第南章 動画ノ投稿で導きます
顔は映さない。手元のみ。
記録用の延長。
とは言っても最初は書き込み自体がないだろう。
ただ、麻雀をしている手元を映すだけ。
公開するから、映っちゃいけないものには気をつけて。撮影場所も学校の部室ではなく、特定されないよう県庁そばのフリースペースで。ものがないから特定しようがない。あんまり訛りも私達はないし。
これが地方に行くといわゆる福島訛り全開になるが、福島ノ福島はあまり訛りがない。
とにかく週末にフリースペースに出かけては、麻雀を打ってる手元を撮影して、動画を投稿する。
再生数は最初から期待してない。ちゃんと私達なりに考えて麻雀に向き合っているのが数少ない視聴者に伝わればいい。
テロップとかもつけてない。素人同然の映像。
「編集しようか?」
尋歌が動画編集を買って出てくれた。私達が楽しんで見ているトップ動画投稿者達の映像は、見えないところで編集にとんでもない時間がかかって出来ている珠玉の作品だ。そんな領域はしない。
尋歌は縁の下の力持ちに、なってくれるの?
「周囲の期待より、美果の熱意に答えたい」
私の暴走気味の熱意は冷静で聖母のように優しい心の人々に支えられて、まともになっている。
「もちろん、勉強するのは辞めないよ」
なんか、スゴいな。
「学校の環境、最高だよ」
確かに、気づいてないだけかも。
挑戦させてくれる。図書室が広くて心地いい。尋歌は休憩所じゃなくて本気で人生を変える本にそこで出会った、らしい。図書室本来の活用術。
「追い込まれて勉強するとこじゃないんだね」
そりゃそうだよね。
「尋歌は何になりたいの?」
「特にまだ」
「私よりもはるかに多くの職業適正がある」
難関資格もとれるだろう。
「美果がうらやましい」
なんで? こんなバカつかまえて。
「今の自分を一生懸命に生きている」
全然だよ。麻雀にこだわっておきながら麻雀から離れる日もある。熱血キャラではあるけど普通に女の子したい日もある。
「それでいいんじゃない? プロになったら一生付き合うものになるんだよ」
どんなにボロ負けしても翌日仕事で打つ麻雀に変わる。プロとしての所作を常に求められる。
「予行演習として、動画投稿するのはいい」
バズりとか関係なく、今までの身内でワイワイの雰囲気はありつつも、赤の他人に見られる打ち筋。いつもいい加減に麻雀に取り組んではいないが、思わぬ甘さがあるかもしれない。
野生のプロに見つかるかもしれない。
期待しないけど。
何となく週一で、フリースペースが確保できて4人の予定が空く土日のどちらかで、半チャン丸々収録。1週間のまとめの意味もこめて。
「緊張するんだけど」
顔は映らないとはいえ、あくびの音も入るよ。
「ホントに私ってバレない?」
崖霜一族の恥になるかもしれない。
「ちゃんとNG確認とるから」
報連相は怠らないと、改めて通知。
「いつも通り、お願いします」
黙っちゃう。手元だけとはいえ、意識しちゃう。雑談しながらは無理なのは、四人の雰囲気から何となく察した。
私の夢である、あの舞台で打つ麻雀プロスタイル。腕前は全然だが、特に私が。恥ずかしがらずにアウトプットする。
誰でもない、私がアウトプットすると決めたのに尻込みしちゃダメだ。
気負い過ぎたのか、いきなり満貫を尋歌に振り込んだ。尋歌はホントにリーチしない。確かにリーチしていたら私の雀力でも切らない牌だ。でもちゃんと河と打ち方を見ていたら放縦しなかったかも。
反省は後で、次。
高打点力の女、聡美が親。早速役牌ポンポンして、明らかに染め手。ドラもあるかも。役役ホンイツドラドラにトイトイとかなら親倍で16000オールまであるかも。自分の手はトイツ多めで高くならなそう。降りるのは簡単。染めてない種類の牌を切ればいい。
え? 親攻めてるのに琢磨リーチ? そして1発ツモしてるし。リーチ1発ツモ。裏ドラ期待もなしで1000/2000。
最初に上がった尋歌が親。手が入らない。カンチャン裏目になるし。まあしょうがないんだけど。ここは尋歌も親リーチで止めに来るけど牌は来ず。1人テンパイで連荘。
尋歌もリーチしないわけではなくて、臨機応変に考える。それでもして当然のリャンメン待ちでもしないことがあってしていたら放縦の場面、何回も部室でカメラ回していた時に見た。何か見えているの?
一本場も流局。私が最後にチーで形式テンパイとって尋歌と2人テンパイ、失った点棒ちょい戻し。
東三局二本場、三色チャンスで手も整っている。これは攻めたい。すぐにイーシャンテン。
3ピン来れば三色確定、あ、1枚減った。
「カン」
その大明槓からの嶺上開花はないわ琢磨。しかも槓ドラモロのりで嶺上開花ドラ5三色同刻で倍満。私の三色潰したのを証明してからレア三色であがるとかさ。
私の親ではさっと聡美に500/1000あがられて局消化される。
南場は地味な展開。あっという間にオーラス。
状況は4位でも2人と近い。琢磨に倍満1回分の差がほぼ変わらず。尋歌は最初に私から上がった分を責任払いで放出し、聡美と近い。で、私は最初に放縦した分をテンパイ取りでコツコツ稼ぎ、いやあがりたかったけどあがれずに今。
結論は私とは関係ないところで盛り上がる。聡美が琢磨に直撃ロン食らわせて裏ドラ次第で逆転トップの条件クリアで幕を閉じた。
珍しい役、オーラス逆転を動画におさめることが出来た。
世間一般では三色同刻って役満より出ない役とも言われるけど、琢磨といつも同卓している私達視点では、琢磨は当たり前のようにその役であがるので別次元だと思うことにしている。
何も出来なかった。悔しい。
麻雀対局映像に飢えている野生の麻雀ファンが目ざとく見つけて、尋歌が編集したとはいえ、プロレベルの素材ではないこの初動画にしては、見られたほうかな?
