その9
ほらあなの中は足場が悪く、こけなど生えていてまあ太は何回か滑りそうになり、滑って転んで足をくじいた。仕方ないから帰ろう。という場面を何度もあたまで繰り返したのですがここで3人のやる気をそいでしまっても格好悪いのでとにかく犬のしっぽをにぎりしめ進んで行くことにしました。
曲がりくねったほらあなの中をのろのろと進んで行くにつれ、まあ太はひょっとすると鬼なんていなくてこれはあの老人が考えたいわゆる肝試しなのではないかと思い始め少し元気が出てきました。鬼のいる島に行ってきたけど鬼なんていなかったよ。はは。とおっ母に話そうとそんなのんきなことを考えていたその時、
どこからか音の外れたサイレンのような声が聞こえそれがほらあなの中にこだまとなって反射して鳴り響くと、地鳴りとともに酒瓶を持ったどでかい化け物がよだれをたらし踊るように暴れながら大きな音を立て、全力で飛び出してきたのです。
黒くて汚れてばさばさになって巻き付いた髪に赤銅色の体。頭にはとがったこぶのようなつの。腰に巻いてある虎の皮にはひからびた虎の頭がひっついています。
鬼はまあ太達の前で急停止し、血管の浮いたにごった大きな目でまあ太達を見て、首をひねりながら指で数を数えていました。
酒臭い息がまあ太を取り囲みます。
まあ太は全力で逃げ出そうとしたのですが、足に力が入らず動けません。そのままへなへなと座り込んでしまうと、あたりには人間のものと思われる無数の骨が散らばっています、動けないまあ太はあっさりと鬼につかまってしまいました。
すると今度は静かに、明かりの陰からおびただしい数の鬼たちが同じように酒臭い息を吐きながらあらわれたのでした。
それからどのくらいの時間が経ったのでしょう。
まあ太は鬼どもにドッジボールのボールにされたりおまつりのみこしにされたり・・・。鬼どもはまあ太で遊んでいました。ことあるごとにまあ太は気を失ったのですが、その度に頭から酒をかけられ、目を覚まし、再び鬼どもにボーリングのピンにされたり、ドミノにされたりしました。
繰り返し薄れていく意識の中でまあ太は何度もあきらめました。
嫁さんを探す旅。
おっ母ともう一度会うこと。
自分の未来。
骨になった人たちもこうやってあきらめていったんだなと思いました。
まあ太はこのまま自分も鬼どもに喰われてあの骨のようになってしまうのだな。
と痛みすらなくなってきた自分の体を遠くから眺めておりました。
けれどもそれは早すぎます。
まあ太はこのままではいけないと倒れた体を一匹の鬼の足の甲にかぶせ、力いっぱい足にかじりつきました。しかしそれは何の効果もなく、怒った鬼はまあ太を蹴り上げ天井に叩きつけました。
まあ太の口からこぼりと赤いものがこぼれ、まあ太の顔を染め上げました。まあ太はそのとき自分の最期をありありと見ました。
おっ父の最期も見ました。偉大なまあ太のおじいさんとおばあさんの最期も見ました。
そして大勢のどこの誰かもわからないひとたちの最期が雪崩のように見えた時、一言だけ
「助けてくれ。」と言葉が一つ、こぼれ落ちました。
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