第西章 暗黒ナ心中に導きます

しばらく西入したまま、そっとしといて。

なんでこんなに動揺しているのか。

ただの幼なじみ、意識なんてしてないはず。

なのに、ムカムカが止まらない。

やっぱり男はそうなんだ。

いや待てそうなんだって、別に私と琢磨は付き合うどうこうの話をしたことない。

口約束すらしていない。

聡美からしたら、わざわざ聞いたじゃん? ってことか。

お門違いだと。日本にいられる期間が短いのは知っているよね。なのに?

いや、まさか聡美が琢磨を好きに、いや、なるほど、まじで、いやー、おめ、おめ、おめ。

おめでたくない。

心の奥底で、そんなことはないだろうと踏んでいた。

何も保証なんてないのに。

急速にぼっちの味方になる心理の私。

自分で麻雀仲間を募っておいて、その中で出会いが生まれた。

普通は喜ぶべきだ。

でも出来ないのはなんで? ツンツンしていたやん? しかも聡美が話を聞いてくれる優しい子だってまず私が理解している。日本から離れてほしくないなって私が思っている。

琢磨も同じ心理だったのかな。

聡美の立場。自由に将来判断できるといっても家の立場がある。投資を潤沢にされた子として自由選択された分野で成功することが絶対条件。なんなら子の自由判断分野の収益構造に不備が生じていたら、ビジネスサポートで家側業界側双方に富をもたらす構図を考える。

聡美の分野選択は単に夢見て半端な気持ちで選択出来ないプレッシャーが背後にある。

でも子の世代感覚を家にもたらすことで、家、というより一族が時代に取り残されない面もある。

従来の収益構造は親世代がしっかり握る。子は子の感覚で夢の分野を稼ぎやすくする突破口の役割を担う。

もし聡美が麻雀を選択してくれたら、この業界どうなっちゃうんだろう。

だから、ってわけでもないけど、そんな立場にありながら偉ぶってないし、琢磨からすれば逆玉の輿だよね、うまくいけば。福島ノ福島で産まれ育った子が、世界を又にかけて活躍するきっかけになるかも? 恋愛は自由、だとしても一族の親側からしたら、跡取りどうこうの話に絶対なる。恋愛感情だけでは済まない話に絶対なる。非凡なビジネスマンとしての素地が琢磨にあるかを見られる。

運も実力のうち、というなら琢磨は既に私達の中での麻雀でめきめきと強くなっている。普通に打牌選択がうまくて私が負けることもある。というより、なんで琢磨も聡美も尋歌もそんな短期間で麻雀強くなれるの? ファンでもないのに。ファンじゃないから?

結局、何かで優秀な人は分野を変えても元々の優秀さを麻雀に応用できるということだ。琢磨は分かりにくいけど、俯瞰力がものすごいのは性格に由来しているかもしれない。自分の手を引いた目で見て相手を見て打てる。

相手の手が自分の手のように、裏側だけど。

自分の手が相手の手のように、表側だけど。

相手の打牌選択心理をそのレベルまで俯瞰できたら、そりゃ強い。

だから、幼なじみだろうと関係ないと。

私と話していても、馴れ馴れしく上から目線で幼少のあれこれ知っているんだぞってマウントをとってきて心に負荷。

聡美と話していたら、自分の個性を尊敬してくれ、将来のビジョンも提示してくれる。男として立ててもらえる。

男女だからではない。同性であっても人として立ててくれる。なぜなら私が聡美に話しても私の個性を尊重してくれたから。

私を選ぶわけがない。全ては私が愚かな人間だから。貧富の差というより、人間力の差が違いすぎる。

肌の潤いが全て涙に変わってしまうんじゃないかってくらい泣いた。いくらJKでも、この水分放出量は生命のピンチだってくらい泣いた。

別に幼い頃に許嫁だったわけでもなければ、小さい頃に意味も分からずけっこんしよ~は言ったことあるけど、効力を持たないこどもの言葉に過ぎない。

麻雀界はスキャンダルないよね? あるね。麻雀打つ人も人間だからね。恋のきったはったどったばったはある。

いやいや恋愛感情あるんかい!

分かんないんだよ。勝手に奪われた悲しき女って周りは確実に見ていてだからひそひそ噂している。学業不振なんか目じゃないくらいいづらくなった。不純異性交遊はいけませんなんて真面目な生徒会長がいたとして、聡美の立場をどうこう言えるわけがない。世界のビジネスを変える殿方として神宮寺琢磨さんを見定めているところです。何も言えない。校内では慎んでくださいとは言えるだろうけど。

安い日本だって。世界と比べてものが安いと。働く人の賃金が上がらないデフレマインドだと。そりゃビジネスチャンスを世界に広げられるなら、そうするのが人間の当然の判断。琢磨の麻雀スタイルからいっても、当然のように世界情勢を見て判断できるだろう。崖霜家の方々と仲良くなれば、世界視野で活躍するための教育を独自で受けられる。日本の大学受験システムに縛られた教育ではない。実際福島のここも含めた進学校で、未履修問題というのがかつてあったらしい。受験にフォーカスし過ぎて高校卒業の必須科目に時間を割いていなかった問題。地方の進学校の現実が見えた問題。