うわ、本当にアップされてる。
《この子達ナニもの?》
私は凡人だから。運極の琢磨と逆転劇の聡美、序盤盛り上げの尋歌がスゴいだけ。
だから、思考を読まなきゃいけない。
なんか普通の半荘なのに疲れた。撮られるそしてアップされると分かると、怖くなる。
「なんでもそうだけど、インプットだけだと体内にマグマが溜まるから解放してあげないと」
また来週もアップロード? 次は勝ちたい。
「焼きうどんを食べるぞ」
琢磨の異様な焼きうどん好き、変わらないね。
「余った野菜の消化に最適」
しかも自分で作るの前提の発言。
でさ、麻雀の感想はないわけ?
「美果、たまたまついてなかっただけだって」
放縦相手に励まされる。試合が終わればノーザイドと日本中のだいたいの人が覚えた。
「琢磨君、ちょっとの違いで逆に私が放縦していたかも」
琢磨も差があるトップのオーラス、守れば良かったが手が入ってしまった。上がって終わらせられる誘惑にかられ、切るタイミングで聡美への放縦になってしまった。
「逆転されて悔しくないの? 琢磨は」
「いや、聡美ちゃんのテンパイは読めなかった」
運バカの琢磨は、実力の聡美に負けたと。
後から見返したら、尋歌も放縦回避しているし、3位とはいえうまい面を動画におさめている。
私だけだ。ファン気分が抜けてないの。
マジで修行だな。
私が教えといて、これはない。
動画のアップロードきっかけで、本腰を入れることになる遅すぎる自覚。
麻雀プロになるとか口だけ。プロになる意志のない3人のほうがよほど麻雀に真剣。
漫画みたいな運持ちの琢磨は違うでしょ?
考えが甘い。
運を結果に変えきるには判断力がないといけない。
大明槓された。すぐ嶺上開花でツモ。つまりその前に手牌はテンパイしていて三色同刻が完成しているのに槓した。他の手牌進行具合も読んで槓するデメリットは薄いと判断の元、琢磨は槓している。
単なる高校生同士の打ち筋だけど、私よりもちゃんと考えてその場で判断して打てている。本当にみんな始めたばかりなの? 私がみじめに感じるようにドッキリかけられている気分。
なるほど、おとなしく広報しとけと。麻雀に才能のある人を見極める能力はあるから、それを生かして裏方になるのも道だよ。
今の時点ではそうだろうね。
悔しいけど3人にあっという間に実力でおいていかれている。一緒にアイドルの募集にノリで応募してみよって誘って落ちる側が私。誘われて受かる側が3人、みたいな。
思えば、ちゃんと努力したことがない人生だと自己分析。あれしたいこれしてみたいとワガママは言うのにすぐ飽きるもしくは本気になれないのが私。麻雀も自己暗示をかけて強くしようと無理しているかもしれない。私の麻雀好きは熱烈ファンとしての好きであり強さを証明できるから好き、ではない。
あー苦しい。
このままだと一生後悔する。
なんで最高最強の動画教材があるのに、生かさないの? 対局映像のシャワーを浴びて、強くなるために特化した麻雀の向き合い方に変えないと、麻雀を続けられなくなる。
それくらい、プロになりたい。
勝った後もしっかり手筋を反省して繋げられる雀士になりたい。
もっと、多くの教えを乞いたい。
行動力バカの私は、自分を最短で強くしてくれそうな人を見定め、会いに行く。
「ねえ、球樹」
「麻雀には関わらないよ」
「私が勝手にあなたのお父さんに会いたいだけ」
「お前は琢磨とカップルだと学校中の噂だが」
「そっちじゃないわ、ってそうなの?」
どうやら麻雀のこと以外でも落ち着きのない私は他のクラス内でも有名みたいで、誰と誰が付き合っているかどうかなんて審議不確かなまま尾ひれがつくだけついていると。
「麻雀が強くなりたいからお父様につてを」
「辞めたほうがいい」
断られるのは承知である。
「福島ノ福島内でできる強さを磨いたほうがいい。俺も本気でゴルフしたければ本場がいいと安直に考えがちだが、基礎のないやつが行っても身にならずに終わる」
完膚なきまでに私の理論は壊された。自分と違う世界を見ている人の言葉は違うなあ。
「高校生らしくの特権は大事にしたほうがいい。焦って大人の真似事をしなくても、大人になった時には高校生らしくの時間は戻らないからだ」
ああ、20歳過ぎて学生服着る女性の若さに囚われているイタイタしい感じになると。現役メリットは存分に味わえと。
「まずは誰よりも麻雀強く、より誰よりもJK時代を有意義に過ごしたって方にしたほうがいい。興味関心が変わった時にも応用が効く」
「球樹、大人だね」
「母を精神的に支えなきゃいけなくなったら、嫌でも大人になる」
球樹は独立独歩でいないといけない意識の芽生えが早かったってことか。
「美果が麻雀プロになるかどうかは誰も結論出せない、だったら信じられないほど麻雀にのめり込むしかなくない? 麻雀プロ仕様の思考回路にリサイズしていくというか」
表面のなぞりはもういらない。麻雀を強くするための本質を見ているかどうか。
「自分が弱くても、弱いからこそ、全然麻雀が強くなれない人の気持ちが分かるプロになれる。天才は先生にはなれない。気持ちが分からないから」
なるほどね。特に琢磨の麻雀の打ち方なんて絶対真似出来ない。軽睡眠状態で麻雀がさらに研ぎ澄まされるとか、琢磨以外だったらただ寝て終わりである。
聡美と尋歌も誰かの真似をしたり憧れたりして攻撃型防御型をしているわけではない。自分のことを知って合ったスタイルで麻雀を打っているから無理がない。今回は聡美が勝ったけど、昨日はボロ負けだった。リスク承知の手牌進行。
