春の惑星(旧)

雨世界

1 もうすぐ、春がやってくる。

 春の惑星


 プロローグ


 もうすぐ、春がやってくる。


 本編


 私はあなたに恋をする。


「春太。いる?」

 そう声をかけると、「なに?」と言って、教室の中から返事が返ってきた。


 春太は窓際のところに立っていた。

 そこから窓を開けて、教室の外に広がる青色の空をじっと、一人で眺めていた。春太の目はいつもと同じように、孤独な色をしていた。

 

 春太の目には、ほんのりと空の青色が残っていた。


 そんな春太の目を見て、四季はどきっと、自分の心臓の鼓動が高鳴るのを感じた。


「なんだ、四季か」

 ぼんやりとした表情で春太は言う。

「なんだ、じゃないでしょ? そんなところでなにしているのよ。みんなもう先に帰っちゃったよ」

 そう言いながら、四季は春太のいるところまで移動をする。


 春太は水色の中等部の制服を着ている。

 四季も水色の制服を着ている。(四季は、スカートの下にジャージを履いていた)


「なに見てたの?」

 にっこりと笑って四季は言う。

「空」

 いつものように、春太は言う。


「春太は相変わらず空ばっかり見ているんだね。そんなに好きなの? 空」四季は言う。

「別に好きじゃないよ」春太は言う。


「じゃあ、なんで空ばっかり見ているのよ?」春太を見て、四季は言う。(四季のポニーテールの髪型が、その顔の動きで、左右に揺れている)


「空を見てたんじゃないよ」そう言って、また青色の空を見て、春太は言う。

「嘘。空見てたじゃん」口を尖らせて、四季は言う。


「僕が見ていたのは、もっと遠い場所の風景だよ」春太は言う。

「もっと遠い場所の風景?」

 春太を見て、四季は言う。


「……それって、どこのこと?」


 四季の言葉に春太は答えない。ただ、視線を空の風景から動かして、四季を見ると、にっこりと(なんだか寂しそうな笑顔で)笑っただけだった。


 そんな春太の表情を見て、四季は少し不安になった。


 なんだか『このまま春太が本当にどこか遠い場所に(空の向こうにある風景の場所に)行ってしまうような気がしたからだ』。


「じゃあ、帰ろうか」春太はそう言って、開いている教室の窓を閉めると、それから窓のところから移動をして、自分の机に置いてあるカバンを手に取った。


「ねえ、春太」

 まだ窓のところにいる四季は、そこから春太に言う。


「なに?」四季は春太は言う。


「……春太はさ、どこにもいかないよね。私から、ずっと、ずっと遠い場所なんかに、私に黙って行ったりしないよね?」四季は言う。


 四季はなんだか泣きそうだった。(なんだか悲しくて仕方がなかった。理由は自分でもよくわからなかったけど……)


 そんな、泣きそうな四季の顔を見て、春太は、ずっと昔の思い出を思い出した。ずっと昔のこと。小学校の低学年のころのこと。

 春太の横で、四季はいつも、今みたいに泣きそうな顔をして、ずっと春太のことを見つめていた。


 ……どこにもいかないで。春ちゃん。ずっと私のそばにいて。


 四季は、目に涙をためて、ずっと春太にそんなことを言っていた。


 今はもう、四季はすごく明るくなって、昔みたいに泣いたりしないんだろうなって、思っていたけど、そんなことはなかったみたいだ。


 そんなことを思って、春太はくすっと、小さく笑った。


「なに笑っているのよ」四季は言う。


「ごめん」春太は言う。


「四季。僕はどこにもいかないよ。ずっと、四季のそばにいる」にっこりと笑って春太は言った。


「え?」そんな春太の言葉を聞いて、四季はその顔を赤く染めた。


「……それってどういう意味?」四季は言う。


「そのままの意味だよ。ほら、行こう。みんなが待ってるんでしょ?」春太はそう言って、わざと四季を置いてけぼりにするような感じで、自分の机の前から歩き出して教室から出て行こうとする。


「え、あ、ちょっと待ってよ! 春ちゃん!」


 四季は慌てて、そんな春太を追いかける。


 春太と四季がいなくなると、教室の中は無人になった。


「春ちゃん、大好き!!」


 そんな四季の声が、廊下から、教室の中にまで聞こえてきた。

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