第15話
長く退屈だったバスケの練習も終わり、僕らのクラスは着々と家路についていた。
やめる時間はみんな同じだからだろう、体育館の出入り口は半ばすし詰め状態で、とてもじゃないけれど今出ていく気にはならない。だから僕は今は出口にはいかずに体育館の隅の方でちょこんと体操座りをしている。
こう見ると少し滑稽だと思う。
我先にとせっかちに出口に向かっていく輩たちは無我夢中である。
少し待てばスムーズに出られるのに。
現代の人々は待つと言うことを知らない。結局どれだけ遅かろうが早かろうがたどり着く結末が同じならば待った方がいいと思う。
……まあそれは僕に友達と呼べる人がいないからだろう。
きっとあんなにせっかちに出ようとしているのはこのあと予定があるからなのかもしれない。
まあそれでも共感できる気はしないが。
しばらく座っていると、あの集団から逃げ出してきたかのように抜けてきて、僕に近づいてくる者がいた。
普段であれば僕に向かってきているなんて思わないんだが……今体育館の隅の方にいるのは僕だけなので、おそらく話しかけに来たんだろう。
その抜けてきた彼……阿波谷鷹久は僕の隣に座った。
「や、神名くん」
「……なんですか」
くらいの違う相手にたいしてはどうしても敬語になってしまうものだ。ほら、同じ年齢でも平民が社長令嬢に話しかけるときは敬語になるだろ?
それと同じだ。
「敬語じゃなくてタメ語でいいんだけど?」
「……今まで接点なんてなかったんですから、仕方ないですよ」
あいにく相手方はその姿勢について好印象ではないらしい。
てっきりよいしょしてればいい気にでもなってどっか行ってくれるかとおもったが、存外そうでもないらしい。
「……と言うか戻らなくていいんですか?このあと友達と遊びにいく約束でもしてるんじゃ?」
「友達、ね」
すると一瞬だけ阿波谷は表情を崩した。
いつもヘラヘラ……もといニコニコしている阿波谷とは思えない、なんとも言えない複雑な表情をを彼はしていた。
「ねえ、神名くん」
「はい」
「友達がいないってつらい?」
こいつ遠回しに僕に友達なんていないって言いたいのか?
いや否定はしないが…。
別にここで嘘をつく必要もないしそういう雰囲気ではない気がするので正直に白状しておこう。
「……気遣いなんてしなくてもいいから、楽だよ」
「…………全くその通りだ…」
そんな感じの答えが帰ってくるとは思っていたし、きっと自分を謙遜して、下げることで僕を貶したい、そういう魂胆だと思っていたけれど予想以上に重い口調だった。
「表面でどれだけ仲良さげに接しようとも、裏じゃみんなそんなこと思ってないんだ。……俺に友達なんていない。あれは、、、言うなれば友達の皮を被った悪意、みたいなもんだよ」
「あれか、阿波谷の言う友達ってのは人間関係版ミミッキュって感じか?」
僕がそう返すと、阿波谷は少し驚いたようだったが、しばらくして笑い出した。
「優くんは面白いね!最高だよ!!」
すると彼はまたもや笑い出した。何がそれほどに滑稽だったのだろう?
しかしこの男、不思議である。この男と話しているとまるで僕の中学校のころのようだった。もちろんあの頃の性格は省くが。
なんと言うかあの頃の僕のたちいちのようだった。
「僕たちなんだか似てるね。何となくだけれど君とはいい友達になれそうだ」
「格も核も違うだろ。僕らは」
「まあ今日のところは名前とタメ語で勘弁しといてやるよー」
そういってやつはもうすし詰めでない出口へと向かった。
あんなリア充もどきににてるなんて…………そんなんじゃボッチやってられねーよ…。
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