私はまず、自分を理解することからはじめないといけない。
麻雀日記をつける。もちろん文章は公開して。
誰も見に来ないとは思うけど、それは目的じゃない。日記にしとくとアーカイブ整理しやすいからという理由で。
なんでもやる。今出来ることは。
尋歌と聡美の家にも、何度も通う。
もちろん他愛のない話で親交を深める時間がほとんどだけど。
「聡美は世界中を経験して最終的にはどうなってほしいの」
「それは、私が決定していい」
決めた分野でトップになれ。誇れる人間になれ。崖霜家はその気づきのきっかけ網を世界中に展開して、特に身内だからと甘やかさない。いわゆる金持ちの子に産まれたからという暮らしは出来るが、依存させない人格形成を徹底的に、それこそ崖の底に落とされて霜の中をかき分けられる力を溜める期間と位置付けられているそうな。
「麻雀を選ぶかもしれないし、他を選ぶかもしれない」
「私に配慮しなくていいよ」
「ニュートラルで世界視野で」
「知略ゲームに男女の差はないのに男性プロが多いのは」
「そういうのを好きになる環境で育てられやすいのが、要因」
自分に娘が出来たとして、いの一番に麻雀を教えたいか。きっとかなりの奇人だろう。息子なら? 娘より抵抗ない今のマインドが既に、常識に囚われている。
男性はこうあるべき、女性はこうあるべき。
女は女同士で仲良くするふりをして、男が分からないように上手に陰湿に蹴落とす。
特別扱いは決定的ないじめの引き金になる。男だったらタイマン勝負で上下関係みたいになるのだろうが、女の世界にそんな文化はない。家庭的であれ美に関心を持て恋に生きろと、女にさせられる。
男は女ほど恋愛に囚われてないから、冷静に自分にとって得する行動がとれる。自分を持てば、恋愛で振り回されることはなくなるはずなのに。
こんな男は嫌で死ぬほど盛り上がる女の集団、よく見る。
こんな女は嫌で死ぬほど盛り上がる男の集団。
とんと見ない。
この時点で負けている。主導権をみすみす明け渡している。
主人や奥様なる言葉によって規定されているからだろうか?
一方男も主人たらしめないものは孤独に生涯を終えろと通告を受けた気分になり、社会に害をなすモンスターになる。
かえって皆の迷惑になる。
やはり従来の常識は更新するしかない。
女流プロのあり方も、多分きっとそう。
新世代なりの考え方でもって向かい、もちろん麻雀の腕があるのは最低条件だけど、託してもらうためには新たな価値を持ち込めるプロでなくては新人の意味がない。
誰かの真似なら私の意味がない。
変わり身の術を持ってなければ、社会で理不尽をいっぱい浴びることになる。
女の特権は、華麗に鮮やかに披露してこそ。
女性が麻雀を打つ姿を見たい、その声に答えられるよう、華やかさを知らなきゃいけない。
自分に合う衣装ってなんだ?
自分に合う化粧ってなんだ?
見られる仕事だから、そう、総合力で選ばれる。
今はまだ歴が浅い、でも応援したくなる魅力があれば、抜擢される。
本気でやらなきゃ駄目だ。
迂回している余裕はない。
今まで私は何をしていた。
周囲に委ねちゃダメなんだ。自分で気づかないとダメなんだ。
いや、もちろん恋はしたいですけど。自分の人生まで預ける必要はない。
女の集団の中で嫉妬にまみれて無駄な時間を過ごしたくはない。
親に甘やかされ、男性にチヤホヤされ、それは見た目や若さに依存した期限の来るものだと自覚しておかないと、社会に怒り狂ってばかりのオバサンに変貌する。
私はそうはなりたくない。
「特別な人としかつるみたくない、そうでしょ?」
「私が最低な打算人間」
「でも、私に頼らないで接してくれるから、美果ちゃんが好き」
あくまで麻雀仲間として友達として。お嬢様扱いは私までがする必要はない。
「私の場合は特殊な人、かな?」
「尋歌はどう思う」
「努力の天才」
「私は?」
「常識を疑う天才」
「疑心暗鬼なだけだよ。しかもうざがられていいことひとつもない」
「私を惹き付ける魅力、それじゃダメ?」
ダメじゃない。凸凹でアンバランスな私に合わせてくれる人格者の聡美は大切な人。
「私はそうなりたいけど、同性メリットを使ったほうが賢い」
聡美は聡美で性の多数派を簡単に外そうとする。本の読みすぎか元々の資質か。いずれにしてもしきたりあるお嬢様育ちの場では言いにくいことであることは間違いない。
「だから私の代わりに美果ちゃんと琢磨君を応援したい」
「結局自分の心をそれで落ち着けると」
「美果ちゃん、私も立派な人間じゃないから」
はっきりと、月・火・木・金曜日の夜は忙しい。何にって麻雀対局を見に帰るのである。
付き合いが悪い。
そう、翌日に検証したいしさ、打ちたいのかプロ雀士の映像を反芻したいのか。
麻雀の勉強に変わりはないが、周りに迷惑かけている。
「私以外みんな人が出来ている」
思慮深くて他人に優しくできる。
男に淡い期待ももってはいけない。
優しい顔をする演技の達人が跋扈する世の中で、上手に断る淑女としての才覚がこの先求められる。メディアに出て麻雀をしたいなら、多分必須。
嫌なものは嫌。自己評価が低いと、甘い言葉に誘われてしまう。
興味がないわけではない。きちんとした軸をもってないと自分だけが損をする状況になるので、阻止しないといけない。その気にさせる空気だけ出すというのが、色気ってやつなのかな?
