第14話
「…………」
僕は今機嫌が限りなく悪い。こんなに機嫌が悪くなったのはきっと折鶴が家に来た時以来である。
清見沢高校との交流会の種目、バスケットボール。僕は経験者であることは黙って静かにやり過ごそうとしていた。
僕はクラスの中じゃ空気と人間の境目で影がウスウスの実能力者だからやり過ごせると思っていたのだけれど……なるほど僕はアイツのことを配慮していなかったらしい。
あの忌々しきリア充、堺路蓮架のことを。
黒板に書かれたスタメンという字の下に踊る三文字、神名優。
どれだけ人を面倒ごとに巻き込みたいんだよ。かまちょか。
そしてそれを否定できる度胸も能力もない僕は流されるがままという感じである。
くそ、人の流れに身を任せちゃったよ。お願いされてそばに置かれちゃったよ。
そしてあえなく僕は練習に巻き込まれて体育館にいた。交流会の練習は体育館で行われる。それぞれコート半面分各クラスに与えられている。バスケコート半面なので残念ながらゴールは一個しかない。
ちなみに時間は帰りから部活始まるまでの三十分である。
「そろそろ男女交代しようか」
前述したとおりひとクラス半面なので男女交代制である。そしてそう指示を出したのは爽やかイケメン
僕は爽やかイケメンにいい思い出はないので休憩という時間になって阿波谷に集まる男子たちとは真逆の方向へと足を進める。
体育館の隅である。上履きが体育館のワックスたっぷり床に擦れる音が耳を占める。嫌いじゃないけど好きじゃない。
しかしやはり体育館は熱気で溢れかえっており、意識が飛びそうである。六月て事もあってジメジメした熱気だ。
自分のシャツで風を送ってみる。
▷効果はイマイチだ!
「暑いですねやはり……」
隣に座ったショートボブの女子がそう呟いた。確かに暑いな。きっと世界共通。暑さと寒さは言語が通じなくても共感できるよね!自然サイコー。
「…………聞いてます?」
「………………え、あ、僕?」
「私が話しかける男子は優くんくらいですよ」
そう折鶴は言う。いやそんな事ないでしょ生徒会長なんだからあんた。
「てか優くんわりと動けるじゃないですか!あれですか、運動神経良い系ぼっちてやつですか」
「そんな大層なもんじゃねーよ」
「突っ込むところが『動ける』てとこじゃなくて『運動神経良い系ぼっち』てとこなんですね」
「屁理屈言ってんじゃねー」
痛いところつくじゃないか……。
「ところで非リアくん」
「確かに僕はリア充なんかではなく華麗なる非リアであるがしかし折鶴、僕の名前は非リアではなく神名だ…………てか折鶴、お前著作権て知ってるか?」
「失礼、かむみゃした」
「違う、わざとだ……って言わせろよそこで噛んでんじゃねぇよ⁈」
てか著作権的に大丈夫だろうか?
「鷹久くんのところに行かなくても良いんですか?せっかくリア充と交友関係を築けるかもしれないチャンスなのに」
折鶴は意外そうに首を傾げる。
「僕があんな薄っぺらそうな男に尻尾振ると思うか?」
「それもそうですね……優くんは私にしか尻尾降らないですもんね!」
「自意識過剰乙」
適当にあしらうと折鶴は頬を膨らませた。
「なんでそんな適当なんですか?私それなりに文武両道眉目秀麗の超絶美少女だと思うのですが……」
「そういうとこだよそういうとこ」
ツッコミを入れてから僕はため息をつく。
いつから自分を神だと思っていた?
というかさっきから視線が痛い。主に男子から。そりゃそうだ。クラスで浮き気味ならぬ沈み気味な僕に学校の自意識過剰系美少女が話しかけてきているのだ、無理もない。
「そろそろ失せてくれないか?」
「なんでですか?」
僕は必死に目で訴える。主に男子を見るようにして。
「あー、なるほど」
すると折鶴は納得したような顔をすると僕の腕に自身の腕を絡んできた。
「おいなんのつもりだ僕の訴えたことわからないのか」
「アイツらに私たちのイチャイチャっぷりを見せつけるんです!」
「やめろうせろきえろ折クズ」
「私紙屑になっちゃった……折クズって絶対鶴折ろうとして折れなかったやつじゃないですか…」
意外にクリティカルヒットだったのか折鶴は絡んでくるのをやめた。
「ここは私に免じて許してあげます」
「僕に免じろよ……」
すると折鶴は立ち上がり折鶴のクラスの集まりに足を向ける。
「次は覚えといてください!」
そう言ってダーッと走っていった。
どこの悪役だよお前。
するとタイミングを図ったように阿波谷が男子に号令をかける。
そして僕はゆっくりと腰を上げた。
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