その11
まあ太は小船に乗って流れる雲や海鳥たちを眺めておりました。猿はゆっくりとのんびり船をこいでいます。カラス天狗は昼寝をしており、犬はしっぽで魚を釣っています。まあ太はとにかく何か言いたかったのですが包帯でぐるぐる巻きになっており空気のためのストローがさしてある状態で、自動車にはねられた時より体が動きません。動かないので色々なことを考えました。
鬼に袋叩きにされたこと。この偉大なる三人の獣のこと。ああ。自分はこの三人がいたおかげで生まれて初めて死というものを考え、そして救われたのだなあと思いました。ほら穴にはたくさんの骨が散らばっていました。ここにやってきた人たちなのか鬼にさらわれたかはわかりません。でもこの人たちは絶望というものを知りそして消えてしまったのだと考えると、まあ太はこの三人に深い感謝をするとともに消えてしまったひとたちの遠く誰にも届かなかった心を思うのでした。
まあ太が顔を上げ余力を振り絞って「よくやった。」と言うと、三人はまあ太をつかんで海に放り投げました。
船が岬に着いたとき、そこにはもう老人の姿はありませんでした。小船をもとあった場所に戻しなんとなくあの老人に礼を言ってまあ太達はその場を去りました。賢者の町を通る時も、勇者の村を過ぎる時もまあ太は初めのときのようにおどおどしておらず威風堂々と(まあ動けないのですけど)道の真ん中を犬や猿やカラス天狗たちにかつがれながらずんずん進んで行きました。そんなまあ太達を見て誰となくぼそぼそとささやくのですがそんなことは全く気になりません。
とにかくそうやってあの里から離れたおばあさんのいたお茶屋さんまでやってきました。まあ太の包帯だらけの姿を見て、おばあさんが二本しかない歯を見せて「いひひ。」と笑いました。「どうだや。ええ嫁コはみつかったかや。」と曲がった腰でまあ太に近づきしゃがれた声でそう言います。
まあ太は、そんなこと全然言ってないのに何で知ってるんだ。さては犬だな。あいつ余計な事ばかり言いやがって。と思っていると。
「ほうか。そんならうちの孫連れて行け。」とぶっきらぼうに言います。
女の子はカラス天狗にカステラとお茶を出していましたが、おばあさんの話を聞くと「そんなこと急に言われてもいい迷惑だ。」というようなことをくってかかって延々とおばあさんに言ってました。こういう場合、外野が騒いで上手くいかなかったことはよくあります。まあ太は終始寝たふりをしてその場をやり過ごしたのでした。
このおばあさんと女の子は実は月から来た天女の子孫で、まあ太の八代あとの子孫が月と地球との全面戦争を引き起こした際に活躍したというのはこの時点ではまだ誰も予測することはできませんでした。
三人はまあ太の傷を癒そうと猿の温泉宿に立ち寄ることにしました。お湯につかったりおいしいものを食べたりしているうちにまあ太の体はだいぶ具合がよくなってきました。そんな楽しい日々のなかでも、カラス天狗だけは「大体しあわせというものは多様性のあるものだし、結婚が人生最大のイベントだと思ったらそれは大きな間違いだ。」というようなことを延々とまあ太に言って聞かせるのでした。
まあ太は温泉につかりながら「やっぱり今回はおっ母のところに帰ろう。」と考えていました。それで三人に残念だが今回は家に帰ろうと思う。と話すと、三人はだれも反対せず大猿にいたっては「それでは私めがご実家までお送りしましょう。」とまで言います。他の2人も賛成し次の朝まあ太と三人は「猿の温泉宿」をあとにすることにしました。
温泉宿での最後の夜、まあ太はふかふかのふとんの中でお茶屋の女の子のことを考えていました。今回の旅の目的は果たせなかったものの。また帰ったら遊びに行こう。さすがに歩いては距離があるから今度は自転車を借りて行こうと思いました。
それからあの鬼どものことも考えました。鬼は確かにいました。もし、もう一度会うことがあったならまあ太には何ができるだろうか。あの三人がいなかったら助かることはなかっただろう。まあ太は強くならなければいけないと思いました。でもどうやったら強くなれるのか。そんなことを考えているうちにまあ太はゆっくりと眠ってしまいました・・・。
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