりと睨むと、興味がなさそうに目を逸らした。

興味本位で冷やかしに来た観光客だと思っているのだろう。

ロマネスクは品物を物色すると、リンゴの籠を一山手に取った。


「これをもらおうか」


 ロマネスクの口から発せられたのは、流暢なスペイン語であった。

驚いたように目を見開いた店主は、すぐに元の無関心な顔へと戻り、金の勘定を済ませた。


「10ドル27セント。値切りには応じない、カードも無し。支払いは現金一括だ」


 至極つまらなそうな顔で、愛想なくぶつくさと呟く。過去に観光客と揉めたことでもありそうな言い方である。


「それでいい」


ロマネスクは財布を取り出すと、リンゴの勘定を渡す。


「あんたら、旅行客かね。こんな寂れた島に珍しいこった」


 店主は釣り銭をロマネスクへ渡すと、不躾な視線を隠そうともせず二人の身なりを品定めする。

揃いで合わせたかのような黒のスーツは、とても観光目的には見えないだろう。


「ビジネスのためだ。あんたに少しに聞きたいことがあるんだが、いいかね?」


「……なんだ?」


 店主はロマネスクへ懐疑的な目を向けると、胡散臭げにロマネスクを見つめた。


「ワイアット=カーチスと商談をしたい。どこにいるか知っていれば、教えてほしい」


 その名前を口にした途端、店主の目がひときわ大きく見開かれた。


「……ポリのガサ入れか、それとも政府の犬か?カーチスさんに手出しするつもりなら、容赦しねぇぜ?」


 店主はそう漏らすと、近くにあった鈎付きの鉄棒を手に取り、ロマネスクへ向けた。

それは店頭の野菜に直射日光が当たらないよう、屋根の庇を引っ張り出すためのものである。

人を殴打するにも、突き殺すにもちょうどよい長さの棒だった。

ロマネスクは呆れた顔でため息をつくと、その棒の鈎のついていない先端部分を強く握り締める。


「商談だ、と言っているだろう。あんたはもっと、落ち着いて話を聞くべきだな」


 店主はロマネスクの落ち着き払った態度に棒を引っ込めようとしたが、それはピクリとも動かなかった。

店主が棒を捻ろうが揺すろうが、ロマネスクの手は棒を離そうとしない。

それどころかロマネスクは、満身の力を込めて店主から棒を奪い取ろうとさえしている。

慌てた店主が棒を手放すと、ロマネスクはそれをクリスへ向かって、ヒョイと軽く投げて渡した。

そこまでしてようやく、店主は目の前の男が只者ではないと気づいたようだった。

半開きの口を閉じようともしない店主へ、ロマネスクは矢継ぎ早に言葉をかけた。


「カーチス氏が商権を握っているものを、買い取りたいだけだ。こちらに害意はない」


「居場所が知れないなら、伝言だけでも頼む」


 ロマネスクは再び財布を取り出すと、今度は札束をごそりと掴み出して店主の膝元へ置いた。


「おい、待て。こんな金は受け取れねぇぞ!」


「出どころの分からん金は、カーチス氏に疑われるからか?」


「……!!」


 その台詞に、店主が言葉を詰まらせたのが見て取れた。


「心配するな、それはただの駄賃だ。ビリャの者が来たら、伝えてくれればいい」


「リチャード=ロマネスクが、飴を買いたいと申し出たとな」


「この島には一週間程度滞在する予定だ。ホテルマリポーサの707号室を訪ねれば、我々はそこにいる」


 ロマネスクの威風と金の圧力に、店主はただ言葉を失うのみである。

呆けたようなその顔へ、去り際にロマネスクは最後の質問をした。


「カーチス氏というのは、そこまで惚れ込むような人間なのかね?」


 すると店主は、それまでの腑抜けた瞳にギラリとした光を宿して、こう叫んだ。


「あの方は俺たちにとってのパードレ(父親)だ。裏切ることはねぇ、絶対にだ!!」


 ロマネスクはそれを背中で聞きながら、悠々と車内へ戻っていった。

残されたクリスは、手渡された棒をその場に投げ捨てて、八百屋の店先を後にした。

一連の行動を後ろから見ていたクリスは、車を発進させてからしばらくして、ようやく口を開いた。


「一体なぜあの八百屋が、カーチスと繫がっていると分かったんです?」


 しかしロマネスクは、その質問に答えようとしなかった。

それ以上問うても無駄だと悟ったクリスは、黙したまま車をホテルまで走らせる。

これまでの田舎道を行き過ぎ、元きた道を辿ると、ホテルまでの舗装された道へと出た。

そこからほぼ真っ直ぐ進めば、彼らが滞在する予定のホテルへと到着する。


 先ほどの会話でも名前の上がった、ホテルマリポーサというホテルである。

マリポーサはスペイン語で、「蝶」を意味する言葉だった。

二人は車をホテルの駐車場へ停めると、受付を済ませるためにラウンジへと歩く。

しかしそこでもまた、クリスは予想外の出来事に遭遇した。


「バカを言うな。そんなはずないだろうが!」


クリスは受付で対応するホテルマンへ、恐ろしい形相で食ってかかっていた。


「そう申されましても、こちらにお客様の荷物は届いておりません」


 にべもない様子で、ホテルマンは深々と頭を下げた。

事前にホテルへ送っていた荷物が、届いていないと言うのだ。


「いいか、こっちは三日も前にここへ宛てて荷物を送った。発送届も照会すればすぐに分かる」


「それでもしらを切るつもりなら、責任者に落とし前をつけさせてやろうか!?」


 ホテルの広いロビーに、クリスの怒声が響き渡る。

それはヤクザ者らしい堂に入った恫喝だったが、ホテルマンに効いているようには思えない。

オロオロしているように見えて、その実内心では舌を出していても可笑しくないような有様である。


 今にもホテルマンへ殴りかからんとするクリスを、ロマネスクは諌めた。

クリスへ一歩引くようジェスチャーすると、渋々彼は引き下がる。


「本当に、荷物は届いていないのか?」


「はい。何度も確認いたしましたが……」


 見え見えの困り顔で応じるホテルマンに、ロマネスクは顎をいじりながらぼそりと呟いた。


「そうか、それは困ったな。あの中にはカーチス氏への贈答品が入っていたのだが」


 その言葉を聞いたホテルマンの顔色が、さっと青くなるのが分かった。


「まぁいい、とりあえずチェックインしたい。部屋の鍵を渡してくれ」


「か、かしこまりました」


 あからさまな動揺を見せ、ホテルマンは震える手で鍵を取り出してロマネスクへ渡した。

二人は部屋へ直行すると、一言も会話することなく荷物だけを片付け、時の経過を待つ。

すると程なくして、先に揉めたホテルマンとは別の、でっぷりした体格のよい男が彼らの部屋を訪れた。


「申し訳ありません。我々の手違いで、お客様の荷物が他のお客様のものに紛れていたようです」


 うやうやしく一礼すると、男は大きめのスーツケースを丁寧に運んで、部屋の机の横へ置いた。


「こちらのミスでお客様へご迷惑をかけてしまい、大変申し訳ありませんでした」


「つきましては、滞在期間中のルームサービスの使用を全て無料とさせていただきとうございます」


「今後とも、当ホテルをご贔屓に……」


 その口ぶりからすると、男はホテルの支配人か何かだったのかもしれない。

ロマネスクはそれを軽く聞き流すと、男へ退室を促した。



 海外旅行では、稀にこのようなことが起こりうる。ホテル側が客を品定めし、大人しそうな客ならば荷物を勝手に掠め取ってしまうのだ。

中身が何かは問題でなく、わざわざ別便で送るほどなら貴重品のはずだという、単純で悪質な判断である。

今回彼らは日本からやって来たことになっているので、出自から文句を言うまいと判断されたのだろう。

そのため、本来ならロマネスクたちは、手荷物だけで渡航を済ます場合が多い。しかし今回は、そうもいかない事情があった。


「中身は特にいじられた形跡はありません」


 クリスがスーツケースの鍵を開けて、中を確認する。

その中には、古びた聖書の他に分厚い本が数冊入っていた。

それを取り出すと、残りは新聞紙に包まれた何かだけがスーツケースに残される。

ロマネスクが手を差し出すと、クリスはその手に聖書と数冊の本を渡した。


 無造作にそれを開くと、本は半ばほどまで全て糊付けされており、目的のページが簡単に開かれる。

そのページは中央が大きくくり抜かれて、そこにリボルバーの拳銃が収納されていた。

ロマネスクはそれを取り出すと手早く組み立て、次に本の背表紙を取り外す。

すると、本と背表紙の狭い隙間に、六発の弾丸が隠されていた。


 それを全て弾倉へ込めると、ロマネスクはスーツの内ポケットへ銃をしまう。

クリスも同じように、本に隠された銃を組み立て、それを携行した。

護身のための銃であるが、それをわざわざ事前に送っていたのは訳がある。

現在このペンタチャネルには、いかなる武器の持ち込みも禁じられているのだ。


 海外へ渡るに辺り武器の類を持ち歩くことが出来ないのは、当然といえば当然の処置である。

しかしこの島は、当然であるという以上の厳重な処罰を持って、銃刀の島への持ち込みを禁じている。

料理人が包丁を持って島へ入ることさえ、禁じられているのだ。

破れば禁固刑か懲役刑が科され、本国へ帰ることが叶わない場合さえ多々ある。


 その背後にあるのが、過去にペンタチャネルで起こった一つの事件である。

先にも書いた通り、この島ではメキシコ政府と手を組み、アメリカを排斥しようという運動が起こったことがあった。

ベトナム戦争の際、アメリカ本国の人間ではなく、この島の住民たちが多く徴兵されたためである。

その反発と不満が大きな火種となり、運動は軍が出動して沈静化を図るまでに発展した。

その際、一般市民にまで銃火器が流通したため、多数の死傷者が出ることとなった。


 ペンタチャネル自治政府はその事実を重く受け止め、事態の収束を図ったものの難航。

混迷を極める事態は、島民たちでさえどこへ行き着くか分からない嵐となって吹き荒れる。

それを終結させたのが、ワイアット=カーチスという男だった。



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 近年、ロマネスクの組織が絡んでいる麻薬市場に、大きな動きがあった。既存の麻薬とは違う効能の、新しい薬物が出回ったのである。