地方は進学校も公立でいいよね。たしかにそうなんだけど、ある程度勉強して家から通える学校の選択肢が都会より少ない弊害もあるということ。

期間を決めて住む国を変え、多用な文化圏を経験して自己を確立していく。崖霜家はそれができる経済力がある。別に日本でも福島ノ福島にする必要性は1ミリもなかったお人なのだ、そもそも。

原発の問題は、現地で聞くのが一番いい。世界の現状を言えば、危険なのは知りつつ安価に電気エネルギーを求める需要の高まりから今でも原発の新規開発は進んでいる。発展していく国々の普通の人、電気を安定的に使いたい。世界は日本ほど地震もない。

事故後の処理、役所の考え方、そこから学ぶ人類の教訓、崖霜家が日本での居住拠点をここにした理由。

もはや発想から違うんだ。ここしか知らない私とは違う。そういう不幸も忘れよう日常を生きようとする空気がある。でも歴史の教科書に残る出来事がこの県で起きてしまった事実をなくすことはできない。

別にそんなの関係なく夢見させてくれよ。

麻雀好きなだけだってば。

ただのファンから脱却しないといけない歳なんだよ、いい加減。

そして、こうなったら琢磨との関係、もちろん聡美との関係をはっきりしないといけない。

「4月に入学して、私達会って美果に麻雀誘われて麻雀部みたいにして放課後普通に麻雀していて、5月の下旬には多分あの2人そういう雰囲気に」

私は全く鈍感だった。女なのに。

「2人とも、美果の前ではそういう素振り見せてないはず。私と聡美と琢磨で部室にいるときは、そうかもしれないなと思うことはあった」

「尋歌は知っていた」

「別に言われてないし聞いてないけど、そうでもおかしくないなとは」

尋歌にやつあたりしてもしょうがない。

今まで心の悩みは聡美に聞いてもらっていたが、尋歌に強制転換。

もちろん私も聡美の悩みを聞いていたし、尋歌も成績優秀ウーマンでい続けろプレッシャーがすごいだろうから、友人としての何気ない安らげる時間を作れたらなと思う。

ただ今の私にそんな心のゆとりはない。

「無理しないで」

「無理してないよアイツとは何でもないし」

口調が嘘を物語っている。私も強がってないと心が持たない。

こんなの不毛だ。益がない。おまけに不毛な議論を始めようとしても幸せがイメージされるようになってしまった、誰かのせいで。不毛な言い争いって、みんな不幸になることは分かっているけど言わずにはいられない心の叫びをぶつける場だよね? 今じゃそんな無粋な振る舞いを不毛界に持ち込んだら幸せなおめでとうの場に不幸の種を持ち込むなって怒られるようになってしまった。

不幸のどん底にいる女を、不毛君は救ってくれなくなった。不毛君は蒼い空に希望しか見てない輝く星の子になっている。不毛な土地はおめでとうの豊作でいっぱいの土地に変わった。

不毛君は私とは関係ない世界の話だけど、琢磨君は私と思いっきり関係あるんだよね。

もしそうなったら、琢磨の出世具合はものすごい。不毛君の比じゃない稼ぎをちょいと指示するだけで生み出せるようになるかもしれない。

どっちに転ぶか、答えはシンプル。

何を悔しがっているんだ私は。元より勝負になってなどいない。冷静沈着な琢磨が、冷静沈着な聡美の誘いを受けただけ。熱々激昂型の私は、味方に引きずり込むのは得意でも、ずっといるには疲れる存在になる。

前田さんも当たり前って言うよそりゃ。

私、確かにスイーツ好きだけどさ、甘過ぎるのダメなんだよね、昔から。身体がびっくりする。ほんのり甘いくらいが私にはちょうどいい。身体を自ら食事でいじめているみたいでさ、他人が激辛好きとかは止めないけど、私に強要しないで。

海外にはほんのり甘いお菓子文化飲料文化はないと聞くと、ますます日本がいいとなる。

ハンバーガー屋入りますどの炭酸飲料がよろしいですか? 炭酸は前提なの?