「ませてるね」
さすがに高校生ですからね。目覚めは早いかもしれない。
「琢磨君なら、知らない相手じゃないんじゃない?」
「もっと選択肢が欲しい」
「琢磨君くらい美果ちゃんを思える人、この先現れるかなあ?」
「聡美は琢磨の何を知っているの?」
他人の人間関係に、さすがに口出しし過ぎ。
「知っていたら、いけない?」
「別に」
「もっと琢磨君のこと、知ろうかな?」
何、煽っているの?
勝手にすれば? 私と琢磨はなんでもないから。
「別に盗ったりしないって」
盗るも何も。
ちゃんと関係を整理しないといけない。
威勢のいいこと言っておきながら、そのくせすごく保守的でしがらみに縛られている。
本当に私は高校を卒業したら子どもの時から一緒にいた琢磨と離れて、素敵な大人の女性として暮らしていけるのか?
琢磨と離れてって何それ?
私が依存しているみたいな。
「さっき私以外みんな人が出来ているっていったけど、尋歌ちゃんと私はいいや、その頭の中に琢磨君も含んだ言い方に聞こえたけど」
「琢磨の良さと、その恋愛としての良さは違うから」
「時間を共にするなら尊敬できないとね。何が違うの?」
私もまだJKなったばかり。よく知らないクラスメイトから古典的なラブレターもらったことはあるけど、中学の頃モテに自信のある同級生の男の子に色々エスコートされたことはあるけど、心動かなかった。
琢磨に関しても、そういう動揺は、したことなかった、はずだった。
「他人に気を使えるような人じゃない」
「じゃあなんで美果ちゃんに言われるがまま、麻雀打っているんだろう?」
確かに聞いたことがない。
「私は日本らしいものを吸収していきたい、尋歌ちゃんは勉強では味わえない経験を求めて。では、琢磨君は? あんな顔して実は真面目に美果ちゃんといたい時間を増やしたいから、だとか考えたことは?」
何? 私と一緒にいるから運極みたいな麻雀の腕を発揮できるってこと? 私ずいぶん琢磨にこてんぱんにやられてますけど。
「倒しがいのない相手と麻雀しても、美果ちゃん満足しないじゃない」
それはそう。浮わついた気持ちで来たやつそうやって追い払ったから。
「琢磨君は別に麻雀ファンでもないのに、美果ちゃんに合わせて麻雀を覚えて」
彼氏の影響ならぬ彼女の影響? 私達の場合は幼なじみの影響。
「じれったいなあ」
「じれったくてけっこう」
結局、今くらいの距離がいいって言う、ワガママなんだと思う。
「大勢の人を食べさせる富を生み出せる、そこまでいかなくても身近な誰かを食べさせる努力は出来ても、女の求めには答えられない」
「なんでもかんでもを相手に求めるなら、自分がそれに見合った人間にならないとね」
結局恋愛相手として現れる人は、自分の現状を反映したような人しか来ない。自分はそうじゃない? それはあまりに自分を過大評価している。
「聡美はそういう帝王学? 家を守り繋いでいくための特別な教育を受けるの?」
「使用人に教わったこともあるし、家にある本で自ら学んだこともある」
富は富を生む。その極意。
「いいんだよそんなの、ゆるゆる話そうよ」
男は退屈にしか感じない、女子同士のゆるゆるトークタイム。
聡美はそんな時間すら出来ない環境で実は不幸なのかもしれない。
「聡美は好きな人いないの?」
私ばかり言われるのは不平等だ。
「どうせ1年半で離れるし」
「恋愛きっかけシャットダウンは心に毒だよ」
「何それ?」
自分でもなんだそれ?