商品名を「サルバシオン」と言い、酩酊と共に万能感が得られるというそれは、若い薬物濫用者の間で瞬く間に流行した。

購買率は実に一割にも及び、薬物を凌ぎとするロマネスクたちにとっても、新たな驚異となった。


 たった一割とはいえ、市場規模を考えると捨ててはおけない額に換算される。

そのためロマネスクは、すぐさまサルバシオンの出処と、それを売買する組織について調べ上げた。

その線上に浮かび上がって来たのが、ワイアット=カーチスであった。


 彼はペンタチャネル島を起源とする麻薬カルテル、ビリャ・カルテルのトップである。

一口に麻薬カルテルといっても様々あるが、ビリャ・カルテルはその中でも特に武闘派として名高い、ロス・セタスからの分派だった。

ロス・セタスは元軍人の組織する犯罪組織であり、内部分裂を起こした後は、その系譜に連なる組織を大量に排出している。

そんな危険な組織を束ねるだけあって、ロマネスクの組織が調べただけでも異端の経歴を持つ男であった。


 まず彼は、メキシコとアメリカの内部紛争に、強引に割って入った。アメリカに加担する形で情報を流し、内乱を治めたのだ。

そして政治的、官僚的な腐敗の原因を、要人暗殺という手段を用いて取り除く。

そして老朽化したインフラの整備や汚職警官の取り締まり等で、島の自治を強め支配力を身につけていったのである。

その際にビリャ・カルテルの活動資金源となったのが、件のサルバシオンであった。


 ロマネスクからペンタチャネル島へ向かうと聞かされた時、クリスはついにボスが動いたと緊張した。

その目的は明らかにされなかったものの、どう考えてもビリャ・カルテルが関係しているに決まっているからだ。

そのためクリスは、大規模な抗争にまで発展する可能性を考慮に加え、行動には細心の注意を払うつもりでいた。


 しかし蓋を開けてみれば、ロマネスクはカーチスと商談をしに来ただけだという。

確かに金の用意もしていたが、それは現地で武器でも調達するのだと解釈していた。

意図を掴ませないロマネスクの行動とはいえ、あまりにも脈絡が無さすぎる。

果たしてこれからどうしたものかと、クリスは密かに頭を悩ませていた。


「これから、どうするつもりで?」


 クリスは念のため、ロマネスクへ今後の行動の予定を尋ねてみた。


「向こうからの連絡待ちだな。それまでは、ここで待機している他にあるまい」


 ロマネスクは部屋へ備え付けられた安楽椅子に深く腰掛け、体を前後に揺すっている。

その呑気な様子に、クリスは思わずため息でもつきたい気持ちになっていた。

ワイアット=カーチスが何のコンタクトも取って来なければ、一週間もここで待たねばならなくなる。

果たしてそんなことに、意味はあるのだろうか。


 それにもし本当にロマネスクが商談を交わす気なら、一体カーチスから何を買うつもりなのか。

飴を買いたいと言っていたが、もちろん文字通りの意味であるはずがない。

それらの疑問を愚直に問うてみたところで、自分で考えろと言われるだけだろう。

これまでにも何度もそのようなことがあり、その都度クリスはロマネスクの真意に辿り着こうとした。

しかしそれは大抵の場合、徒労に終わることがほとんどであった。


 それでも、何も考えず流れに身を任せることを、ロマネスクは良しとしない。

ゆえにクリスの思考は、こうしている間にも目まぐるしく動いている。

その思案顔を見たせいか、ロマネスクは安楽椅子を軋ませながらこう提案した。


「することがないなら、ルームサービスでも利用してみたらどうだ。タダで利用出来るなら、どれだけ不味くても文句は言えないがな」


 その言い方に、クリスは思わず苦笑した。日頃から毒を警戒しろと言っているのは、ロマネスク本人なのだ。

こんな異国の地でそれを疎かにするほど、クリスも愚かではない。


「今はこいつで十分ですよ」


 クリスはロマネスクが八百屋で買ったリンゴをひとつ手に取ると、表面を手の甲で拭ってからかぶりついた。

その顔が、みるみるうちに渋いものとなってゆく。

かじりかけのリンゴを机に置くと、クリスはトイレへ駆け込んでそれを吐き出した。


「この辺りのリンゴは加工前提の品種だ。甘みはほとんどないぞ」


「知ってるなら最初からそう言ってください……」


 むせながら喉を押さえるクリスを横目で見ながら、ロマネスクは相変わらず安楽椅子を揺らしている。

そうして旅の一日目は、数々の波乱を含みながらもなんとか無事に経過していった。

彼らのもとへ来訪者が現れたのは、その翌日の夜のことであった。


 その晩、ロマネスクは銃の調子を確認し、クリスは体を鈍らせないよう筋トレに励んでいた。

食事は三食とも、近くの観光客向けマーケットで買って済ませている。

毒の混入の形跡がないか入念に調べ上げ、質素な食事は淡々と進んだ。


 前日にクリスを悶絶させたリンゴは、全てロマネスクの腹に収まった後だった。

口に含むと酸味や渋味が強く、生で食べられたものではない味のはずだった。

だがロマネスクは、それを露ほども気にせず食べ尽くした。


「味は気にならないんで?」


 クリスがそう尋ねると、ロマネスクは大したことでないとでも言いたげに話した。


「アリゾナで食った生のサソリよりはマシだな」


 クリスはその言葉に、大げさに肩をすくめた。

ロマネスクが言うならそれはジョークではなく、本当に食べたことがあるのだろう。

そうして時間を潰しているうち、部屋の扉をノックする音が響いた。

クリスはすぐさま警戒態勢に入り、ドアスコープから廊下を覗き見る。


「男が一人、ですね。ビリャの人間でしょうか」


 ドアスコープ越しに見えたのは、ラフな格好の青年だった。

ジーパンに白いシャツという、どこにでもありふれた出で立ちである。

黒くしなやかな髪を首まで伸ばした、少しくたびれた様子の若者だった。

まさかその格好で、ホテルの従業員ということもあるまい。

ビリャ・カルテルからの使いの者である可能性は、非常に高かった。


「通せ」


 ロマネスクは銃をスーツのポケットへしまうと、安楽椅子に腰掛けたままクリスへ支持を出した。

クリスは筋トレ時のトレーニングウェア姿で、ドアの鍵をそっと開け放つ。

ドアを開けると、青年は不安げな顔で、おずおずと部屋まで入ってきた。

何かしでかせばいつでも組み伏せるようクリスは身構えていたが、青年はどうにも様子がおかしかった。


 麻薬カルテルの人間とは思えないほど、青年は弱々しい態度しか見せなかったのだ。

二人が睨みを効かせても、口を開くどころか目を合わせようともしない。

そのような態度は、相手から軽んじられる原因となるため、どのような組織でも厳禁である。

そしていつまで経っても用件を話さない青年へ、ロマネスクはあくまでも柔らかく声をかけた。


「座ったらどうかね。黙っていられてはこちらも対処できん」


 青年はその言葉にビクリと体を震わすと、クリスが乱雑に差し出した椅子へ座った。

しばし顔を伏せて瞑目した後、青年はようやくその重たい口を開いた。


「俺……ミケーロって言います。あんたたちが昨日寄った、八百屋の息子です」


 ロマネスクは顎に手を添え、その言葉を聞いている。


「ほう。それで、君はビリャ・カルテルの一員かね?俺はビリャの者へ伝言をと頼んだはずだったが」


 青年はロマネスクを見返すと、ゆるく首を振った。


「違います。ビリャの奴らは近いうちに別に来ると思います……」


「俺は親父とビリャの人間が話してるのを、盗み聞きしただけなので……」


 そこまで話して、ミケーロ青年は再び口を閉ざしてしまう。

心なしかその顔は青ざめ、思いつめたような表情をしているように見える。

その埒のあかなさにクリスが苛立ち始めたころ、ミケーロは意を決したように顔を上げた。


「あなたたちに、お願いがあります。初対面の人間に頼むことじゃないけど……」


「どうかあのワイアット=カーチスを、殺してくれませんか?」


「奴の潜伏場所は俺も知ってます。だから……!」


 ロマネスクはその言葉に、片眉だけを器用に上げて応じた。


「それはまた、剣呑な話だな。理由があるなら話してみたまえ」


 クリスはロマネスクが大人しく聞く姿勢であることに、まず驚いていた。

ミケーロ青年がどのようなつもりであれ、人を殺してくれなどという戯言に付き合うロマネスクではないはずだ。

それほどこの青年の言葉に、興味を持ったということなのだろうか。