ざっくりサービスが働く人側も楽、それはそうかもしれない。従業員側に負荷がかかりすぎている社会かもしれない。海外でそのレベル求めたらもっと賃金上がるよ、確かにそうだろうね。

こんな話を聞くだけでも、視野を広げる助けになる。

小学生の頃は、福島ノ福島の中でも渡利が世界の範囲のほとんどだった。休みに家族でお出かけいくけど、それはあくまでよそで、ホームはこの地域。

それが高校生にもなれば、単純に高校のある場所もそうだし、自分で行ける範囲が増える。地方の学生移動必須手段の自転車と共に、友と広い範囲に向かう。

でもそれも、福島ノ福島よくて隣市町村くらいまでの世界。

えっと、なんか私じゃない話として違うこと考えてないと意識がヤバイ。

落ち込む気持ちが日常になるとか、考えもつかなかった。中学の頃も友達の悩みをうんうん聞いて共感しながらも、どこか下に見ていた自分がいた。まさに厨二病のイタイヤツ。未熟なくせに、自分の気持ちが極大化してワケわからない黒歴史を自らの手で刻みたくなる衝動にかられる時期、厨二病は発症して伝播する。

鈍感な男にはできない女同士の密な共感能力も歪ませる厨二病の症状。私は重症だったと思う。

認めたくない。惹かれていたことを。

有能の兆しを見てひきこもうとしている聡美とは違う。私は私の想いがある。

よく、覚えてない日々の生活。

身体に刻まれたルーティンはしている。しかし学校に行けなくなる。

こんなの、先生に話すことじゃないし、でも人生の先輩で、うーん。

尋歌とは話せる。しかし尋歌にこれ以上負荷はかけたくない。

実は道留も心配していると。彼はゴルフがあるじゃない。

「なんか昼ドラ展開しているって聞いて」

福島だけのチェーンではないが、北海道・東北に多いびっくりするほどおいしいハンバーグの店に、私は呼び出された。向かい側には道留と、誰?

「ゴルフの先生、俺が調子のって食べ過ぎないように監視しているだけで、俺と美果の会話には口出ししないから」

運動する人の食べ方ってほんとにイチ女性として驚きの連続。せまっくるしいダイエット概念を飛び越えるのは運動量からくるもの。私も心身共に健康でいるために運動しないとかな?

ましてやこんな状況だから。

「ゴルフというより楽しんで基礎体力つけられるといいよね。福島ノ福島といったら長距離走文化だけど、他人と争わずに自分のペースで走る、歩くでもいいかな?」

検討してみるわ。高校卒業したらこの街を離れる可能性が高いし、貴重になるかもしれない。ここにいることが。街の風景を刻み込むかつ自身の運動も兼ねて、ウォーキンかランニンか分からないけど。

「身体に無理させない動かし方、俺で嫌なら女性の指導者も紹介できるから」

何なの、このスポーツしている人の独特の明るい雰囲気。その究極がまあ、日本で一丸になって選手を応援する文化につながるんだろうなあ。福島ノ福島出身として、福島の選手を応援することもある。

「俺の領域の話はいいよ。麻雀部の人間関係どうなってるの」

「いや、楽しく麻雀してたよ」

とんだピエロだったことが判明したけど。

誰と何人付き合おうが、恋愛であれば自由。いやしかしあのモテる努力のかけらも見せない子どものままの琢磨が。

「美果の前では、な」

え?

「人は顔を使いわける。俺も学生として勉強する顔もあるし、ゴルフやる顔もある。ゴルフ仲間とどこか出かけると競技している時とは違う顔になる」

あいつ、そんなに器用だったの?

「そういう意味では、美果を騙していたのかも」

あらゆる面で、騙されていたと。

「なんで神宮寺琢磨がモテるのか。崖霜聡美だけじゃない。琢磨に片想いレベルなら、実はもっといるという噂も」

頭がくらくらする。

「男達の間では議論になっている。あいつの真似をすればいいのか? とか。あいつもあいつで聡美が今は本命で他の子を幸せにできるのは君らだとか言うから、恋愛スキャンダルみたいに煽って攻めもできない」

は? そんなこと言うの?

「俺も聞いたよ、武井美果とはどうなっているんだって」

ごくり。このごくりはこの店のハンバーグに対してのものでもあるが、ここでは意味が違う。

「あいつが俺を好きじゃないから、って」

頭の中がモヤモヤのごみ屋敷化していたのが派手に爆発したみたいな衝撃波。

「いっぱしに俺も恋愛というものをしてみたいと。で、聡美が俺の悩みをスゴく聴いてくれるからって」

「琢磨と道留も」

「男の友情だな」

尊い、いや女性の妄想が止まらないフレーズですね。男の友情なるパワーワード。

全然関係ないけど、中学の頃なんでそんなにってほどお笑い大好きな子がいた。芸人さんの何がそんなにいいのか、その頃の私には理解出来なかった。テレビ見てお笑い見るレベルじゃなくて、言っても地方だから都会のライブは見に行けないけど、個々の芸人さんのライブ配信チャンネルとか熱心に見て、芸人さんの深夜ラジオも録音して編集してってガチ勢に理由聞いた。なるほどと。

脱線したな。

「俺だからって言ってくれた話もあるからなんでもは話さないけど」

「今週の情熱運河、有名な女子プロゴルファーだったけど」

ゴルフ知らなくてもさすがにこの名前は入ってくる。笑顔でスゴいこと成し遂げて駄菓子大好きだったことくらいしか知らないけど。

「突然道留もそんなことなったりするの」

道留の話にすり替えるしかない。

「しないよ」

「なんでも攻めの姿勢が大事だって」

なんか麻雀と似てる。尋歌はリーチ嫌いで攻めてないように見えて、高い手に作り変えたりするから恐ろしい。そういう意味で攻めてくる。聡美は言わずもがな、琢磨は予想しない一打を放って場の運をコントロールしようとする。流れが揺らぐきっかけを作る。

