第4話

「なんか慣れてきたな。」

意味はわからぬながらも薬を投与し続けて何となく様になってきた。

『しかし今までの仕事など、ダイジェストにするようなものばっかりです』

「そもそも薬を飲ませる奴がメインになるのがおかしいんだよ。」


『そんな事ありまセンヨー!』

「..忘れてたろ、その元気な感じ。」

一息つけば気付いたら、次の標的が決まるのを待つようになっていた。

「一つわかった事がある。

薬の効力だけど通常が無害のビタミン剤、粉状のやつが下剤とかキツめの影響系、特殊な形は睡眠薬だって。なんでそれぞれ変わるんだろか?」

『パターンを見たいんデショ!』

何種かに分け、効力を確認したい。それは情報としてか、別の意味合いか。

「で、次のターゲットは?」

『フリーダムです』「フリーダム?」

『転送します。』「なにを」

腕の画面で電子音が響き、暫く経つと部屋内の小さな机の引き出しが開き中には錠剤、粉薬、タバコが一種類ずつ入っていた。

「どういう事?」

『それらを持って、外でお好きに投与して下サイ!』


「へぇ..そういう事。」

ターゲットは己で決めろという訳だ。

自由な空間を与える事で、人の本質は剥き出しになる。

「動きやすそうな場所だね!」

学校の校内、屋上に出ても良し校庭に降りても良しの正にフリーダム区域。

『ルールは完全サバイバル形式です、無理をなさらずに!』

「ならアシストが必要だな。」

過去に馴染みのある女を求め動く事を決める。

「おやすい!」「ん?」

天井のダクトの蓋が開き、縦に長いシルエットがぬるりと現れる。


「お呼びですか旦那?」

「そんなキャラだったか?」

「アナタこそ変わってるわよ」

スパイは組む相手を自ら決める。

「ここは二階よ

敵は一階に集中してる。」

「ならそこを頼む」

渡すのは投与の難しい粉薬とタバコ。

「了〜解♪」

「さて、上にでも行くか。

ここには人がいないみたいだしな」

『キューピッチで進みますね。』

「サバイバルだからね、アイツも信用しちゃあダメだよ。あくまで個人戦だから」

前まではステージが変化するだけで首を傾げてた。それが今はルールを説明すれば戦い方を理解するようになっている。

『経過は順調...なんテネ!』


1階

「風のラプソディー!」

吹き荒ぶ風に飛ばされる職業人達。

「無様だね、不協和音にすらなりはしない。」

「素敵ですね」「おやお嬢。」

「どうぞ」

演奏料だとコーヒーを差し出す。

「気が利くな、頂戴しよう」

「ふふ。」「うっ...!」

風は止み、腹が悶える。

「お前ぇ..‼︎」「トイレはあちらよ?」

「くそったれが!」

下剤相手にクソとは、品性のカケラも無い男だ。

「面白い音が鳴ってるわね」

二階の廊下はよく声が響く、多くの鼓膜を震わせる。


「なんだ?

でけぇ声で喚きやがってうるせぇ。」

「スッ..」

「今の女、どっかで..。」

飛んだ記憶の中に少しだけ名残を感じる雰囲気が、傍を通り過ぎた。

「ずっと頭が痛ぇ、イライラすんなぁヤニでも吸うか。」

胸ポケットから相棒を、左ポケットから恋人を取り出す。

「ライター持ってて良かったぜ」

右手に煙草、左にライター、常にこの二つの剣で戦を勝ち抜いて来た。周りはドスにチャカだったが。

「ぶはあぁぁ〜...くぅっ!」

しかし勝てない戦いもある。

「あのときと一緒だ..頭がぼんやり..」

思い出した、負け戦を一度もして来なかった事を。

「わかった、あいつあの女だ

変な彼氏と...一緒にいた....。」

二度目の高鼾、多分夜は眠れない。


3階

技巧派のスパイに対しメディスンは正統派の投与が主になる。

「サンダー!

鈴木の奴は何処にいった!?」

ビタミン剤を投与済みの鈴木は既に活気に満ち、争う事を辞めている。

「電流を疾らせろぉー!」


「うるさいよ..」「あがっ..!」

口封じも兼ね背後から、口に盛れるだけの薬を詰める。

「最近気付いてさ、適量以上を服用させると泡吹いて気絶するんだ」

「あ...」「ほらね?」

薬の度合いを過剰にさせる医者は初めてだろう、ハナからヤブだが。

「ふぅ..これで何人目だ?」

足の踏み場が無い程職業人が床を埋めている。とんだブラック企業だ。

「屋上に行こう、誰かいるかな?」


「やはりな、真っ向からだとこれ程に脆い、スパイというのも簡単だ。」

「ダークネス鶴岡..!

アナタの目的は何なの。」

「それは此方のセリフだぁ、一体誰に仕えてる。何のつもりかなぁ!?」

フレイムやサンダーに続く黒の職種、

孤高をいく彼は敢えて前述の戦いに参加しなかった。

「卑怯ね、友達いない癖に..」

「君、もう終わりだよ。

黒に染められ消えてゆけ」

暗黒物質が生を刈りて鎮めゆく。

「フレイム!」「...何?」

「相変わらず冷めてんな、鶴岡。」

「鈴木ぃ!

邪魔をするんじゃあ無ぇよオレの!」

「あぁ、これで最後にするよ。」

燃え穿つ右手、黒染まる身体、相入れぬ故あたり合う。

「職業ダークネスってなによ...。」

夜勤か何かであろうか、警備員だ。


屋上

ヤンキーの溜まり場といえばここだが意外にも人気は皆無であった。唯一中心に一人、背を向け佇む男がいた。

「君はボスか何か?

でもサバイバルだよな、ボスなんかいないか。」

「久し振りだね、大造くん」

「...名前知ってるんだ。」

「そりゃ知っているよ

君の名前も、好物が何かもね。」

「君は...!」

釣り上がった目、逆立った髪。

口元にはソースの後が付いていた。

「じゃがバタの人だ」

「思い出したら食べたくなってね、つい食堂でかき込んじゃったよ。」

「そう、なら食後にさ..!」

「おおっと待った、薬はダメだよ。

それにもうストックないよね?」

「……」

ここに来るまでの間で全て使い切っている事に気付いていた。相手が上辺を取っている状況だ。

「どうするつもり?」

「決まっているよ。」

『......』


「僕と組もうよ!」「..何?」

「ここを壊すんだ、この施設を。君は此処がどんな場所か知っているか?」

「職業施設」

「そう、だけど此処は働かされる施設自由な場所じゃない。機械にコキを使われる牢獄だよ!」

「牢獄?」「今すぐ開放されようよ」

働くものが開放される方法。

それはたった一つ、仕事を辞める事。

「さぁ宣言するんだ!

仕事を辞めるってさ!ほら!」

「僕は、僕は..仕事を...!」

『そこまで』「え?」

『施設内に完全催眠をかけます。実験は、失敗に終わりました。』

静まる校内、息を止める人々。

『ダメですよ大造さん

それは、余計な事ですから。』

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