ミケーロは祈るように手を組むと、ひとつひとつ言葉を選ぶように語り始めた。


「カーチスは、親父たちの世代には救世主のように慕われてる。内戦を止め、地元を住みやすくしてくれた英雄だって……」


「けどそれは、コインの表の面でしかない。あいつは裏では、この島で好き放題やってる暴君なんだ」


 泣きそうに聞こえるような声で、ミケーロは細く言葉を絞り出す。


「カーチスは無関係な一般人に恩を売って、自分のコマとして利用してるんだ」


「逆らえば酷い目に遭わされるし、それでなくても親父はカーチスさんのために喜んで働けという」


 それは地方に根を張るマフィアの類には、よくある話だった。

古い映画などで見かける、古風な侠客的悪党など、そうそういるものではない。

わざわざ不便な田舎にいるマフィアは、その地域で強権を振るうために存在しているのだ。


「俺はビリャとは無関係なのに、ヤクの運び屋をやらされた」


「死体を埋める手伝いだってしたこともあるし、友達にヤクをさばけと言われたこともある……」


「そんな仕打ちを受けても、親父はカーチスさんを信じろとしか言わない」


「カーチスは俺たち住民のことなんて、毛ほども考えちゃいないのに……」


 黙し続けるロマネスクへ、なおもミケーロは堰が切れたように語る。


「あいつがペンタチャネルのインフラを整え、汚職議員や警官を殺したのも、地元の奴らに有無を言わせないためなんだ」


「今じゃあいつに真っ向から歯向かおうなんて人間はいない。仕事だって、ビリャに逆らったら回してもらえなくなる」


「頼む……いや、お願いします。俺たちペンタチャネルの人間を、助けてください」


 ロマネスクはそれを興味深げに聞いていたが、クリスは終始疑うような目を向けていた。

これがワイアット=カーチスの罠だということは、充分に考えられる。

それにのこのこ着いていくような人間は、一般人にさえいないだろう。

案の定、一通りの話を聞いたロマネスクは、ミケーロを諭すように言った。


「君の言い分はよく分かった。だが、我々は今回カーチス氏と商談をしにきただけの者だ。悪いが、君の力にはなれない。お引き取り願おう」


 しかしミケーロは、思いがけずロマネスクへ食い下がろうとした。


「商談だって?あんたたちは、カーチスを殺しに来たんじゃないのか?」


 どこでそのような話が広がったのか知れないが、ロマネスクたち島外人は地元からはそう見られていたらしい。

それなら、八百屋の店主がいきなり好戦的な姿勢を見せてきたのも、納得出来るというものだ。

ロマネスクは淡々と、しかし有無を言わせぬ力強さでハッキリと宣告した。


「君が我々をどう思っているかは知らないが、殺しを頼むほどなら、我々もまともな人間ではないと理解していよう」


「そういう人間に借りを作るということが、どんな危険を孕んでいるか分からないのかね?」


 ミケーロはハッとして、ロマネスクの顔を初めて正面から見た。

ロマネスクの瞳はあくまでも冷ややかで、切れるような酷薄さを感じさせた。

その背後に控えるクリスも、いつでもミケーロを手にかけることが出来るという凶悪な意思を顔に覗かせている。


「こちら側の人間には、関わろうとしないことだ。でなければ、カーチスに負わされる以上の傷を君は受けることになる」


「理不尽な環境に我慢ならないなら、自分の手でそれを覆すしか方法はないのだよ」


「たとえ、どれほどの長い時間と労力をかけようともな」


 ロマネスクは、ミケーロをじっと見つめながらそう諭した。

ミケーロ青年は打ちひしがれ、がくりと肩を落とす。


「分かりました……確かに他人の力を使ってどうこうしようってのは、間違いだった」


「ただ、ひとつだけあんたたちに忠告させてくれ」


 ミケーロ青年は椅子から立ち上がりながら、こう言い残した。


「ワイアット=カーチスは、あんたたちが想像する以上の悪魔だ。あんたたちはあいつのことを、何も分かっちゃいない」


 そうしてミケーロ青年は、ロマネスクたちの部屋から立ち去っていった。

クリスはそれを見送りながら鼻で息を吐くと、ロマネスクへ向けて呟く。


「ずいぶんとお優しいんですね」


 クリスがそう言うのも無理はない。たとえ一般人であろうと、ロマネスクの逆鱗に触れれば死あるのみなのである。

今回はたまたまそうならなかっただけで、本来ならいつクリスにミケーロを殺せと命令しても、おかしくない状況であった。


「藁にもすがりたい素人を、呆気なく殺すほど悪趣味ではない」


 ロマネスクは短くそれだけ返すと、着替えもせずに安楽椅子の上で目をつむった。

クリスはシャワーを浴びるため、部屋のシャワールームへ入る。

熱い湯を浴びながら、クリスは先ほどのミケーロ青年の言葉を、頭の中で反芻した。


『ワイアット=カーチスは、あんたたちが想像する以上の悪魔だ。あんたたちはあいつのことを、何も分かっちゃいない』


 一般市民にそこまで恐れられるワイアット=カーチスとは、いかなる者なのか。

その邂逅の末に、ロマネスクは何を得、何をしようというのか。

それが判明するのは、そこからさらに半日後のことであった。



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 ミケーロ青年がロマネスクの部屋を訪れた翌日の、正午過ぎのことだった。

昼食を終えた気怠い雰囲気の中、ロマネスクもクリスも程々にリラックスしていた。

クリスはどうやって時間を潰すかを考え、ロマネスクは無表情で考えを悟らせない。

相変わらず安楽椅子を揺らしていたロマネスクは、ある瞬間ふと何かに気づいたように立ち上がった。

暇潰しに聖書を眺めようとしていたクリスは、その様子にただならぬものを感じた。


「どうやら、来たようだな」


 ホテルの外の道路を眺めていたロマネスクは、まるで独り言のように呟いた。それから幾らも時間が経たないうちに、部屋の扉がノックされる。


「失礼致します」


 それは、初日にロビーで揉めたホテルマンだった。


「ロマネスク様、お迎えが来ております。お外の車へどうぞ」


 にこやかに声をかけてきたが、もちろん車の手配などロマネスクたちはしていない。ビリャの人間がやって来たに違いない。

クリスは事前に準備していたスーツケースを用意すると、ロマネスクの後に続く。

そしてホテルを出ると、道路を圧迫するかのような黒塗りのベンツが、そこへ鎮座していた。


 その運転席から下りてきたのは、細い目をした一人の男である。昨日のミケーロとは訳が違う、本物の裏社会の人間だった。

動きやすいシャツの上から、サマーコートのような薄手の外套を羽織っている。武器の類を隠すには、持ってこいの服装である。

その体付きからも雰囲気からも、常人離れしたものを感じさせる筋者といった風情の男だった。


「パードレがお待ちだ。乗れ」


 男はそれだけをぶっきらぼうに伝えると、二人を待たずにさっさと運転席まで戻ってしまう。

クリスが充分に警戒して車のドアを開けると、ロマネスクは先にそこへ乗り込んだ。

車はゆっくりと発進すると、ペンタチャネル島を縦に割るように走る。


 初日にロマネスクが向かったのは、市街地から離れた地元民の商業区だった。

しかし今回は、ペンタチャネル島の中心部である繁華街へと向かっている。

密な建物で圧迫されていた地方とは違い、道路も広々しており空も開けている。


 やがて車は、繁華街の中央にある建造物までやって来た。それはどうやら、キリスト教の教会のようであった。

大きな建物が多い地域であったが、その中でもひときわ巨大な敷地と建物の規模を有している。


「中で待て。パードレはすぐにいらっしゃる」


 そう言うと男は二人を残し、教会の横手側の路地へと消えていった。

クリスが先に立ち教会へ入ると、中は荘厳な装飾に彩られていた。

革張りの長椅子が幾つも据えられ、正面には高い天井にまで届きそうなパイプオルガンがあった。

そしてその背後には、白い大理石で彫られた天使像が、無数に配置されている。

どうやって支えてあるのか、天使像は折り重なるようにして、パイプオルガンのパイプの先端までその手を伸ばしている。

彼らの左手側には、懺悔室らしき小部屋も見えた。いかにもそれらしい建物だが、ロマネスクはすぐにその違和感へと気づく。


(なるほどな。隠れ家には打ってつけの場所だ)