「あの攻めは尋常じゃない基礎と天性で出来ている。真似できるもんじゃない」

「スターに憧れながらも自分のスタイルをつくるのは大事じゃない? 男子だって腕だけよくてもファンサービス大事よ」

「人間性も求められるよ。まずは今はゴルフの基礎を叩きこんでいる最中だから」

ガンバレベ。

「何それ」

「まだまだ頑張るレベル、略してガンバレベ」

「蛇足感がスゴいな、普通にガンバレでいいよ。また話をそらしてくる。聡美と琢磨と美果の“恋愛の”三角関係の話ね」

強調すな。

「そっちが話をそらすからでしょ」

ハンバーグとか、ここパフェもあるし、普通にカフェとしてもいいんだよ。

別に動画投稿していたりブログ書いたりしているけど案件じゃないよ。あれは麻雀好きな気持ちを抑えきれなかっただけだから。誰への言い訳? 急に頭に浮かんだ。

「わかんないんだよ私も正直。そういう目で琢磨を見たことなかった」

ガキの頃で止まっているのかも。それを琢磨に演じさせてたのは申し訳ないなと。私も身体に変化あったけど、琢磨もいつまでもガキじゃいられないよね。

「聡美は私なんかより大人からの期待がスゴいから、海外だとハグ文化で恋人文化に家族時間最優先文化だろうし、精神レベルが大人になるよう育てられた」

バカなガキ時代がない寂しさもあったっぽいけど、まあ聡美も望んで産まれたわけではないし、そういうとこに産まれた責任みたいなもんだよね。

「どうしても将来のパートナーには家を継げる力量があるかどうかで見られる」

「聡美は恋しているわけではなく、有能そうな男だと目をつけているに過ぎないってことで、心を落ち着けようとしている」

「だからわかんないの」

「琢磨が好きな聡美だと言うのは明白」

道留にはっきり言われた。

「スペックの違いで諦められるのか問題」

「私にはもっと素敵な男性が」

「心に嘘をついてまで言うことかな?」

はっきりと、核心。

「聡美に対してこのやろってないの?」

「あるよ。でもそれは周りはみんな知っていてやっと私の耳に入る感じが嫌なだけ」

誰が誰と恋愛しようと自由。モテないモテないと口癖のようにネガティブを撒き散らすよりはいいよ。

あと、ほんとにさ、毎月のイライラにこのイライラがプラスされたら私どうなっちゃうのかな? 甘いもの嫌いの私が人格変わったようになって食欲魔神の極甘欲しいウーマンになる。そんときはさすがにちゃんと2人に憎しみの気持ちになるから心配しないで。そうじゃないときは穏やかでいたい。

「あいつのどこがいいんだろ。まあ話しやすくはあるけど」

自我を出さない我が強いタイプだから琢磨と合わなのかもしれない。俺が俺が男ほど嫌なものはない。

「重い空気になるだろうけど、聡美や琢磨と直接話さないと、どうにもならない」

聡美が琢磨に将来の可能性を感じた。他の女性よりそういう意識を早く持つよう家庭内教育される家だって理解していた。けど早くない。まだ夏休み前だよ?

「即決断出来ないとビジネスで大損する、らしい。ゴルフは急かされないからいいよ。もちろんあんまり時間をとりすぎたら迷惑だけど」

瞬時判断のスポーツでは確かにない。狙い打つスポーツだ。

「外野の俺にはパフェをごちそうすることしか出来ない」

だいぶ楽になった。ありがと。

世界中が敵に感じる感覚が倍増してきて夏だし暑いしメンタルヤバイ。

分かるけどさ、これを乗り越えられないと乗り切れないから順応するための手筈だってさ。じゃあ男は? ちょいとタッチするだけ?

いやはやそんなんでも不安にちょっと答えてくれるだけで好きになるのね。

そういう前からいたから、気づかなかったな、このキモチ。

イライラのパンチドランカーに防戦できない私は、それまで心を開いていた相手に、幼なじみを奪われた。

血涙が私から洪水のように出ていく。聡美は聡美の理由で好きになった。わざわざ私に気持ちも聞いてきた。やけに聞いてきてウザいなと思っていた。まさか狙っていたとか。

男より鈍感な私に腹が立つ。

男を鈍感って怒る資格がない。

麻雀頑張る気持ちがどこかに吹き飛びそうになってる。こんな時も、仕事で麻雀打てるのか。最強の恋敵が現れた時も、何事もないかのように。

道留はゴルフでジェントルマンになったのか、優しく私に接してくれた。

けど、道留に頼っちゃいけない。

私の問題だ。身体のせいでもなく、私がぐだぐだと琢磨との関係を曖昧にしていたことが原因。決断を先延ばししていた。かたや聡美は、将来ありとあらゆることを組織のトップにたって指揮していく立場。