「何に興味あるの?」
3人は私と違ってバランスがとれている。そう、実は琢磨も勉強できないくせに色々知っている。男特有の理論武装なしゃべりはやめて欲しいけど。
「また、琢磨のこと考えた」
なんで分かるの。
「あのさ、分からないとでも思った?」
もちろん私なんかに興味持ってくれて麻雀覚えてくれて波乱な打ち筋で敵ながらあっぱれな姿勢をみせてくれた。
そんな聡美は大人の期待に答えるお嬢様として振る舞う義務通りに動くことも出来るけど、どんどん攻撃して流れを変える麻雀の打ち筋から考えても、枷を外したら私なんかより全然気性が荒いんだろうなあと。ひょっとしたらお父様も、とんでもない金持ちになる成功者がおとなしい性格なわけもなくて、その遺伝子なのかもしれない。
「聡美、実は騒ぎたいしふざけたい性格?」
尋歌が防戦タイプなのはパブリックイメージ通り、琢磨もちゃっかり運良く上がったり、配牌やひとつひとつの浮き沈みに動揺しないのもイメージ通り。私も麻雀の打ち方は多分そのまま。ファン出身から打ち手になるための苦労中。
聡美だけが見せている姿と違う面を麻雀でだけ見せる。裏目につぐ裏目で大負けするときにヘタレないのはお嬢様の余裕かなとは思うけど。
「家の格をあげた一族のスターである私のお父様だけではなくて、親戚筋もそれぞれ事業家として財をなし、しかもあの1000億円記帳している方以上の成功者が私の周りにごろごろいる」
あれは何をしたいのか私にも分からない。彼女さんも何を求めていたのか。女優さんって究極の受け身業務でストレス溜まるよなあって。
自分のしたいことはいくらでも発信できる時代に、みてくれのよくないオジサンに頭脳を任せて嫌な想いをするって、変な構図。
「でもみんながみんな楽しそうではない。金を持ったことでたかりに来る変な人間関係が出来てしまう人がいる」
「成功者になったらなおのこと、その資金でしたいことを明確にしておかないといけないのか」
「それをし続けた一族が、時代の変化にも耐えうる世界有数のファミリーとして知られていく」
自然とパブリックになっていく。
「崖霜はまだ新米、ここが1番危険。急に成功すると大抵成金行為に走るから」
芸の全くない金の使い方。頭を使わずできる分かりやすい行い。普通の人では思いつかないアイデアと実行力で成功した人間が、なぜか金の使い方になると恐ろしく馬鹿になる事例。
「別にいい人にならなくてもいいけど」
まだJKだから気にしなくていいかもだけど、いずれお世話になる可能性が高い保育園。そもそも子を預ける場所を女だけが過剰に気にしているのがおかしいのですが、構造上の違いかな?
多分劣悪とされる保育園も、最初からそうしたかったわけではなくて、何か事業等で成功して、ちょっと公的にいいこともしたくなって低賃金常態とされる保育園開業するんだけど、専門外ゆえ上手くいかず、みたいな。
いや、預ける親や働く人や何より子が喜ぶおもちゃなり建物なりにドカンと投資してくれれば、初期投資さえしてくれれば、あとは利用者全体でありがたく享受して営みを続けますから。変に見栄はって経営するから劣悪保育園って親から思われるんだよ。
金が有り余っているならいい人に思われたいですよね?
「強制は出来ない。人のお金だからね」
「社会って難しい」
私の好きで好きで好きな麻雀も、月・火・木・金曜日の夜の麻雀リーグ戦前は、イメージがいい競技ではなかった。いや変わりはじめていたが、一般にまでイメージ刷新をはかるには、大胆な投資が必要だった。
投資したいと思わせる努力も、必要。
我が子の居場所、投資しませんか?
老後の幸せ空間、投資しませんか?
ただ豪華にすればいいのではない。真にそこを利用する人の気持ちや立場を考えた適切な投資が求められている。
麻雀と関係ない? 関係あるよ。
見えない他者の配牌は先の分からない世の中。
最適解が最悪の放縦。こんなの事業で挑戦を繰り返していたらまああるだろう。ほとんどの人の人生って全局流局のテンパイノーテンくらいの収入と支出で終わるが、麻雀をすれば大胆な事業家のポジションで手の内をやりくりできる。覚えれば、与えられたものをより早く結果にすることができる。
運と実力のバランスといい、人生を学べる。
仕事を生み出す人の心理を学べる。
「美果ちゃん見てると心配になっちゃって」
「なんで?」
「ぼっちになってない?」
他人を遠ざけているとこは確かにある。
「あ、それ金持ち発言だって思ったら言っていいからじっくり話そう」
心配される。麻雀の舞台に立ちたいので、確かにそうなるとぼっち体質じゃダメだなあ。
だから麻雀に取り組める仲間を探して、多分3人集まったのはものすごい幸運。1人で黙々とアプリの麻雀ゲームに向き合う日々にならなくなったのは、3人のおかげ。
だから、何度も言うけど、3人は人が出来ている。
聡美は人の気持ちがよく分かる。
尋歌は厳しくも正しい道を教えてくれる。
琢磨は、万事に冷静に対応できる度胸がある。
もちろん短所として考えることもできるが、私はいい面として誉めたい。
「人見知りがしんどいレベル」
打ち解け力が、私には皆無だ。聡美はお嬢様らしからぬ? お嬢様だからこそ? 他人を癒す思慮深き女性。
「ちょっとウザイでしょ」
「そんなこと、あるけどない」
「あるけどないって何?」
「他人に興味を持ったら、相手が関わりたくなくても質問するものだから」