 普通こういった聖堂には、ステンドグラス等で明かりが大きく取られるが、ざっと見た限りそういうものは見受けられない。

石造りの建物は光を通さないため、本来はそういった工夫を欠かさないものなのだ。

恐らくは外からの狙撃を防ぐために、最低限の窓しかしつらえていないのだろう。

革張りの長椅子も、不自然なまでに置かれた天使像も、死角を増やすには持ってこいだ。

その証拠に、まだ日が高い時間にも関わらず、教会の内部には天窓から入る光以外の光源はなかった。


 ロマネスクは聖堂の最前部に置かれた長椅子へ腰掛けると、カーチスの登場を待った。

クリスもそれに倣い、椅子へと座ってスーツケースを床に置く。

それから五分待ち、十分待ち、十五分待っても、カーチスは現れなかった。

焦れることなく待つロマネスクとは対称的に、クリスはやや待ちかねた表情をしていた。


「カーチスはこのまま、現れないつもりでしょうか」


「そんなはずはない。大人しく待っておけ」


 なぜそう言い切れるか不明だが、ボスの命令とあらばクリスは何時間でも待つことは出来る。

その会話の直後、クリスは座ったままで軽い前傾姿勢になると、ロマネスクとは目を合わさずに呟いた。


「ボス。左に1、背後に1です。警戒を」


 クリスの呟いた方向から、先ほどまでは無かった敵の気配がするらしかった。

左の敵は懺悔室に、背後の敵は革張りの椅子の陰に身を潜ませているようだ。

クリスはポケットの上から銃をなぞると、いつでも取り出せるよう準備する。

しかしロマネスクは、そのクリスの警戒心のさらに上を行った。


「警戒は正確に行え。左に1、背後に1、そして上に1だ」


「上?」


 その言葉に釣られるように、クリスが高い天井を見上げる。

目を凝らしても、そこには石造りの梁の他に何も見当たらない。

そう思った矢先、クリスが目を向けている一角にあった天使像が、ぞろりと動いた。


「うぉっ……!?」


 さすがのクリスも、それには驚きを隠せない。動き出した天使像は背をのけぞらせると、虫の脱皮のように頭を地へ向けて地上へと降りてくる。

その下半身には、他の像と違いしっかりしたズボンが履かされている。

それを見てクリスはようやく、それが像ではなく人間だと気づいた。


 その何者かは、ブリッジのような体勢を維持したまま、ズボンから二丁の拳銃を取り出した。

そして逆さまの状態で、ロマネスクたちへ向けて発砲する。

ロマネスクもそれに応戦する形で、銃を取り出して続け様に発砲した。


 一方のクリスは、天使像の男ではなく左手側の刺客へと銃を向けていた。

頭上からの発砲を合図に、攻撃が開始されることを見越しての応戦だった。

そこから現れたのは、先ほど彼らを車に乗せて、ここまで連れてきた男である。

男は銃を構え、クリスの座っていた長椅子の手すりへ弾丸を撃ち込む。

クリスは懺悔室のドアへ、返すようにニ発の弾丸を放った。

乱戦になるかと思われた銃撃戦であったが、すぐに銃の乱射は止まった。


 天使像の男は地面スレスレでくるりと身を翻すと、綺麗な着地姿勢を見せた。

ロマネスクは警戒を解くことなく、男へ銃を突きつけ続けている。

その姿は、ちょうどパイプオルガンの影に重なってよく見えない。

男は立ち上がると同時に銃を二丁とも投げ捨て、自らをこう名乗った。


「どうもご客人、お初にお目にかかる。私が、ワイアット=カーチスです」


 彼こそがビリャ・カルテルのトップ、ワイアット=カーチスだったのだ。

ロマネスクはそこまで見届けてようやく、まだ火薬の温もりの残る銃を懐へとしまった。


「一体いつからあそこに……?」


 クリスはカーチスの存在を気取れなかったことに、強い警戒心を抱いているようだった。

しかしロマネスクは、そんなクリスへ向かってこともなげに言ってのける。


「我々がここへ来てすぐだ。恐らく、像の裏側を伝って上まで登ったのだろう」


「いつ降りて話をしに来るのかと、飽き飽きしていたぞ」


 カーチスはそれを聞いて、呵々と高笑いをする。


「いや失敬。初めて会う客人は、まず会うに足る人物か試させていただくんです」


「私に気づいて半分、銃へ反撃出来てもう半分といったところですが、あなた方は申し分ない」


「さぁ、話をしましょうか。リチャード=ロマネスク氏?」


 男は名乗ってもいないロマネスクの名を、正確に唱えて見せた。


「ずいぶんと不遜な輩だ。まぁよい、席に着き給え」


 ロマネスクは着席を促したが、カーチスはそれに従わなかった。


「少々お待ちを。ニュート、手伝いなさい」


 男が手を叩くと、懺悔室の横にいた刺客がカーチスへと走り寄った。


「彼は私の友人で、アイザック=ニュートです。良い名だとは思いませんか」


 カーチスが嘯く間に、ニュートはカチャカチャ音をさせて、何かの器具を外している。

クリスは目を凝らして、彼が何をしているのか把握しようとした。

その様子がおかしいことに、クリスはすぐさま気がついた。


 カーチスは、上半身裸のようであった。しかも、ハーネスのような道具も身に着けていない。

そして上空からは、ワイヤーで体を吊って降りてきたのだということまでは分かった。

カーチスの背後から、ワイヤーらしき線が伸びているのが見えたからだ。

ではそのワイヤーは、体のどこへ接続していたのか?