なんか、これを乗り越えたら、麻雀プロになっても人に優しい尊敬できる女になる気がする。

そう、高校生でこんな経験できる人なかなかいない。道留の言うようにリアル昼ドラやん。たまに平日休みのぼーっとしたい時間に見られるやつ。

逆に視聴率競争の時間帯より凪の時間のそういうドラマとかが好きかも。大人の恋愛のもつれもの、自分で検索してドラマ探すのもいいんだけど、パッと家のテレビで見るのもいいんだよね。

苦しい。あらゆる面で汚物でしかない最低最悪な自分をどうやってプラスに変えるかって無理な相談。この辛さが無になる負けの人生送りたくない。のほほん自分探しの男と覚悟が違うんだよ。

でも起業の分野とか、リスクとって仕事を作るのは男ばかりじゃん。女性は?

もうさすがに社会のルールを女性が仕切らなきゃいけない? 家事を押しつけられて? ああ、そういうルールをも起業が変えれるのなら、誰かが手を挙げないといけない。

そもそもこの学校が、女性に教育の場を、ということでスタートしている。女は勉強するべきではないの常識を壊した先人がいる。

女性にのしかかる不都合を真に変えるには、仕事のルールブックを女性がつくるしかない。

頭を切り替えないとどうにかなりそう。

そういう勉強も麻雀プロには必要か。何しろ団体には入れど会社員じゃないからね。保証はない。

例えば今の入りにくい麻雀ルールをどのくらい簡略にするとオリンピックになるのか。将来直面した時に、発言できる人間でいたい。

起業マインドは、多分あったほうがいい。個人事業主なのは確定で、間違ってもどうしようもなくルーズにしちゃダメなことも学ばないといけない。会社で働いていたら専門部署に丸投げ出来て、自分は天引きの悲しさだけ味わえばいいけど、麻雀プロに限らず人前に出る系の仕事はたいていそうなのかな?

事務所に丸投げでも、誰かのプロの力を借りなきゃいけなくなる。

そう、多分今この高校で教えていることと違う知識が先に必要な気がする。受験のための体系化された授業ではない授業。

何から何まで変わらなきゃいけない。

当たり前に毎月落ち込むけど、普段は前向きに貪欲にいたい。それでこそ私だろ。あの麻雀に向けたエネルギー、ドドドっと麻雀の素質ありそうな同級生を麻雀界に巻き込んだ実績を忘れたか。違うプロフェッショナルの経験こそ、麻雀で生かせるし、違うプロフェッショナルの人は人で気晴らしが必要。麻雀に寄り道してもらって本業の発奮剤にしてほしい。

麻雀界に導きます。私1人だけが麻雀好きでは納得いかない。

もう、イライラを無理矢理考えで抑えこんだ。

これはこうだからこうなんてのは、人間の怠惰な心が生み出す甘えでしかない。

誰もやらないなら、私が女性に居心地のいい社会を作ってみせる。

女の嫉妬がバシバシ飛んできそうだけど、辛いだろうけど、私で良ければ。

麻雀プロで頭角を表し、人前に出るいろはを学び、その先を見据える。

若いJKがエンジンとなって変えなかったら、このまま衰退とかって言われるがまま? そんなのいや。日本語の日本語らしい他に類を見ない特色の言語も、存在感を失う。嫌だ。

世界標準は譲っても、ジャパンここにありでいたいじゃない。

ようやく精神落ち着いてきた。というより落ち着かせた。

なんも出来ていない私。

ただ、周囲の変化にアワアワして、勝手に落ち込んでいる私。まだ当事者と何も話していないのに、噂だけで動揺している。

「全く、どこ行ってたの。心配したわ」

普通に学校に来ている2人をつかまえて、心配も何もない。本来の麻雀部復活。

してない。空気が違う。

「ご報告、どうぞっ!」

明らかに無理しているのが分かる。自分で言っていて。

「ほら、元気ないぞっ!」

「美果がね、誰かさん達のせいで」

尋歌の冷静な言葉にすごく落ち着く。

2人はずっと下を向いている。

「冷静でいられない気持ち、聡美はよく分かるはず」

会って数ヶ月なのに、信頼しきっていた。

それくらい包容力のある崖霜聡美。

「怒ってないけどなあ」

ダメだ、口調が怒っている。

「美果ちゃん」

やっと口を開いた。で、琢磨は? さすがにあくびはしていない。

「美果に言われる筋合いは」

「部長として把握しておきたい。誰がこの場を作った?」

「はいわかりましたすみません」

琢磨、素直でよろしい。

「こんな状況でも本人達を目の前にしたら暴言吐かない。それなのにネットで匿名だと罵詈雑言を有名人に浴びせるヤツラ、なんなんだ?」

別にいい人ぶってない。人間だから頭の中で嫌な感情は浮かぶ。わざわざ全世界に発信する必要は、ないよね?

