After9  結局……

後日談も、これで終わりです。読んでくれた皆さん、ありがとうございました。

一応、続編です。 こちらも読んで貰えると嬉しいです。


『魔術士(女)に召喚されて銃撃戦から救ったら、身体も魂も捧げるから契約しろって迫られたけど。俺には四人の妻と二人の愛人がいるから、異世界から日帰りで通うけど何か?(仮)』


https://kakuyomu.jp/works/16816700426573987275


--------------------------------------


「ギャスレイ……何故、私を殺さない?」


「殺したくないと思う程度には、おまえの価値を認めたからだ」


 憎悪の視線を向けるオリビエに、ギャスレイは淡々と告げる――人族と魔族の争いを終わらせるいうカイエの目的のために、ギャスレイも役に立ちたいと思っている。


 だから、復讐の連鎖は断ち切りたいが、弱者に殺される気などないし。復讐して来るのが詰まらない相手なら、何度も付き合う気はないから殺してしまう。正当防衛とは言わないが、私闘の結果なのだから、カイエが文句を言わない事も解っていた。


 しかし、オリビエにとっては……仇の恩情で生き残るなど、屈辱以外の何者でもなかった。


「まあ……この状況を招いたのは俺だし、結果も解ってたけどな」


 行き場のない怒りを抱えるオリビエに、カイエは明け透けな言葉を掛ける。


「おまえが復讐心を向ける相手を間違えてたからさ。とりあえず、ギャスレイに復讐する機会を作ったけど。今のおまえじゃ、ギャスレイに殺されないまでが限界だな」


 カイエに教えられなければ、オリビエはギャスレイが生きている事すら知らなかった。その上、ギャスレイの居場所に案内して、オリビエを鍛えてさえくれた。


 だから、カイエを恨むのは筋違いなのだが――結果すら解っていたと平然と言われて、怒りが込み上げる。自分はカイエの掌の上で踊らされたのだ。


「そして、ここから・・・・が、おまえの選択だ……生き残った命を使って、ギャスレイを倒すために自分を鍛え続けるか。踊らされたと怒り狂って全部捨てるかだ」


 どっちでも構わないけどなと、カイエは笑う。


 諦めるなら好きにすれば良いし。自暴自棄になって自殺行為に走るなら、とりあえずは関わった分くらいの面倒は見る。ただし、代償行為として関係のない魔族への復讐を続けるなら、絶対に阻止するが……


「なあ、オリビエ……答えなら、もう決まっているだろ?」


 全部見透かしたように笑うカイエが嫌いだ――だから、オリビエはずっと苛立っていた。


 しかし、その奥で芽生えていた感情……ギャスレイに対する復讐心をオリビエは忘れるつもりなどないが。自分とは全く違うモノを見ているカイエは、人族と魔族の争いを本気で終わらせようとしている。


『オリビエ、これは聞き流して良いけど……カイエだってお父さんを魔族に、お母さんを人族に殺されてるし。カイエ自身も仲間だった人族と魔族の両方に裏切られて、一度殺されているの』


 時間を止めた空間で、鍛錬の後にローズが語った台詞。あのときは眉唾だと聞き流したが……どういう訳か、今は信じられる。


「カイエ、貴様は……どこまで、私を馬鹿にすれば気が済むのだ?」


 オリビエはカイエを睨み付けるが――そこに憎しみはなかった。


「俺はオリビエの事を馬鹿にしてなんかないよ……馬鹿な奴だとは思ってるけどさ」


「貴様……本気で怒るぞ!」


 悔しいが、色んな意味・・・・・でカイエに勝てない事は解っているから……オリビエはギャスレイに向き直り、憮然とした顔で。


「ギャスレイ・バクストン……私を見逃した事を、絶対に後悔させてやる!」


「オリビエ・コーネリア……いつでも復讐しに来い。それまで生きていれば、また相手をしてやる」


 ギャスレイに激しい視線を叩きつけて、オリビエは立ち去ろうとするが――


「ねえ、オリビエ……下着を見た責任を取れとか、まさかカイエに言わないわよね?」


 ニッコリと笑っているが、目に極寒の光を宿すローズが立ち塞がる。


「な……何を馬鹿な事を言っているのだ! 勇者ローズ、ふざけるのも大概にしろ!」


「ふざけてなんかないわよ……私が気づかないと思う? まあ、良いわ……警告はしたからね」


 オリビエの心に芽生えた感情……他の六人も気づいている事は、彼女たちのジト目を見れば解る。オリビエがカイエと話しているときの雰囲気が明らかに変わっているのだ。


 オリビエが本気なら、ローズたちも邪魔する気はないが。少なくとも今のオリビエを放置するつもりはない……下手に刺激して本気になられても困るのだが。


 七人の視線に晒されて、オリビエが憮然としていると。


「じゃあ。とりあえず、帰るか……ギャスレイ、また来るからさ。おまえもしっかり鍛錬しろよ」


「はい、ラクシエル閣下……ゼグランにも、よろしく伝えてください」


 元魔王軍の第七師団長ドワルド・ゼグランは、ギャスレイと同じ魔将であり。今はカイエが支配する聖王国の辺境伯領を実質的に任されていた。


※ ※ ※ ※


 そして、帰路も――カイエたちは昼間はバカンスを楽しんで、夜は鍛錬の日々を過ごした。


 時間を止めるハードモードを頻繁にやる訳ではないが。日々の鍛錬と模擬戦はカイエたちにとって日課だった。しかし、オリビエも当然のように毎日に参加して、カイエに鍛えてくれとせがんだ。


 ここまでは良い……ギャスレイへの復讐を果たすために、オリビエが強くなろうとするのは当然だし。今回の旅の間しかカイエに鍛えて貰える機会はないのだから、積極的になるのも解る。しかし……


「ど、どうしたというのだ、カイエ……私の格好は変か?」


 ダフィロスの港を出港した夜――夕食の席に現れたオリビエはドレス姿だった。


 裏事情を語れば、オリビエの父親である皇帝エドバン・コーネリアがカイエに失礼のないようにと、オリビエの服を色々と用意していたのだが。慣れないドレス姿に恥ずかしそうに頬を染める『鋼鉄姫』のギャップ萌えに。


(ピンクの下着の事といい……もしかして、オリビエって実は可愛い格好が好み?)


 ローズたちは警戒心を強めるが。さらに翌日――


 強い日差しが降り注ぐデッキに現われたときは……さすがにビキニではないが、白いワンピースタイプの清楚な水着で。水着まで用意していたのはエドバンのヒットだが。オリビエの『可愛い格好好き』と、もはやフラグどころでは無い状況をローズたちは確信する。


「ちょっと、ローズ……あんたが煽ったせいじゃないの?」


「アリス、そんな事を言っても……」


「まあ……オリビエがその気なら、私が相手になろう」


「そうだよね。オリビエなんかに、絶対負けないから!」


 ローズたち四人は本気モードでカイエに甘えて、ロザリーとメリッサも加わり。オリビエもひるまずに対抗するが……


「ねえ、エミーお姉様……私は?」


 控えめボディでビキニ姿のアイシャは、最後まで負けヒロインだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

勇者(女)を魔神から救ったら一生放さないと抱きつかれた件(仮) 岡村豊蔵『恋愛魔法学院』2巻制作決定! @okamura-toyozou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