「私のボディに興味がおありかな?クリストファー氏」


 視線を感じてか、カーチスは暗がりから一歩進んで光の当たる場所へ出てくる。

そして背中を向けると、クリスがその異様に、ギョッと顔を歪ませた。


「ボディサスペンションという技術でね。体に器具を埋めて、フックで吊るすんです」


 その背中は、だらりと皮膚が垂れ下がり、痛々しいほどにたるんでいた。

その皮膚の先端に、フックを引っ掛けるための器具が見える。

痛みを度外視した、無茶苦茶な装備である。


「まるで吊るされた男だな……」


 呆れた様子のロマネスクがそう漏らすと、嬉々とした様子でカーチスが歓喜した。


「おぉ、タロットのハングマンですか!それは素晴らしい!」


「ならば私は、これから≪吊るされたカーチス(ハングマン=カーチス)≫と名乗りましょう!」


 サーカスの団員を紹介するかのような愉快な様子で、カーチスは笑っていた。

クリスはその様に、ただただ不気味なものを覚えずにはいられなかった。


 しかしカーチスの異常は、それだけに留まらない。

ニュートが何処からかシャツを持ってきてカーチスへ着せると、彼はようやく二人の正面へとやって来た。

遠目に見ただけでは分からなかったが、カーチスの眼はどこかおかしかった。

その瞳には白眼の部位が存在せず、深淵の如き暗黒だけが広がっていた。

黒目がちという言葉で済ますには、余りにも不気味な有様であった。


「アイボール・タトゥーか。悪趣味はいかに極めても悪趣味のままだな」


 吐き捨てるようなロマネスクの言葉に、カーチスは喉の奥でクックと笑う。


「痛みさえ気にしなければ、これはこれで良いものですよ。視力はてきめんに落ちたが、代わりに色々なものが見えるようになりましたからねぇ」


 クリスは一連のカーチスの奇行に、戸惑いを隠せずにいた。


「なんです、そのアイボールタトゥーってのは?」


「文字通り、眼球に注射で墨を流して入れるタトゥーのことだ。常人のやることではない」


 ロマネスクは短く言うと、それ以上は何も言わなかった。

クリスも拷問で他人の目を弄ったことはあるが、想像を絶する痛みであることだけは分かる。

それを自ら進んでやろうなどとは、何度人生を繰り返しても思わないだろう。

まるで自分の体すら、痛めつけることを厭わないかのようである。


「それで、今回はどんなご用件で?どうも私と、商談を交わしたいとのことらしいですが」


 カーチスはニュートが用意した一人がけの椅子に腰掛け、ロマネスクのちょうど対面へ位置した。

ロマネスクはカーチスを斜めに見ると、睨みを効かすようにして言った。


「この地方のリンゴは、酸味が強すぎるな?」


 突然の意図不明な会話に、カーチスはもちろんクリスまでポカンとした顔をする。


「何を言ってるんです、ボス?こんなところでリンゴだなんて……」


「お前も食べただろう。加工を前提とした品種とはいえ、あの味は酷すぎる」


 ロマネスクの言いがかりに、カーチスは唇を指でつまみながら、一応は誠実に対応しようとした。


「フム。確かにこの島で栽培される品種は、特段うまいとされるリンゴではありませんな」


「しかしそれは、農家へ言うべきクレームです。私に述べられても困る」


 そこでロマネスクは、探るような光を瞳に宿してこう言った。


「無論、あんたにリンゴの代金を補償してもらおうなんぞ思っちゃおらんよ。口直しに、飴のひとつでも所望したいとは思うがね」


 そのセリフに、カーチスは真っ黒な瞳を無邪気に輝かせた。


「アハハハッ!なるほどなるほど、やはり飴とはそういうことでしたか!なかなかに鋭い網をお持ちのようだ、感服致しますよ!」


 そのやり取りに、参謀であるはずのクリスまで、何の話だという顔を隠せずにいる。

しかしカーチスの片腕であるニュートは、その会話を険しい顔で聞いていた。


「それで、ロマネスク氏は我々に飴を売れと、そう言いたいのですね?」


 大袈裟なジェスチャーで、カーチスはロマネスクに尋ねてきた。


「元よりそう言ったつもりだが、確認せねば分からんかね?」


 一方のロマネスクは、高圧的なまでに不遜な態度を崩さない。

その姿に、脇でそれを見ていたニュートが僅かに苛立ちを見せる。

それは陽炎ほどの微かな揺らめきだったが、カーチスはそれを見逃さなかった。

彼は横目でちらりとニュートを見ると、その苛立ちをたしなめるように声をかけた。


「ニュート、アレを持ってきなさい」


「……はい、承知しました」


 カーチスは一瞥でニュートから目を離し、再びロマネスクと向き合う。


「あなたは気軽に飴をとおっしゃるが、私はあれを米国に持ち込むのは反対なのです」


「昨今の米国は肥満大国と言われて久しい。糖と脂質のお祭り騒ぎだ」


「そんなところに私の飴を持ち込んでは、こちらのクビが危うくなってしまう」


 カーチスは大袈裟に首をふって、嘆かわしいとでも言いたげな様子を見せる。


「それよりも商売するなら、こちらを売るのはいかがですか?」


 ニュートがそれに応じてカーチスへ手渡したのは、一本の酒瓶だった。懺悔室に隠しておいたものを、持ってきたようである。


「こちらは、私がこの教会で作らせている特性のブレンド酒です」


「飴などは女子供の嗜むものだ。大人はこちらを愉しめばいい」


 カーチスは頬ずりをするように、自分の頬へその冷たい瓶を押し当てた。


「酒も糖分の一種だが、肥満大国にそんなものを売っていいのかね?」


「鋭いご指摘だ。それについては何ら問題はない」


 そしてカーチスは、黒目のみの眼(まなこ)を歪ませてニタリと笑う。


「これは私の研究開発した、痩せる酒なのですよ」


 カーチスは、瓶の蓋になっていたコルクを、指で強くつまむ。

彼が力を込めると、コルクは造作もなく瓶から抜けた。


「この酒は、飴と原料を同じくしていましてね。私どものバーでもカクテルとして人気なんです」


「飲めば痩せる、眠気が覚める、ハイになるといいことづくめなんですよ」


 カーチスはそう言うと、酒を瓶の半分ほども一気に煽った。


「ロマネスク氏もどうです。この地域では同じ瓶で酒を飲むのは、何よりの信頼の証となる」


 ロマネスクは当然、そんな言葉に乗るはずがない。カーチスの渋黒の瞳を見返し、ハッキリとNOを口にした。


「酒はいらん。こちらが必要としているのは飴そのもののみだ。それを売れないなら、商談は不成立だな」


 あくまでも強気の態度で、ロマネスクはカーチスをその視線で切って捨てた。


「つれないお方だ。致し方ありませんね」


 カーチスは肩をすくめ、酒の残った瓶をニュートへ渡した。


「ではロマネスク氏は、飴をお買いになるのにお幾らご用意できますか」


 その質問に、今度はロマネスクが傍らに控えるクリスへ声をかけた。


「クリス」


「はっ」


 クリスは足元に置いていたスーツケースを持ち上げると、鍵を外しその中身をカーチスへ見せた。

その中には、米ドル紙幣がぎっちりと、隙間なく詰められていた。

来島初日に銃と共に別便で送られたものが、取り引きのためのこの大金だったのだ。


「十万ドルある。既に洗浄済みの金だ。これで買えるだけ買おう」


 カーチスは大金を目の当たりにして、わざとらしく手を叩いた。


「よろしい!では商談成立だ。ニュート!」


 呼び声も高らかに、カーチスはニュートを呼び寄せた。その手には、小さな黒いビニール袋が二つ、握られている。


「十万ドルでお売りできるのは、これだけですな」


 それはものが何であるにせよ、十万ドルの価値があるものには到底見えなかった。


「これが十万ドルだと?ふざけるのも大概にしろ!」


 そう怒りを顕にしたのは、ロマネスクではなくクリスであった。

彼はこの場でやり取りされているものが何なのか、正確に把握している訳ではない。

しかし、これが不当な取り引きであるのとは、目に見えて明らかである。


「落ち着きなさい、クリス氏。これは何もあなた方を軽んじている訳ではないのですよ」


 カーチスはその怒声すら想定内であったかのように、動じることなく応じてみせる。


「我々の扱う飴というのは、非常にデリケートな代物でしてね。素人においそれと管理できるものではない」


「そのため、我々の直売以外で流通する量を、制限させていただいているのです」


「二度、三度と取り引きを継続していただけるなら、その時はサービスさせていただきますとも」


 その言い方に、クリスは歯噛みしてロマネスクの方を見る。

下手な反論はロマネスクの立場のみならず、組織の体面をも崩すことを知っている。

さりとて黙って引くことも、相手へ弱味を見せるのと同じことである。

そのため取り引きの不服は、通常組織のトップではなくサブが申し出るのである。

しかしロマネスクは、クリスを引き止めもせずにそのまま商談を押し進めた。


「よかろう。それで商談は成立だ。次に購入するときも、俺が直接買い付けに窺おう」


 ロマネスクは平然と、その不利な交渉を受け入れた。

それどころか、今後も代理人を立てずに、自分が直接商品を買うと言ってしまったのだ。

これはほとんど敗北宣言に近い対処である。