「美果ちゃんらしい。こんな時でも公の意識」

「聡美は私的な理由で琢磨と関係もった」

「一生、美果ちゃんから恨まれる覚悟は決めてます」

そんなに? お嬢様だよね?

「私にしか見せない顔を」

「どんな?」

身を乗り出し、上家に座る聡美に顔を近づける。

「それは、彼氏の顔を」

「どんな?」

身を乗り出し、下家に座る琢磨に顔を近づける。

「それは、大事に想っているよって」

「逆玉だからじゃないの?」

本音で話そう。幼なじみだからね。

「俺も最初は困惑した。県を出たことすらない俺に素質を感じるとか」

「麻雀で役満より見ない役を引き寄せる、普通じゃない。そういうモードでないときも、普通に強い」

高校生になってから覚えたとは信じられない。それは認めるけどさ。

「きっとほとんどの麻雀愛好家は美果ちゃんくらいの強さが普通で、美果ちゃんが悪いわけではない」

ちょっと若いうちから麻雀愛は深いが、まあ並の才能だよね。

道留は親の直伝、聡美と尋歌は特別なお嬢様経験と学校始まって以来の才女面で麻雀も強い。

琢磨だけが、麻雀の才覚だけで強い。

「この強さ、ポテンシャル、私の家でも応用できる才能の片鱗」

「最初は恋愛感情よりも仕事パートナーとして」

「どの道この高校にいればと思ったらすぐ見つかるかと。早かった」

「ちゃんと互いに好きなの?」

愚問だ。好きに決まっている。

「なりゆきで」

そりゃ、役満よりも出現確率の低い出来事、引き起こせるわ。この2人を嫌いになるのは簡単だ。特にぼけっとした顔で無能な男っぽく振る舞っていた琢磨には怒りが。

「何がなりゆきで、だよ」

普通に麻雀したいが、ダメだ。私が冷静になれない。

もっと大人になったら、こういうこともあるよねって流せるかもしれないけど、今はムリ。

「どこがいいわけ? こんなヤツ」

こういう口調の私が一番醜い。分かっていても止められない。

「私、最低だ」

また、麻雀に誘った時みたいに、自分の感情の吐露を3人に見せつけている私。麻雀の時はプラスの感情。今はマイナスの感情。本当にイライラはしているが、若干オーバーにみせている自分がいる。

どこか、そんなもんだよねと諦念。

「論理や理屈がきかなくなる」

それが恋だって言うよね知らないけど。

「美果ちゃんの事を考えたら、ってのがどこかに吹き飛んでしまう感覚が、止められなくて」

学校内ではすっかり悪役お嬢様にジョブチェンジ。世俗離れの憧れるお嬢様のイメージを捨ててまで、琢磨が良かったと。

「にしても早くない?」

「期間って、重要?」

あ、ダメだこりゃ。話にならない。恋に恋した顔になってるもん、聡美が。

「無関係なのにごめんね尋歌」

「3人観察、麻雀打つのとはまた違った楽しさ」

確かにいくら勉強したところでこんな三角関係風景を目の当たりにすることはない。人生にそうない経験。

「結論、神宮寺琢磨は2人から好かれていると」

主人公体質ってヤツ?

整理しよう。

神宮寺琢磨、あくび挟みながら、時には軽度の睡眠状態でなぜか強者の雀士に変わる公私ラッキーマン。

崖霜聡美、私に恋愛のお節介する優しい子かと思いきや学校中の笑い者に私を変えた悪女。お嬢様だから? 波状攻撃型雀士。

平尋歌、感情が揺れ動かない才女。僅差勝負に強い防御派だが、失点回避という名の防御術は逆に攻撃型ではないか? 私達の見守り役。

神宮寺琢磨、髪型特に変わらず、いわゆるモテ意識ゼロ。周りや道留ですらも髪を遊ばせはじめているのに興味なし。なのに、だからか?

「見かけの浅いヤツは意味ないと」

普段から外見は意識しとけと。取り繕ったようにしてもダメだよ。

「美果ちゃん、琢磨勉強できないって確かにそうなんだけど、“受験”勉強はね。社会で出世する勉強に関しては、尋歌を越えている」

ウソ……中学の時に何があった?

小学校の時は毎日友達としてそういう意識もなく野山を駆け回っていた。親も女の子なのに、寛大に見てくれて感謝。体力面で踏ん張れる私になっている。

で、中学になってクラスがはじめて離れて、互いに同性の友達が出来て――その時?

