第16話

練習が始まってからはや一週間が経った。


結局この一週間、僕は隅の方でみんなの練習を静観し、時々上がらせてもらった時には程よくプレイする。そんな感じの毎日だった。

そして本番まではもう残り一週間である。

このまま程よく練習に混じって入れば、きっと本番もこんな感じで程よく終わるだろう。


「そろそろ休憩にしようか」


阿波谷のその一声で男子の練習ぜいはこちらの方に群がってきていた。そしてそれぞれの会話が始まる。


バスケの練習の話からその他ゲームの話など、様々な話題が飛びかっていた。もちろんその中でも一番大きいグループの中に阿波谷は混ざっている。


こうみんなが雑談しているのを高みの見物するのも気持ちがいい。孤独というものは辛いことだってあるけれど、同時に自分に浸れるのである。


しばらくしていると、阿波谷のグループが二方に分かれた。まるでこちらに道を作っているかのようだった。すごく嫌な予感がするので、僕はあえてそっぽを向いて話しかけないでくださいオーラをだす。


しかし案の定そうしてもグループの道が閉じる様子はない。むしろその周りを他のグループが囲んでさらに大きな輪になっているようにも見えた。


その中を一人の男が歩いてくる。阿波谷だった。


「ねえ優くん」

「なんだよ」


阿波谷は僕の名前を呼んだ。座っている僕に目線を合わせるためかのようにしゃがんでくる。


「優くんてさ、中学校の時バスケ部だったんだよね」

「………」


一瞬僕らを囲むようにしている人たちがざわめき出した。全く鬱陶しい。


「……だったら何」

「んー、元バスケ部なのになんで本気出さないのかなって思って」

「本気は出してるよ。僕は君とは違って運動神経はそんなに良くないんだ」

「へえ………なら僕と1on1やらない?」

「なんでだよ」


脈絡がなさすぎて思わずそう聞き返してしまった。


「1on1すればどちらが強いかわかるでしょう?このクラスの勝利に貢献するためにはより強い人材を採用しなくちゃいけない。僕は君がそのより強い人材の中の一人だと思うんだ」

「………誰がそんなことするか。これが僕の本気なんだよ」


僕がそういうと阿波谷はまるで僕のことを見透かしているかのような目で、一瞬ニヤついた後僕の耳に口元を寄せた。


「…………僕情報網だけはあるんだ」


そしてそう僕に囁いた。


なるほど、こいつは僕の過去を知っているらしい。その上で脅しに来たようだ。おそらくこの勝負、受け入れないと僕の立場は悪くなりそうだ。

良くも悪くもない人から、悪い人になる。それだけは避けたい。


「わかったよ。やりゃいいんだろ」

「物分りが良くて助かるよ」


そして僕は立ち上がり、コートへと向かった。


×××


試合の結果は僕の敗北だった。それでも完敗というわけではなく、好戦した、という感じだと思う。


以降、なんだかよく話しかけられるようになってしまっている。まあしっかりかわわしているから問題はないのだが。


「よかったねゆうちゃん!みんなから認められたじゃん」


ハイテンションに僕にそう行ったのは蓮架である。


「別に認められたいわけじゃあない」

「そうなのかな…?」


すると蓮架は意地悪に笑った。何様のつもりなのだろうか。


「じゃ、僕は帰るから」

「あ、ゆうちゃん、今日は一緒に……」

「部活あるから」


断った理由になっていないのはわかっている。

しかし蓮架と一緒に居たくない、それだけは事実だった。


蓮架を一瞥してから、僕は部室へと向かった。

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住み着かないで、生徒会長‼︎ 雨晒 @amarashi

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