ナマポランドフクシマ

第1話 ナマポ

　俺の名前はずいえき。

　ずいえきってのが名前かって？

　もちろん本名ではない。本名は田中マポだ。年は２９歳。２９歳にもなりながら女性経験は０。いわゆる童貞といったやつだ。うん。

　ずいえきというのは、趣味のニコニコ生放送でのユーザーネームである。

　そして俺は無職。国から生活保護を受給している『ナマポ』だ。ナマポを受給しながら地元である福島県にて一人暮らしをしている。

　俺のナマポ生活は今年で１２年目。高校卒業するとともにバイトをクビになり、就活ではどこからも相手にされず失敗。生きていくために仕方なくナマポを受給し始めた。

　今ではナマポ生活も板についてきたもんだ。

　世間から後ろ指をさされようが、ケースワーカーが訪問に来て社会復帰を促そうが、俺のメンタルは傷つかない。

　最近は隣人からも、ナマポの上級者『ナマポプロ』とも噂され称賛されているようだ。

　働こうと思ったことは何度かある。今年の春だって行きつけのスーパーの面接を受けに行った。

　しかし、結果は不合格。

　２年前の東京オリンピックと同時に施行された『外国人労働者の受け入れ拡大』のための法案のせいで働き手が飽和状態となり、日本全体が就職難になっているそうだ。

　就職難のせいでナマポ受給者もここ２年で大幅に増加。世間では日本の景気の足を引っ張るものとして社会問題になっている。

　まったく、ここは日本人の国だぞ。外国人のせいで俺らが困るなんて、こりゃないよ。国は底辺層にまで目を向けてほしいもんだね。うん。

「ピーンポーーン♪」

　めずらしく俺の部屋に訪問者を知らせるチャイムが鳴った。

　今日はケースワーカーの訪問日でもないし、これはＮＨＫかな？

　居留守がばれないように、こっそりドアスコープを覗き込んだ。

　外にはスーツを着た男二人組が立っている。

「田中さん。国から派遣されてきた者です。あなたに重要なお話がありまして・・・」

　ほぉ、これが噂に聞くＮＨＫの身分隠しだな。ドアを開けさせようったって、そうはいかないよ～。

「ご在宅ではないようなので、これはポストに入れておきますね。重要な書類なのでお早めにお取りになってください」

　ＮＨＫにしてはしつこさがなかったな。カーテンの隙間から二人組が車で去るのを確認して、俺はポストの中身を確認しに行った。

　なんだこの怪しげな封筒は。

　中を見るとそこには『第２回福島原発帰還困難区域調査の依頼』と記されていた。