 クリスは苦々しい顔のまま、金の入ったスーツケースをカーチスへ渡した。

カーチスはそれが偽札でないことをざっと確かめると、スーツケースごとニュートへ持たせる。

そしてロマネスクの膝へ、二つの黒いビニール袋を乗せた。


「さて、これでそちらの面会の目的の全ては達成した、と。せっかくこうして出会ったのです。このあと共に食事でもいかがですか?」


 婦女子を目前にディナーへ誘うような軽妙さで、カーチスはロマネスクを昼餉へと誘った。


「結構!それより、最後にあんたへ質問をさせてもらおう」


「えぇ、どうぞ。答えられる範囲でなら何なりと」


 カーチスは余裕たっぷりに、椅子の上で足を組んでみせる。それを見ながら、ロマネスクは朗々とカーチスへ問いかけた。


「この島は、お前にとってどんな存在だ?政治や経済をも出し抜いて、この島の支配者でも気取るつもりかね?」


 ロマネスクの詰問に、芝居がかった調子でカーチスは答える。


「この島は何かと聞かれても、何でもないと答えるしかありませんな」


「何の生産性も持たなかった無の島、それがこのペンタチャネル島です」


「ただひとつだけ私から言えるのは、この島が私を選んだということだ」


「その瞬間から、ペンタチャネル島は光輝く宝島となった。飴も、利権も、その事実に付随するオマケでしかない」


 それを語るカーチスは、それまでで最も意図の読めない顔をしていた。

笑っているようでもあり、嘲っているようでもあり、何も思うことはないようにも見える。


「それに私は、支配者を気取るつもりなど毛頭ありません。私が目指すべきは、常に『名付けられぬ者』なのですよ」


「名のある者はそれが何であれ、名付けられた時点で既に役目を終えている。ゆえに私は名付けられぬ者にこそ、真の栄光と畏怖は授けられると考えます」


「それに比べれば、人界の権力など塵芥にも等しい。違いますかな?」


 ロマネスクは、至極つまらなそうな顔で、その答えを聞いた。


「つまりお前は、この狭い島で神のように振る舞うことを望んでいる訳だ」


「そうかもしれません。島の意思が、私に神になれと言うのならね」


「よかろう。ならばこれ以上尋ねることは何もない」


 ロマネスクは立ち上がると、黒い袋をクリスへ渡してその場を立ち去ろうとした。クリスも渋々ながら、ロマネスクの後へ続こうとする。

しかしこの時、最後の波乱が二人へ襲い掛かろうとしていた。


「ウォォォォォッ!!!」


 それは、教会を去ろうとしたロマネスクの前に立ちふさがった。

覆面をつけた男が、銃を構えて二人に踊りかかったのである。

男は両手で銃を握りしめると、雄叫びを上げながら二人へ突進した。

クリスはすぐさま銃を抜き、応戦する構えを取る。

背後に潜む者の気配を、二人とも忘れた訳ではなかった。

いつ襲われても反撃出来るよう、内心では虎視眈々と準備していたのだ。


 このような場合、側近は普通ボスの盾となるよう、その身を刺客との間に割り込ませる。

だがロマネスクが守られる立場にある場合、そうする必要はないと昔から教え込まれていた。

クリスが銃を向けるより早く、ロマネスクの速射は敵の額を撃ち抜くからだ。

案の定、クリスが構えたころにはロマネスクの弾丸は、刺客の脳天へと突き刺さっていた。


「ふむ……やはりオートマチックより、リボルバーの方が手に馴染むな」


 雄叫び以外に一言も漏らすことなく、呆気ないほど簡単に刺客は倒れた。

その覆面に血を滲ませ、後頭部を強かに大理石の床へと打ちつける。

それを無言で見ていたロマネスクたちの背後から、カーチスが大仰な言葉を投げた。


「これは申し訳ない!客人にとんだ無礼を働いてしまった!」


「私へ差し向けられた刺客が、あなた方を我々の仲間と勘違いしてしまったようだ!」


「遺体はこちらで処分しますので、どうかお気になさらずお帰りください」


 クリスはその軽薄な言葉に激昂し、怒鳴り声を上げた。


「刺客が教会の中まで忍び込めるはずねぇだろうが!こいつは、お前の仲間だろう!」


 クリスは遺体の覆面を剥ぎ取ろうとしたが、それを後ろから近づいていたニュートに阻まれる。


「死体はこちらで預かる。指一本触れるんじゃない」


「こっちは命を狙われたんだ。刺客が誰かくらいはっきりさせろ!」


 しかしまたしても、ロマネスクはクリスを引き止めた。


「もういい。帰るぞ、クリス」


「しかし……」


「俺は帰るぞと言った。お前に俺の決定を覆す権利を与えた覚えはない」


「……ッ」


 クリスは屈辱に拳を握ると、制止しに来たニュートの手を振り払った。


「離せ、クソッ……」


 ニュートは一歩引いてそれを躱し、軽々と死体を担ぎ上げた。

ロマネスクはそれを一瞥もすることなく、教会から出ていこうとする。


「ロマネスク氏!」


 その立ち去ろうとする背中へ、カーチスは座ったままで声をかけた。


「あなたは今日、名付けられぬ者に名を付けた」


「ハングマン=カーチスという名の縁が、今後も末永く続くことを、私は願いましょう」


 その言葉にすら、ロマネスクは振り返ることをしなかった。

カーチスはそれを、苦笑でもって見送る。

クリスは舌打ちでニュートを睨み、ニュートは淡々と死体の処理をこなしている。

こうしてロマネスクとカーチスの面会は、スッキリしないものを孕んだまま幕を下ろしたのであった。



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  ─────

     ─────



 ニュートがホテルマリポーサで二人を下ろすと、ロマネスクはすぐに帰り支度を始めた。

滞在期間はまだ五日ほどあったが、事が済んでしまえば長居は無用らしい。

その日はすでに定期発着の船が出港した後で、帰りは翌日まで待つこととなった。

もしも船の都合さえ許せば、その日のうちに帰ろうとしていたことだろう。

そして次の日、クリスが荷物をまとめレンタカーを駆り出すと、ロマネスクはまた意図が分からないことを彼に命じた。


「港へ行く前に、初日に寄った八百屋へ寄れ」


「いいですが、遠回りになっちまいますよ?」


「構わん、出せ」


 クリスは釈然としないものを飲み込みつつ、ロマネスクの指示通りにした。

古い通りを走り、来島初日に訪れた八百屋へ辿り着くと、何か様子がおかしかった。

八百屋は閉まっており、にも関わらずその店舗の前に、人だかりが出来ているのである。

それも、居並ぶ島の住人たちはみな沈痛な面持ちで、泣いている者さえいる。


 ロマネスクは遠目にそれを確認すると、すぐに車を発進させるよう言った。

クリスは己一人だけ除け者にされたような疎外感を覚えながら、港まで車を走らせた。

目的さえ遂げれば、帰る道中はあっという間である。

入管にもカーチスの息がかかっていたのか、来たときほど入念なチェックはされなかった。

銃も、カーチスから買ったものも、ほとんど素通しで見向きもされなかった。


 そして二人は行きと同様、潮風に吹かれながら船のデッキに佇んでいる。

島の全景はどんどん遠ざかり、その輪郭を朧なものへと変えてゆく。

ロマネスクは感情を読ませない表情で、クリスは喉に異物がつっかえたかのような顔である。

島での疑問を解くために、どのようにロマネスクへ切り出せばよいか、クリスはそればかり考えていた。

やがてそんな様子を見かねたのか、ロマネスクの方からクリスへ声をかけてきた。


「どうした、クリス。何か言いたいことでもありそうだな?」


「言いたいことしかありませんよ……」


 そのセリフをきっかけに、クリスはロマネスクを質問攻めにした。


「まず、これです」


 クリスはポケットから、くしゃくしゃになった紙片を取り出して見せた。

それは島を訪れてからすぐに、ロマネスクがクリスへ千切り渡したメモであった。


「まだ持っていたのか……呆れた物持ちの良さだな」


「当たり前です。こんなこと書かれたら、簡単に捨てる訳にはいかないでしょう」


 クリスは紙を広げると、そこに書かれた文字をロマネスクへ見せつけた。

そこには流暢な筆記体で、こう書かれていた。


『ホテルの部屋、車の車内、全て盗聴されている。発言には十分に気をつけろ』


 おそらくは最重要であったろうこの忠告に、クリスはただ驚くしか出来なかった。


「一体いつ、なぜ盗聴器が仕掛けられてると気づいたんです?」


「この島へ来る前からだ」


 ロマネスクはあっさりと、衝撃的なことを口にした。


「島へ来る前からですって?そんな馬鹿な……」


 信じようとしないクリスへ、ロマネスクは訥々と語って聞かせた。


「この島の覇権は、全てカーチスに握られている。名前を出しただけで盗難された荷物が返ってくるほどにな」


「となれば、ホテルの予約状況もレンタカーの貸し出し歴も、カーチスへ漏れていると考えて相違ない」


「そこで俺は今回あえて偽名を使わず、本名でホテルとレンタカーの予約をした」


 それはクリスも気になっていたところだった。ロマネスクには資産家としての表向きの顔と、偽名がある。

本来アメリカを離れる時は、偽名を行使して動くのが常なのだ。


「カーチスからすれば、犯罪組織の長が何をしに来たかは気になるところだろう」


「そこへ盗聴器を仕掛けるのは、当然の動きだ。不審な発言があれば、島から出すことなく始末することも出来る」


「それを逆手に取って、盗聴器越しに争う意思のないことを暗に伝えていたのだ」


 わざわざ本名を明かし、たった二人で島へやって来ることで、組織だって何かしに来た訳ではないと伝える。

ではその結果得られた二つのビニール袋、その中身は何だったのか。


「あの袋は、サルバシオンですか?」


「そうだ」


「やはりそうでしたか。途中までは何の話をしていたか、さっぱりでしたよ」


 あの時ロマネスクとカーチスは、『飴』という単語を使って会話していた。それは、サルバシオンの原料に由来する隠語である。

新興麻薬のサルバシオンは、原料をとある植物から抽出している。

それが、この島で発見されたマメ科の植物の一種、「キャンディ・パフ」である。

成長すると根にパフのような綿が生じ、それを精製することでサルバシオンが生まれるのだ。


 それを科学的に解析して、合成麻薬として広めたのがカーチスだった。

ロマネスクは飴という言葉を使うことで、暗にサルバシオンの原料を突き止めていると脅したのである。

それを察したのは、実際にサルバシオンの作成を主導したカーチスと、側近のニュートだけであった。


「俺が気づいたのは、酒の薬効が覚せい剤のそれと似ていたからです。そうでなきゃ現物を拝むまで気づかなかったな……」


「情報の処理が遅い。普段から組織の諜報部には顔を出しておけ」


 ロマネスクの叱責に、クリスは気まずげに頭を掻いた。

それに付け加えるように、ロマネスクはもうひとつ情報を漏らした。


「諜報部からの情報によると、どうやらあの酒もサルバシオンを溶かしたものらしい」


「あんなものを一気飲みして平然としている辺り、カーチス本人もサルバシオンの常習者だろうな」


 それがどれほどの異常であるかは、薬物を売買する人間でなくともすぐさま理解できる。

それは、酒で希釈された程度の成分には、耐性がついているということなのだ。

奇人ワイアット=カーチスは、まるでその肉体に異常を刻み込むことを、己の命題としているかのようだった。


 そしてクリスは、最も気になっていた事をロマネスクへ尋ねた。


「ボス、最後に聞かせてください」


「なんだ」


「教会を出る前に俺たちを襲った覆面の男、あれはミケーロですよね?」


「そうだ」


「やはりそうでしたか。顔は見えませんでしたが、声と体つきでそうじゃないかと」


 クリスは自分の見立てが間違っていなかったことに、納得した顔になった。


「ということは、最初からミケーロとカーチスはグルだったってことですね?」


「だから死体を回収して、俺たちの目に触れないようにしたのか」


「あの野郎、何がカーチスを殺してくださいだ。裏で奴とつながってたクセに……!」


 しかしロマネスクは、そのクリスの見立てに小さなため息をついた。


「その程度の知見では、とても組織の参謀を任すことはできんな」


「えっ……というと……?」


「ヒントは全て出揃っている。もう一度よく考えてみろ」


 そう言われても、クリスの頭では二人が共謀してロマネスクを亡き者にしようとしたとしか考えられない。

それを見透かしたのか、ロマネスクはクリスへ、あの時本当に起こっていたことを話して聞かせた。


「もしミケーロが俺を殺るつもりなら、ホテルへ訪ねて来た時が最もベストなタイミングだった」


「我々はカーチスからの連絡を待っていた立場で、来訪者があれば招き入れざるをえなかった」


「さらに言うと、ホテル側がカーチスとグルだったならば、あそこで我々を殺した方が死体の隠蔽も滞りなく運ぶ」


「それをしなかったのは、ミケーロがカーチスの手のものではないという何よりの証明だ」


 クリスは真剣な顔になり、しばしの間黙考する。

それをさりげなく手助けするように、ロマネスクは適切な助言を与えていった。


「誰に、どのタイミングで、どんな情報が渡ったかを整理しろ。そして、ミケーロの発言をよく思い出せ」


「ミケーロの発言……?」


 クリスはそれを聞き、あの時ミケーロが何を言ったか思い出そうとした。


「ミケーロは我々にカーチスを殺してほしいと……あとは、自分がどれほどの苦渋を舐めさせられたか話していましたね」


「その後だ。ミケーロは、俺が商談に来ただけだと言った後に、何と言っていた?」


「……確か、あんたたちはカーチスを殺しに来たんじゃないのか、と」


「それだ。つまりミケーロの耳には、誰かがカーチスを殺しにやって来るという情報が入っていたのだ」


 ロマネスクはクリスへ向き直ると、転落防止用の船の柵に背中を預け、ゆったりと語る。


「我々を殺し屋と勘違いしていたということは、誰かがミケーロにそう吹き込んだということだ」


「では、誰がそんなことをする?ホテルの人間か、レンタカー屋か、それとも八百屋の親父か?」


 そこまで聞いて、クリスはようやく気づいた。


「……まさか、カーチス本人が?」


「そう考えるのが、一番手っ取り早いだろうな」


 クリスは、潮風に髪をなぶられながら驚きを隠せずにいた。

ロマネスクはそれを気にすることもなく、ただ淡々と説明を続けていく。


「例えば、こういう流れがあったと仮定しよう」


「ホテルから外国人の来島があると情報の入ったカーチスは、それがアメリカの組織のボスである俺だと気づいた」


「それに便乗する形で、『島の外から自分を殺しに誰かがやって来る。しばらく隠れて潜伏する』と島民に触れ回った」


「さて、もしもお前がミケーロの立場で、カーチスの隠れ家を知っていたとしたら、どんな行動に出る?」


 クリスははっと目を見開き、ロマネスクの目を見返した。


「カーチスを殺そうとしている人間に、居場所をリークする……!」


「そういうことだ。ミケーロの行動を説明するなら、前提としてカーチスの情報操作があったと考えるのが自然だろう」


 そこまで考え、しかしクリスの思考はそこで再び躓いた。


「ですが、それならなぜミケーロは教会で我々を殺そうとしたんです?」


「そこまでカーチスを憎んでいる男が、手の平を返した理由は何なんでしょうか」


 ロマネスクは眉間に皺を寄せ、渋い顔となった。


「まだ分からんか?ミケーロの考えは、カーチスに漏れていたのだ」


「あの時、あのホテルの部屋には何があった?」


「ミケーロの話を聞いていたのが、我々だけではなかったとしたら?」


 ロマネスクはそう言うと、クリスのスーツのポケットを指差した。

クリスは今日何度目かの驚愕の表情で、ポケットから何かを取り出した。


「盗聴か!」


 それは島を訪れた時に渡された、ロマネスクの走り書きだった。


「そう、あの部屋はカーチスに盗聴されていた。ハメられたのはミケーロの方で、我々は裏切者の炙り出しに利用されたのだ」


「ついでに言うなら、あの八百屋の店主も他の家族も、今頃ミケーロもろとも皆殺しになっているだろうな」


「見せしめ、ですか……」


「そうだ」


 クリスはなぜロマネスクが、帰り際に八百屋へ寄ったのかを理解した。

店が閉まっているにも関わらず人だかりが出来ていたのは、ミケーロの家族の死体が発見されたからだったのだ。


「俺が伝言を頼んだのがあの八百屋だったのも、カーチスの幸運……いや、ミケーロの不運だったな」


「情報が直に裏切者へ伝わったことで、カーチスが思ったより早くミケーロは動き出したのだろう」


「そこを捕えて、ロマネスクたちを殺らねば家族の命はないと脅された。真相はそんなところだ」


 クリスは悔しげにメモを握り潰すと、乱暴にポケットへと突っ込む。


「なんて野郎だ……全部カーチスの手の上じゃないですか!」


「実際、その通りだろうな。カーチスの智謀は見事だったとしか言えん」


「褒めないでくださいよ。ボスは敵に利用されて、悔しくないんですか?」


 クリスの言葉に、まるで平素と変わらない様子でロマネスクは返した。


「何を悔しがることがある。こちらに害はなく、商談は滞りなく進んだ」


「俺が裏切者を炙り出すなら、組織の長として同じことをしただろうとしか思わんな」


 それはいかにも冷徹で、合理的なロマネスクの言葉だった。

クリスはそれに何も言えず、腹わたの煮えくり返るような思いだけを燻ぶらせる。


「それじゃあ、裏切者を粛清して金も得た、カーチスの一人勝ちってことじゃないですか」


「そうとも限らん。こちらはサルバシオンを手に入れさえすれば、それで良かったのだ」


 ロマネスクはそれまでの無表情からは一転して、その顔にうっすらと邪悪な笑みを浮かべた。

クリスはその表情に、戸惑いを隠せなかった。


「お前が組織の頭だとしたら、あのサルバシオンをどう使う?」


「そりゃ、量が量ですし……なるべく高く買う人間を探して、それで終わりでしょう」


「それではカーチスの息の根は止まらん。売るよりももっと有益な方法がある」


 ロマネスクは腕を組むと、典型的な悪党の顔でクリスへ語る。


「サルバシオンの成分を解析し、類似した合成麻薬をカーチスたちより安価に販売する」


「そうすることで、ビリャ・カルテルの麻薬の販路を、アメリカから完全に駆逐するのだ」


「そんなことが可能なんですか?」


 確かに、合成麻薬を自力で作れるだけの設備と人材を、ロマネスクの組織は揃えている。

しかしクリスにとってそれは、MDMAやMDA等の、製法がすでに確立されているドラッグを作るためのものだった。

一から解析を行い、科学的に調合して量産化することは、当然ながらそれより遥かに困難である。


「そのために、サルバシオンの現物が必要だったのだ」


「今回の取り引きは、どうやってカーチスからサルバシオンを引き出すかが肝だった」


 クリスは、荷物に紛れて持ち込んだ黒い袋を思い浮かべる。

あの小さな袋に十万ドルもの大金をかけたのには、そんな理由があったのだ。


「カーチスもそれを承知で、最初はサルバシオンの含まれた酒を薦めてきただろう?」


「そうでしたね」


「アルコールは成分の組成を歪め、解析を困難にする。あれでこちらが納得していれば、向こうとしては万々歳だったろうな」


「なるほど……」


「しかしもちろん、それで引き下がるこちらではない。故に奴は、今度は別の方法で我々の目を逸らそうとした」


「その方法とは……?」


「黒いビニール袋だ。あれは中身が目視されないよう、敢えてあのような濃い色の袋を使っていたのだろう」


「じゃあ、まさかあの中身は偽物……!?」


「敵もそこまで馬鹿ではない。偽物を取り引きすれば、こちらへ報復行動の大義名分を与えてしまう」


「あれは精製度合いの低い、混ぜ物をしたサルバシオンだ。高純度の合成麻薬は、色で判断出来るからな」


 例えば覚せい剤は、その純度が高いほど白く、混ぜ物が多くなるほど黄ばんでみすぼらしい色合いになる。

サルバシオンが合成麻薬であるなら、同じことが言えると仮定しても何ら不思議ではない。

あのやり取りの裏でそのような駆け引きが行われていたことを知り、クリスは感嘆してしまった。


「カーチスは今回、ひとつだけミスを犯した。それは、我々の化学解析班の力を侮ったことだ」


「粗悪なサルバシオンであれば、使用は出来ても解析まではできまいと高を括っていたのだ」


「まさか奴も、1グラムでも本物が含有していれば解析は可能だとは、思わなかったのだろうな」


「成分分析さえ済んでしまえば、こんな物騒な島を訪れることも二度とあるまいよ」


 クリスは取り引き時点でロマネスクが一矢報いていたと知り、溜飲の下がったような顔をする。

しかししばしの後、再びクリスの頭には疑問が浮かんできた。


「しかし、あの袋はここまで中身を確認してないんですよね」


「もし中身にサルバシオンが含まれていなかったとしたら……例えば、ただの覚せい剤か何かだったらどうするんです?」


 当然のその疑問に、ロマネスクはあっさりととんでもない回答をした。


「あぁ、それなら問題はない。昨晩お前が寝ている間に、俺が本物かどうか試しておいた」


「試した、って……!?」


「確かに、浮きながら沈むようなこれまでにない使用感だったな。粗悪品でも間違いなく本物だろう」


 さすがのクリスも、その発言には開いた口が塞がらなかった。

まさか組織の長たるものが、自分から麻薬を使って試すなどと、誰が思うだろう。

道理で、確認もしていないサルバシオンの色にまで言及するはずである。


「なんて馬鹿なことを……あなた一人の体じゃあないんですよ!?」


「フン……悪党が体を気遣われるようになっては、おしまいだな」


「後遺症やバッドトリップなんかは出てませんか!?」


「さぁな。とはいえ今後、禁断症状くらいは起こる可能性がある。帰ったら十日ほど、蕪新町で療養しておくか」


 クリスは頭を抱えて、目の前の怪物を呆れた顔で見ていた。

たった十日で禁断症状が治まるのであれば、それはあのカーチスにも勝る特異体質である。

クリスはロマネスクの肩を掴むと、打算なき言葉で彼に忠告した。


「これは組織幹部じゃなく、あんたの身内として言わせてくれ……」


「頼むからあんまり無茶なことはしないでくれよ、親父……」


 クリストファー=ロマネスク。後にノービス=ロマネスクの父となる男である。

彼は組織の幹部であると同時に、ロマネスクの実の息子でもあった。

ロマネスクはそれを聞いてか聞かずか、肩に置かれたクリスの手を振り払う。


「この歳になるまで、死ぬこと以外はほとんど経験しとるわ。今となって恐れるのは、目的を達せずにくたばることだけよ」


「そのクスリが死ぬ原因になるとは、思わないのかい?」


「必要とあらば、どんな危険も省みている暇が惜しい。それだけだ」


 クリスはため息をつくと、それ以上は何も言わなかった。

言ったところで聞くような人間ではないと、重々承知しているのだろう。

その感性は常人離れした組織の人間の中では貴重でもあり、またロマネスクが彼を重用出来ない理由でもあった。


 ロマネスクが欲しているのは、常軌から逸れた胆力と人間力である。

クリスはあくまでも普通人の考えに終始しており、その枠を越えることは生涯ないだろう。

例えばクリスは、それがどれだけ必要であっても、自分から効能の知れない麻薬を試そうなどとは思わない。

その点が彼の限界であり、またロマネスクの理想に反する点でもあった。


 ロマネスクはしばしの間、ワイアット=カーチスについて思いを馳せていた。

あの怪物性には一度触れれば十分であったが、惜しむものがないわけではない。

ロマネスクが今回あの離島を訪れたのには、飴の奪取の他にもうひとつ、隠された意図があった。

それは、ワイアット=カーチスという人間の在り方を、この目で確認したいと思っていたからだった。


 ロマネスクには現在、その真の目的を共有できる片腕と呼べる人間が存在しない。

それは、実の息子であるクリストファーにさえ、未だ話していないことである。

彼には日本で革命を起こし、アメリカ政府から主権を取り戻すという使命があった。

それは旧天皇家の要人であり、彼の盟友でもある皇族、豊篠宮郁仁(とよしののみやゆくひと)からの依頼であった。


 その目的が果たされるまでには、まだまだ長い年月が必要とされる。

金も、人脈も、武装も、およそ革命に必要な手札は余すところなく揃えねばならない。

そのため、もし道半ばでロマネスクが亡き者となったとき、その実現を託せる者の存在が必要となった。


 今回ロマネスクがカーチスに目をつけたのは、諜報部からもたらされた彼の経歴に、期待を持ったからだった。

アメリカ側に加担した形とはいえ、カーチスは紛争を収め、島国の危機を救った英雄である。

そういう人間ならば、ロマネスクの目的にも賛同し得るのではないかと考えたのだ。


 必要なのは、ロマネスクに匹敵する強靭なカリスマ性だった。許されざる悪事すらも手段として正当化してしまえるような、そんな超人性である。

しかしカーチスは、島民さえ巻き込んで私腹を肥やす、怪物であった。


 ロマネスクは、裏切者の炙り出しのためなら、カーチスと同じことをするだろうと言った。

しかし、その矛先が一般市民に向いてしまっては、革命を成すことは出来ないのだ。

一度市民からの不審を買えば、たとえ革命を成し遂げたとしても誰も彼を信用しない。

それではどんな大義名分を得ようと、元の木阿弥でしかない。


 カーチスの敷く恐怖政治とは、相容れない思想でもってロマネスクは動いていた。

ハングマン=カーチスは、天より垂れる救いの糸には到底なりえない。彼はまるで死人の王のように、この島の住人たちの上に君臨していた。

果たしてこれより先、己の片腕と呼べる人間は現れるのだろうかと、ロマネスクは思う。


「なぁ、クリスよ。お前はサルバシオンという名前が、どういう意味か知っているか?」


「いえ……知りません」


 クリスは親に対するものでは無く、組織のボスに対する言葉遣いに戻っていた。


「『救済』、という意味だそうだ。一体カーチスは、何を救おうとしておるのだろうな」


 余りにも皮肉なその言葉を残し、ロマネスクは自分たちの船室へと引き返す。

クリスもその侘しげな背中に続き、船のデッキを後にした。


 その後数年の時を経て、ロマネスクは息子であるクリスへ、己の本当の目的を語る。

そして彼を革命の一員とすべく、カンボジアの秘密訓練施設へ送った。

しかしその時点においてさえ、彼の右腕と呼んで差し支えない人間は現れていなかった。

その事実に触れる度、ロマネスクはハングマン=カーチスのことを思い出す。

果たしてその名の因縁は途切れたままなのか、それとも再び絡み合う日が来るのか。


 それはロマネスクがフォークロア=ラモンと出会う、二十年も前に起こった出来事であった。



≪了≫

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THE SEVEN KILLERS NO MORE DIE !! ~殺し屋ラモンと七人の刺客~ じょにおじ @johnnyoji

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