《中二病だな》

魔法の病魔、ただその症状の行く末は人によって違い、琢磨は社会で成功する方面に病み経験を積んだらしいから、どういう意味かは分からないけど、とにかく中二病がエリートへの階段を登らせた。

イタイ自我の目覚めが本当に社会で活躍できる目覚めへ。オタクは金を稼ぐからあれだけグッズを買える言わば成功者。普段は真面目に職場で自己の役割を果たす。

そこに現実の異性も引き寄せる。モテる中二病。中二病の新種、モテルス。

「まず何より目を離すとお互い目をずっと見て、ニヤニヤしているのが全てを物語っている」

尋歌の指摘通り、対面に座る2人は恋人だと嘘をついている感じもない。少しの時間でも互いの顔を見ていたい、そんな様子が伝わる。

「別に勝手にすれば!」

カリカリベーコンカリカリおこげ。私、武井美果のイライラで焦げ目美味しいね馬鹿か。

「私がどういう気持ちになろうが、関係なく幸せでいなさいよ」

複雑骨折ってここまで複雑なんだってくらい完治不可の心理状況。

「あー傷ついた」

「俺なんか、嫌いだと思っていた」

嫌いよ、キライキライしなきゃね。

「清々したって、思われると」

せいせいする、幼なじみイコール恋ではないと、私も思っていた。

自分の身体に起きた反応に自分で驚いている。

やっぱり、知り合った年数が、好きにつながるのか? なんでって最初に思った。

恋したい同士が私のきっかけで恋をする。私はキューピッドとして、祝福出来れば大人の階段を登れたのに。

自ら放棄した。

「聡美いい子だもの。この先また海外に行っても言い寄る男に困ることない国際人。琢磨に恋するなんて、想定してなかった」

「私も、想定してなかった」

そういうもんなの? 恋って。

「琢磨君、ガーガー他人の意見を遮らないでしょ?」

まあ、意見がないとにかく眠いマンだよね。

「意見がないわけではなくて、求められたら即答するよ」

こだわりがないからじゃない?

こうやって、マウントをとろうとする女より、自分を見てくれる女性のほうが好きになる。男女というより人間対人間の付き合いとして当然の結論。それを2人は通常より早く出して夏休みをカップルムードで迎える気まんまんだった。来年はない。来年の夏はもう別の国に移り住む準備で聡美が忙しくなる。

結論を急がせるフラグは十分に立っていた。

「結局美果はどうなりたいわけ?」

尋歌の指摘はもっともだ。

「琢磨は美果の持っていたモノなの? 盗るなって感情は」

「私が全部悪いんです」

「美果ちゃんは悪くない」

聡美に励まされる変な状況。

「私が琢磨に優しく出来ない、それが全て」

「琢磨をまっさらに見ているから、まだ本性を知らないだけかも」

知らなくていいことを知っていて、邪魔になっている。過去の琢磨に囚われすぎ。もう高校生だ。義務教育は終わったんだ。

「そう、そう、お熱な恋もさめる琢磨の本性が」

「別れてほしいみたい。望む心が醜いな。美果ちゃんらしくない」

聡美にらしさを決められたくはない。

「ある意味聡美に教えられたの。琢磨がそばにいなくなると不安になる気持ちを」

「それに、私はどう返せばいいの?」

聡美に罪悪感を。もう十分にあるだろうけど。

麻雀界に恋愛トラウマはなくないあちこちであるね。なんか週刊誌に載ってた。

「はあ、もういいでしょ?」

聡美は立ち上がり、尋歌の後ろを回って。

私は無意識に立ち上がっていた。相変わらずぼーっとした顔の琢磨を、あれ? 聡美が近づいてきた時一瞬。

とにかく目の前はメンタルが持たない。聡美と琢磨の間に割って邪魔している。

「子どもか」

「子どもの頃からの仲だもん」

「男を過去に縛る女、最低」

「あんたこそ金持ち生まれをちらちら見せて田舎者を欺くのは辞めなさい」

「まあまあ」

「「誰のせいで言い争いしていると思っているの」」

「琢磨が二股したわけじゃないじゃん」

尋歌の冷静ジャッジは本当にその通り。

「幼なじみなる関係を利用して聡美にマウントとってるだけじゃん」

「だから私の完全敗北だって」

そして、見かねた琢磨にそっと抱かれる。

あの、それはそれで問題では?

「だよね。でも聡美に抱かれても違うし、尋歌は当事者じゃないし。美果がこのままだと精神折れそうで、とっさに」

「聡美への言い訳タイム」

「なるほど、美果ちゃんはかわいそうな私を琢磨君の目の前でアピールすれば、同情をかえると」

「むき出しの関係になれたねようやく」

麻雀でゆるくつながっていた関係が、一気に深まった。悪い意味で。

「付き合いが長くても薄ければ記憶に残らない。 短くても特別な体験を共有すれば、一生の関係になる」

こういうぶつかり合いでの体験にしたくはなかったが。私が3人に麻雀の腕で明らかに置いてきぼりになっていることが、格差につながる。恋愛でも、私ひとり、愚かさアピール。

私だけが麻雀ファンを抜け出せず、私以外がすでにプロ目線で麻雀を見据えられるけどプロになる気はない。道留もゴルフの世界を経験したのちに麻雀の世界に、多分本人が希望すればなれる。