つまりは表裏一体。貴重な日本での生活が聡美をそうさせるのかもしれないし、単にそもそもの性格もあるだろう。
私は好きになったものには一途なタイプ。今は確実に麻雀。
「尋歌ちゃんも確かに会話が弾むタイプではないけど、考えがあるじゃない」
尋歌もただ者ではない。世間的に学校の先生方的には勉強成績トップの優等生で一致なんだろうけど、尋歌がそれで喜んでいるのを見たことがない。
麻雀のトップは、たった4人内での闘いなのに、貴重な笑顔を見ることができる。
「平尋歌の笑顔を見られるのは、麻雀だけ」
いや他にもあるかもだけど、私の中では麻雀は笑顔のツールだ。
「へんがお~」
「がお~」
なんだろうこの返し。でも聡美になら心の内をさらけ出せる気がした。
「悩みは尽きない」
つい強がってしまう、いっぱしに色々悩んでいるのに。
「私が聞いてもいいけど、琢磨君にぶつけたら?」
「いや、異性に聞かせるあれじゃ」
解決策はいらない聞いて欲しいその辛さ分からなくても分かるとか、とにかく苦しみから開放されたい。わがままな女のエゴ。
「琢磨君は多分聞いてくれるはずよ」
琢磨とは、男女を意識しない子どもの頃のただ遊んでいれば良かった関係のまま更新されてない。琢磨の家は山の上にあって、周囲に自然と遊び場たくさんあったから、男の子遊び女の子遊びとか普通に公園走り回るとか、その時その場が楽しかったから一緒にいた、友達だった。
中学で、クラスが離れたりして、それぞれ友達に求めるものが変わり始めるし、同じ学校内にはいるものの、あまり話さなくなった。
まさか、琢磨が受験してこの学校に来るとは思ってなかった。
「私、この学校に入るなんて琢磨にひとことも、というか誰にも言ってない」
もうひとつ、元男子校で今は共学の偏差値的には市内トップのとこが福島にはある。ちょい下でここ、もうちょい下で麻雀を想起する方角校がある。
「俺も闇雲に勉強してどこかいいとこをって」
たまたま引っ掛かった、成績はこの高校のギリギリ合格ラインに乗せた。
というか、麻雀もしないで部室にいるの、珍しいな。
「麻雀を始めたくなる話術力なら、美果はもうプロ級なんじゃないかと思える」
運と実力に恵まれた琢磨に言われても。
「きっかけはみんな美果じゃん」
私も麻雀熱を自分ひとりで処理できないからね。勧誘に必死だった。
なんとか言い換えた。
日常生活では発散できない自分の性格を肯定できる知能スポーツ。
実際才女を求められる尋歌、お嬢様を求められる聡美はガチガチに枠にはめられた窮屈な自分でいるしかなかった。麻雀を覚えれば、打ち方から役の作り方から性格が出る。今までの自分にない自分を獲得できる。
「俺もだいぶ救われた」
「これは見る?」
麻雀のチーム戦。
「見る見る、いつもひとりで。がっつり全部見るわけじゃないけど」
まだ琢磨にとっては、麻雀はそこまでの存在ではない。実際世の中には楽しい娯楽がたくさんある。
「一緒に見たいの?」
あからさまに鼓動が高鳴った。だって、夜7時から始まって、1日2局。長引くと23時を過ぎることもある。そんな時間まで異性といるって、それさ。
「夜遅いもんね、見始めたら美果、集中しちゃうだろうし」
そうそう、気を使えなくなるから。
でもなるべくはリアルタイムで見たい。しょうがなく眠い時はアーカイブで見るけどさ。
「難しくて奥深いよ、麻雀は」
「だよね」
琢磨のことだ、私に合わせるとか興味をひくために言ってないのは顔つきで分かる。邪心でそういってくる男の下心くらい分かりやすい嘘はない。
「俺はもしプロになるなら入りたいとこはひとつだけど」
「へー」
私はなりたいとか日頃言っておきながら、どこがいいは考えたことない。
「その前に先かもしれないんだよな」
「何が?」
「なんでもない」
なんでもないわけないのだけど、私が聴くのは野暮な、私に悪い意味で隠したい事柄ではないのが伝わるので、いいや。
「私は何を見せられているの?」
「しっ」
尋歌と聡美、帰っていいんだよ? 今日は麻雀しないから。
「尊いじゃない」
「聡美のおせっかいに私を巻き込まないで」
尋歌はただでさえ私に付き合って麻雀しているって噂が、尋歌に勉学面で期待を寄せる先生方の間で流れて私は先生方にお小言、それをなんとか顧問の先生が抑えている状況。ちゃらんぽらんなオジサンに見えて、すごい優秀。
「誰が誰に恋しようと、私に関係ない」
冷たくはない。尋歌らしい回答、というか聡美の関与度合いのほうが異常なのである。
「というかカップル認識が前提みたいになってますけど」
「違うの?」
妄想を押しつけないで。
「じれったい」
「そもそもなんで麻雀で集まることになったんだっけ?」
「美果のしつこい勧誘に負けて」
いつでも尋歌は折り目正しく制服を着ている。毎日欠かさずアイロンあてているんじゃないかってレベル。髪もショートのよさと髪型を少し遊べる良さが絶妙にマッチした量で、清潔感と女性らしい表現を両立している。
私のめんどくさいショートとはえらい違い。
逆に聡美は長い髪を痛めないように優雅に時間を使って潤い投資をコツコツしているのが見てとれる。自分の美に投資するのは単発的にお金を使うのではなく日々の積み重ね。その意識が高いから聡美はお金に愛される。
イメージお金持ちって成金でイヤミでってなるけど聡美にそれっぽさは感じない。意外と庶民的なのも食べるし、適正な価格のものを適切に買うのが極意だと教えてくれた。
「無駄遣いのほとんどって、怠惰の埋め合わせだから」
ストレス発散のための浪費。そもそも日頃からストレス解消の自分なりのスタンスを定めておけば、浪費することはない。むしゃくしゃして食べる。女がやりがちなこれ。そして埋め合わせのダイエット発言で今度は極端に食べないとかね。身体がびっくりするからそんな自己都合の食生活していたら。
普段の努力で、ダイエットに投じるお金も節約できる。
「私のこういうマインドは一族に伝わるもので、別に親しいご友人には伝えていいってなっているし、別に特別なことでもない」
聡美はその代わりに素晴らしい競技を教えてもらったと。将棋や囲碁など日本らしい競技はなんでも触れておきたいらしいが、私の縁で、少し麻雀に注力してくれることになった。
なんか悪いなあ。
「美果ちゃんがその熱量で違うものの魅力を教えてくれたら、私もそれを好きになっていただろうし、それも巡り合わせだから」
聡美は麻雀をフラットに見ている。
「私はそうね。生徒から忌み嫌われる数学をこれほど活用できる競技を、私は他に知らない」
数学嫌いは多いし私も好きではない。確率通りに起こるとも限らないし。尋歌は文理の区別なくどちらも最高峰の結果を叩き出すが、尋歌的には理系に進みたいみたい。
「学問に対する追及は、仕事に出来るか分からないけどね」
興味適正があるなら応援したい。麻雀はあくまで余興として参加してくれれば。
「別に球樹君も、麻雀が全く嫌いになったわけではない」
ゴルフに情熱をもやす道留。家族の父親としては失格だが、雀荘立地の目利きに関しては一流の、道留にとっては唯一無二のお父さん。
わだかまりがあるから、麻雀に向き合えないだけ。麻雀が悪いわけではないし。
世界見識、学問の道、ゴルフ。
私の麻雀に対する想い以上の情熱ばかりが伝わってきて、私も負けてはいられない。
「いやいや、美果が一番だよ。ほんと自分見えてないね」
尋歌、そのプロになるための具体的な心構えの面で、私は全く努力できていない。
「そんなの誰も出来てないよ。まだ高1の夏休みも迎えてないのに」
普通に学生らしく過ごしたい人は過ごせばいい、私はそうじゃない。
「美果ちゃん心配。麻雀愛が強すぎて」
適度に愛せばいいんだよね。分かるけどさ。
「やる気出しすぎなんだよ、美果は」
琢磨に言われると堪えるなあ。
気を込めたらいい配牌が来るわけじゃない。分かっちゃいるけどさ。
「強い人でもふるわない時はふるわないから、諦念でなくてその中で出来たことを積み上げていく作業でしょ?」
私より余程麻雀の本質を言うかのような発言。まあ言うだけなら安いもんで、実際に積み上げているのが、私が好きで好きで見ている雀士さん達なんだよなあ。
「寝ても覚めても麻雀打つのが無理なく当たり前に出来れば、自然とプロに近づくだろうし」
ルーティーンにできる人、その上でさすがプロと言われる人。
「わざわざそんな厳しい世界に身をおかなくてもとも思うが、美果がなりたいのであれば、応援するだけだ」
みんなのほうが、麻雀の素質あるけどね。
なりたい私は、強制してなるものではない。
「尋歌はなりなさいって言われて学問の道って言ってない? 聡美も家庭の事情のまま」
多様な海外経験は凡人ができることではないから家庭の方針に従えばいいし、ある段階で本人の意志を尊重してもらえるのはすごいけど。
その代わり一流になるのが絶対と。半端にやるなと。
聡美はまだいいのか。問題は尋歌よ。感情の発露も見えないし、溜め込んでない?
「女性で学問の世界できちんと活躍できる。全うに努力して、周りに協力してもらって。したくない?」
多分、誰も見たことない熱だった。それなら安心だ。黙って夢を応援しよう。
「いいの? 私の夢に付き合う形になって」
「別に気負わずカードゲームを友人と楽しむようにすればいいのでは?」
確かに他の頭を使う系のゲームにも詳しい雀士は多い。親和性があるのかな、やっぱり。
「頭を使うゲームって一生できるじゃない。ゴルフだって歳とったらとったなりに楽しくできそうで、いいスポーツだと思う」
身も心も生涯現役。安定の代名詞、会社員ですら定年や自己都合扱いの退職がある。収入は安定せずとも生きがいは保証できる。老後も安泰の楽しみ。
「そこまで麻雀愛せたら、どんな形にしたって幸せだろうなあ」
プロになるならない関係なく、麻雀には携わりたい。
「応援したい」
「その応援と言うのは」
「親しい友人として」
「男女の友情ね~」
お嬢様のくせに下世話な話大好きだよね。
「表は華やか裏は影口、答えは金持ちの世界ですよ、間違いありません」
他人の成功を手放しで誉められない。嫉妬もあるし、事業を行えば現実で箱下何万点の借金を抱えるリスクもある。綺麗事ではいられない。
「事業関係者内芸能ニュース感心度は、ピカイチですよ」
事業で成功すれば、人も寄ってくる。下世話な関係の問題のきっかけが始まる。
「財を成した時ほど謙虚に」
経営者としてリスクを取るからこそ、失敗はリカバリーできる余力を残しておいて、成功は備えやさらなる事業投資に回す。
何となく、聡美が麻雀で大胆な打ち回しをする理由が見えてきた。
あとさ、最近なんだろう。麻雀もそうだけど、時間を奪われる娯楽の選択肢が多すぎて。
「聡美はこんなことで悩まないかな」
私とかおそらく琢磨は、普通の男女の感覚だろうから、やっぱり選択肢多すぎるの感じるよね。生放送もいくつも見たい時あるし、チェックだけで何時間過ごせる? ひとつワンコインか安価な札1枚で何時間分の番組見られる?
暇な時間獲得競争ゲームが留まることを知らない。もはや視聴者の単位はどんどん細分化される。動画コンテンツはもはやレッドオーシャン。
私の場合は自分の打ち筋分析の意味合いで麻雀の姿を動画に残しているから、別に勝手に見たい人はどうぞなもんだけど。
「もはや人数を気にしなければ誰でも投稿側に回れる」
それで食べていく人は一握りでも、自分を知らせるきっかけになる。自分広告の場。
私の麻雀日記も、いつどうなるか分からない。
「問題は、それでもなお人は満たされていないということ」
技術は進んだはずなのに、不幸の種は消えない。格差、不平等感、嫉妬、いじめ。
なんで? ただ楽しませてくれよ。
娯楽してろよ。
「それで解決できるならいいけどね」
私は、未来に起こる問題を知らぬまま、これから出ていく社会に問題提起している。
万一麻雀プロになれたら女性は楽しそうにも見えるし、やっぱり大変そうにも見える。
他の仕事を、現実は大変でバイトしながらの日々、可能性おおあり。そこで社会の世知辛さをもろに受ける。
金持ち一家を恨んでも意味なんてない。
社会の分配構造がそもそもおかしい。
いらない苦労をさせられている人々が多すぎる。
私が活躍して元気づけたい?
よく夢を追う系の仕事に向かう人が言うセリフ。
あの、元気づけるまで知名度を得られる人がそもそも限られてんだよ。みんながSNSで発信側になれば、表現の届く範囲は狭く深くなる。
じゃあどうすればいい?
したいことを考えぬくしかない。
変わってもいいじゃない。
その時その時、一生懸命になれるなら、なんだって。そういう好きなものは目先の利益に関係になく本気でやれるでしょ?
それが私にとっては麻雀ってだけで、無理に好きになれとは言わない。良ければ、どうぞ。
もちろん、経験値が大事なので、高1の1学期はできるだけ麻雀を打つ。3人の協力がなければ、私の麻雀道の威力は大幅に落ちた。今の速度で進めているのは、3人のおかげ。
私は、幸せものだ。
まず、麻雀を私が勧めて素直にやってくれて、きちんと相手になるようにそれぞれ個性を出して麻雀を楽しんでくれていること。
それぞれ将来の夢は違うけど、麻雀の時間を大事にしてくれる。
なんだかいつも行っているスーパーも、麻雀に縁起のいい場所に思えてきた。
いちイチって名前で、1のつく日はお買い得の日って認識しかなかったけど、今や1日2連勝の意味合いに変わる。その日はそのチームの日って、ファンは思う。
どうしても自分の地元の良さって、分かりづらい。これ以外の景色を知らないし、行くのと住むのじゃはっきり違う。住むことでその街を知るなら、確かにここに暮らすほとんどの人はよそを知らない。新幹線は通っているけど、どこに用あるの? 福島ノ福島からどこ行くの?
そもそもよそからこの駅に来た人に、何を楽しんでもらうの?
何も知らないことだけが分かっている。
花見山なる、分かりやすい名前の山があるのは知っている。琢磨と幼少の頃遊んだのは弁天山、山に囲まれた場所なことも分かる。
昔は道路環境も良くなくて、田んぼだけだったところが家が建つように。さすがに県庁もあるし、少しは開発しようって機運があるのかな?
そんなところで、麻雀の魅力に目覚め、寝ても覚めても麻雀のことばかり考えている武井家の長女、武井美果。
相変わらず授業は退屈で、なんでここに入ったんだって先生にも怒られる始末。なんとなく? 地元で、元女子校で、学校の考え方と私の学力が一致して。でも頑張っていたのは受験の時まで。そこからは麻雀の知識のことばかりに脳みそをフル活用する頭に変わった。
はじめて夢中になれるものを見つけた。
なんか、おかしい。
やっと、うまくこの学校でやっていけそうと思ったのに。
夏休み前の悪夢? 暑いのもあるけど、いや暑いはずなのに起きた時悪寒がする。身体が危険を察知しているかのよう。
学校に来ると、あからさまにみんなが私を見てひそひそと。興味ないのが6~7割。それでもみんなが私に何かを隠しているように見える。
「なんかついてる?」
「ついてる。いや美果はいつも通り」
はっきり言えよ。
授業も集中出来ない。何かあった?
いつも以上に長く感じた。
今日も部室で――あれ? 尋歌だけ?
「話そうか」
尋歌から? 珍しいね。
「早熟じゃない? いくらなんでも」
「私だけ知らないみたいなんだけど」
SNSを活用して麻雀の打つ姿を手元だけだが公開する提案をした私が、自分におきたであろうことを知らない。
「そりゃね」
「だから何?」
「琢磨はどう思う?」
「どう思うって、幼なじみで、麻雀誘って一緒に楽しく」
「聡美はどう思う?」
「私の心の内を聞いてくれて優しいなって」
「同じね」
「何が?」
「琢磨と」
「え?」
南場を終える前に、箱下突入ルート? もしかして?
「なんか、噂になってるのよ」
聞かないほうがいい感じだよね、間違いなく。
「神宮寺琢磨と崖霜聡美のデート目撃情報」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます