その10


 その一言を聞くとひとつのしずくがこぼれ犬、猿、天狗の三人はゆっくりと体を起こし入念にストレッチを始めました。鬼どもは立ち上がった三人を見つけると奇声を上げ赤い舌を出しながら炎の矢のように勢いよく飛び掛かってきます。



 まず始めにカラス天狗がいつも暑いときにあおいだり、お盆のかわりに使っている大きな木の葉のうちわをふところから取り出しました。そしてうちわを持った腕を真っすぐに上げ、ひと呼吸置くと、

地面に向かって


「ぶん。」と振り下ろしました。するとカラス天狗の足元から小さな風の渦が巻き起こり、それがいくつかに増え、重なり合い、やがて大きな風の四つの柱となってほらあな全体をごうごうと揺らし始めました、カラス天狗はふわりと音もなくそのあとほらあなのてっぺんまで飛び上がり、ひっくり返ると天井を蹴って大きく回転しひとつの白く光ったかたまりとなりました。



次に白い犬、白狼が天に向かってあらんかぎりの力で目いっぱい首を伸ばし

「ばう。」


と叫びました。そのあまりの腹の強さに鬼どもは一瞬びくっとなって取り乱し、不安げにあたりを見回し始めました。白狼はそののち全身をだんだんと、ぶるぶると震わせ続け全身の体毛は金色に逆立って輝き、巨大なひとつのやいばとなりました。


マシラの長である大猿は、その姿ににあわぬかぼそく小さな声でなにやらぶつぶつと唱え出すとほらあなの四方の壁がぼこぼこと黒く忙しそうにあわ立ち始め、あわの中から有象無象をため込んだあらゆる厄災の主たちが顔を出し始めました。

 その恐ろしい形相は鬼どもをにらみつけるともっと激しく顔をゆがめ、裂けた口からは嘲笑と呪いの言葉がもれています。


 大猿の印を結んでいる丸太のような腕は、一本増え二本増え、顔は三つ増え四つ増え、鬼をも舌を巻く恐ろしい魔人の姿へと変貌したのでした。


 三人はそれぞれ異なるが同じ強い力で悪鬼を捻じ曲げ、囲み、それを平伏させると粟粒のような粒子にしてそれをはるか遠くへ消し去りました。


それから三人は同じ言葉を唱え地中より土の柱を出現させるとゆっくりとした言霊でそれを丁寧に清め、祈りの言葉を光とともに放つとあたりは冷えた空気に包まれ、土地の呪いは掻き消えました。


 

   まあ太はそこまで見届けるとぱったりとすべてが真っ暗になりました。



                 暗転


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