他人の麻雀潜在意識は引き出せるけど、自分には向かない。自分だけが不幸のドン底。

「聡美の海外滞在期間をそれぞれ区切るのは、そういう方針なのかもね」

もうちょっとこの国にいたいが出来ない。不自由に見えるが、限られた時間をいかに使うかを学べる。しかも崖霜家オリジナルの学び。他の富裕層が子に潤沢に投資できるとしても、こんなことしているとも思えない。

「そうじゃなくても仕事が世界を飛び回る転勤族なら、それを家の方針にしよう、だったかな」

もちろんそれは成人前まで。判断できる歳になれば、子のしたい分野に親は口を出さない。親の感覚は古い。もちろん人生経験から来るアドバイスは出来るから、いい案配を家族間で探る。

「だから庶民にも優しくできるのね、聡美は」

今こうなっているから、あれだけど。そんな聡美でも恋するとわがままになるってことか。

「人間キレイじゃいられない」

理不尽に、またかそんなにってほど、聡美は麻雀で勝ちまくる時は容赦ない。

「麻雀しよ。久々に」

毎日していたのがちょっと空くだけでひさびさ感はんぱない。

「さすがに美果ちゃんも私怨きっかけで闘争心に火がついたでしょ」

そういうので麻雀強くなろうって邪道じゃないの?

「きっかけはきっかけにしか過ぎなくて、どうであれ強くなりたいと、美果ちゃんは思っているみたいに見える」

分からない。強くなればなるほど孤独になりそうで怖い。でも私のチェックしている麻雀チーム戦見てると、そんなことはないって安心できる。3人も、私より強いってだけで、あの場あの状況のプレッシャーに耐えられるかと言われれば、普通の弱い高校生になるだけだと思う。

高校の部室だから、安心出来るだけ。

「もしこの4人で会社を創るなら、間違いなく社長は武井美果だよ」

突然過ぎる。さすが崖霜家。

「美果ちゃんが自分の良さに気づいていないみたいだから切り口を買えたの。美果ちゃんが会社を作ってまでしたいことなんてない? 同世代に麻雀を身近に感じるためのグッズ制作の会社? 麻雀を打つ場に行くハードルが高い。あれもこれも知ってないとそういう場に行っちゃダメなんじゃないか? 初心者向けの麻雀触れる場作り、なんなら表向き麻雀と関係あるのか分からないアパレルの店でもいいかもね」

服は麻雀と関係ない? 関係あるね、オオアリだね。カメラの入る対局、男女共に、服には気を使わないと。オシャレとかではなく、気にいって着られて、でも麻雀打つのに支障が出ない服。ないなら作る会社が必要。

「美果ちゃんそういうカリスマ性あるから」

「カリスマ性より恋を充実させたい」

「私が言うとあれだけど、美果ちゃんは琢磨君よりもっとふさわしい相手が」

「まあ分かる。過去に囚われるなと」

「なんか嫌な方向に話が向かい始めたぞ」

琢磨は黙っていて。これだけ女の子の心を狂わせる重罪。他の男の嫉妬を集める象徴のくせに。

「私は今は琢磨君が好きだけど、将来は分からない」

「はぁもう」

さすがに堪えている、あの琢磨が。あらゆる事象に無関心な琢磨が。

夏休みも淡々と過ごし、さすがに野山を駆け回る時は男の子だった琢磨が。

「別に麻雀関連の起業じゃなくてもいいけど、なんかこのままプロになっても美果ちゃんがもっと弱さに押し潰されるだけで、それよりは私達を麻雀の魅力に巻き込める素質を生かすべきだと思う。私達以外の人の中にも、麻雀好きに導くための会社なら、美果ちゃんは楽しく仕事が出来そう」

会社を継ぐためのあらゆる独自な視点を学ぶ崖霜家、創業家ってのはみんなそうなのかもしれないが、崖霜家は特定の会社を一子相伝で繋いでいくのではなく、時代の変化に合わせながら会社もスクラップアンドビルドで変化させる。無理をせず、今に合った今だからできる最適な業務環境の会社を創る。

その経験値を幼い頃からそれとなく聴いている彼女の意見は、貴重だ。だけど。

「私が社長なんてそんな」

「美果ちゃんは社長という地位になった途端ブラックな労働環境を部下である私達に押しつけるような人物になっちゃう?」

「幼なじみを聡美にとられても許しちゃうような人間の器の大きさなら、ブラック会社には出来ない」

でもさ、会社っていったら売上たてたり社員に働いてもらうための場を創る。なんかあらゆることを知ってないと社長なんて。

「麻雀の素質だけじゃなく、美果は私達を色々な面で優秀だと感じている」

そりゃそうでしょ。この高校始まって以来の勉強の天才と世界中の国の文化を学べる環境を持ちつつ人間性も素晴らしい、恋に関してはぶつかった天才と、欲望を追いかけずに周りからうらやましいと思われる欲望の先を手に入れる天才。

心技体あらゆるバランスがこの3人といるとうまくいきそう。さすがにこの3人と一緒に仕事の発想には至らなかったが。


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