あれー、工事屋さん来てるー。
エリー.ファー
あれー、工事屋さん来てるー。
僕は、良い子だと思う。
小学生だけど。
あと、頭も良い。
小学生だけど。
それに、大人だ。
小学生だけど。
辛いものとか沢山食べられる。
小学生だけど。
僕は放課後、友達と遊ぶこともあるけれど、大抵はお母さんと一緒に夕ご飯を買いにいくことが多い。単純な理由で、それはとても料理が好きだからだ。
台所に立って、お野菜とかお肉を切るのが大好きだ。
最近はドリアを作った。
すごく美味しかった。
お母さんもお父さんも、美味しいね、と言ってくれた。
たぶん、僕は将来コックになってしまうと思う。こんなに美味しいドリアを作ることができるのだから、これはもうしょうがない。僕がなりたくなくても、世界とかはたぶん僕を見つけ出すと思う。
やれやれ、だ。
全くだ、ぜ。
買いに行くスーパーは家から五分くらいのところにある。
そして。
その横の所で、何やら大きな音が聞こえてくる。
「あれー、工事屋さん来てるー。」
僕はそう言って、指をさす。
工事屋さん。来てる。
僕は工事屋さんが好きだ。だって、あんな大きな機械を軽々使って次から次へと壊していく。
正直、誘われたら手伝いたくなるくらいに、すごく楽しそうだ。
あんなに分厚い壁がもう砕けて粉になって飛んでいたりす。地面から伸びているコードがまるで枯れた木のようで、そこを歩く工事屋さんの人はかっこいい。
「お母さん、お母さん。あそこって。」
「そうねぇ、何があったかしらねぇ。」
「うん。分かんない。」
「普通の家だったんじゃないかしら。」
「靴屋さんだったと思うけど。」
「そうだったかしら。」
「うーんとね。本当は分かんない。」
正直な方が、僕はいいと思うので、こういう時はすぐ白状するようにしている。
それから数時間後に、僕は料理のお手伝いをした。
玉ねぎの皮むきとみじん切りだ。意外にも目が痛くなかったので、直ぐに終わって、お小遣いをもらった。
直ぐに自転車に乗って駄菓子屋に行く。晩御飯の時間になる前に、お菓子を買って、食べて、そして、帰る。そうしないと、お母さんにちょこっとだけ怒られる。
駄菓子屋はゴミ捨て場の前を通ってからポストの所を右に曲がると、右手に見えてくる。
直ぐだ。
僕は自転車を巧みに操作して、すごくかっこよく曲がる。
すると。
「あれー、工事屋さん来てるー。」
声が漏れた。
駄菓子屋の隣に工事屋さんが来ていて、取り壊しをしていた。
少し埃っぽいけれど、やっぱり工事屋さんはかっこいい。
駄菓子屋の前に自転車を止める。
「おばあちゃん、工事屋さんが来てるね。」
「うん、来てるねぇ。どうしたんだろうねぇ。」
「取り壊しだよ、おばあちゃん。」
「あぁ、取り壊しか。そうだねぇ。」
僕は少しだけ考える。
ここにもたぶん、家かお店かあったんだろうと。でも、もう、壊されてしまうくらいの存在だから、記憶にもない。
なんだか、とっても寂しかった。
次の日。
僕はお母さんと一緒に公民館に向かって歩いていた。こどものための音楽祭とかいうのを聞きに行く予定だからだ。
正直、あんまり興味はないけど。
僕の好きな曲を演奏してくれるといいなぁ、くらいには思う。
だから、僕とお母さんは。
ゴミ捨て場の前を通って、ポストのところを右に曲がる。
「あれー、工事屋さん来てるー。」
最近、何度も見ることができて嬉しい。
工事屋さんは。
ゴミ捨て場の前を通り、ポストのところを右に曲がって直ぐ右手の建物を壊していた。
すごく汚い、ぼろぼろの建物を壊している。
「おかあさん。おかあさん。」
「なんだったかしらねぇ、ここにあった建物。」
「うんとねぇ。」
「靴屋さんだったかしら。」
「違うよ。」
「あら、ごめんなさい。」
「鍵屋さんだったよ。」
「あら、そうだったかしら。」
やっぱり、こうやって壊されてしまうようなところなんて、一々覚えていられないのだ。
僕はお母さんの手を引いて公民館に向かう。
その次の日。
僕はなんだか朝早く起きて、久しぶりに朝刊を取りに行こうと思った。
まだ、みんな寝ているから僕が一番乗りだ。
いえい。
玄関の扉を開ける。
「あれー、工事屋さん来てるー。」
あれー、工事屋さん来てるー。 エリー.ファー @eri-far-
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます