その12

 新しい朝、まあ太と三人はまあ太の家に行くこととなりました。温泉宿のさるたちは出発の日に全員が並び、「またおこしくださいませ。」と声を合わせて見送りました。大猿は一番年長のさるに何やら言付けし、まあ太についていきました。

 道中はみんなで冗談を言ったりカラス天狗の皮肉に付き合ったりしながらのんびりとしたものでした。二日経った後とうとうまあ太の家に到着しました。


「では我々はこれで。」カラス天狗が言いました。

「鬼に立ち向かったのだ。恐れるものは何もない。」犬が言いました。

「ぜひまたお立ち寄りを。」最後に大猿が手をかざしました。

「ありがとう。君らのおかげで何かできそうな気がする。」まあ太は笑って言いました。

そして三人が煙のように消えた後、何事もなかったかのように家の扉を開けました。

「おっ母。帰ったぞ。」



               その後


 カラス天狗は検定試験に合格し、大天狗となりました。

意外と努力しているようです。

 犬はどっかに行ってしまったかと思うと、ひょっこり家族を連れて戻って来てまあ太の村に住んでいます。熊を倒すだかなんだか言ってます。

 大猿は自分の温泉宿をほかのさる達にまかせ芸事に励んでいます。もうすぐあのテレビジョンに出るそうです。


 まあ太は学校へ行くようになりました。


けれどもやっぱり学校へ行くと、上履きやジャージがなくなっていたり椅子に画びょうが落ちていたりするのです。

 またあるときは全身泥まみれで帰って来たこともありました。それはとてもつらいことで、もう耐えられないと思うことも幾度もありました。


 今日もそういうことがありました。


 おっ母と夕飯をたべているときです。

 まあ太はあの三人と行った旅のことを話し始めました。

カラス天狗と会ったこと。犬に助けられたこと。猿の温泉で丁寧にもてなされたこと。それから鬼のいる島へ行き、もう駄目だと思ったこと。まあ太は小さなこどもだった時のようにずっとしゃべり続けました。

 おっ母は、まあ太がしゃべり続けるのを黙ってすべて聞いたあとで一度はしを置きました。まあ太もはしを置きました。

「お前はすごい旅をして来たんだねえ。お前が帰って来た時に、お前の顔が違って見えたのはそのためだったんだね。いいかいまあ太。人は死を意識した時に初めて大人になる。おまえは大人になったんだよ。」

 そこまで言うと、おっ母は夕飯を再び食べ始めました。


 次の朝

「学校行ってくるわ。」

まあ太は学校へ行きました。

おっ母は何も言わずに洗濯ものを干しています。

あまり変わって欲しくない。と心を痛めながらもそう思いました。

まあ太の背中におっ父が重なりました。


おっ母の病気はさるの温泉に行ったおかげでずいぶんよくなったそうです。

 

 夕方

「ただいま。帰って来たぞー。」

そう言ってまあ太は、カバンを放り投げてごろんとしながら漫画を読んだりしています。でも少しは勉強しようかなと思うようになりました。

 それからまあ太はカラス天狗のところに行って神通力を習ったり、犬のところに行っては子犬たちの世話をしたりおっ母とさるの温泉に行っては、大猿に自分の世界と外の世界がいかに分かり合えるか。などについてアドバイスをもらったりしました。

 もしもつらいことがあった時どう思ったらよいか。ということも習いました。



 そうやってまあ太の時間は過ぎていくのでした。



多少の不幸は誰にでもありますが、それでもまあ太とおっ母はしあわせにくらしましたとさ。と古代の書物が伝えています。



                             おしまい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

まあ太のぼうけん コナ武道 @orotireeberu9

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