宇宙を見上げる コスモ

雨世界

1 こんにちは。先輩。

 宇宙を見上げる コスモ


 プロローグ


 綺麗ですね、宇宙って。


 本編


 こんにちは。先輩。


「綺麗ですね、宇宙って」

 宇宙を見上げて、にっこりと君は笑った。


 確かに、君と見上げる星空は綺麗だった。冬の透明な空の中に輝く星の光は、本当に綺麗で、ずっと見ていても、見飽きるということがまるでなかった。


「星。好きなの?」

 古木は言う。


「はい。大好きです」

 にっこりと笑って、古木を見て、紗枝は言った。


 古木と紗枝。


 二人は今、夜の山頂にいる。

 そこにある、天文台の敷地内にある電灯の明かりが灯っている車の少ない駐車場にいて、そこに並んで立って、冬の夜空に輝く星の姿を眺めていた。


「先輩は、あまり星、好きじゃないんですか?」

 古木を見て、紗枝は言う。


 紗枝はその華奢な体に真っ白なあったかそうなコートをきている。首元には薄紫色をした厚手のマフラーを巻いて、黒地のスカートの下には黒のストッキングを履いていた。足元はやはり、黒色のブーツだった。


 紗枝はその顔に眼鏡をかけている。

 眼鏡越しに、じっと紗枝は星から視線を移して、古木の冴えない顔を見つめていた。


「いや、嫌いじゃないよ。ただ、それほど興味があるわけでもないんだ。綺麗だとは思うけど、星座とかも、あんまりよくわかんないしさ」小さく笑って古木は言う。


 古木の口からは白い息が溢れている。

 今は、冬なんだ。


 その白い息を見て、古木はそんなことを思い出した。


 古木良雄は、紅茶色をした長いロングのコートをきていた。背中には黒のリュックサック。コートの下は白色のシャツと下に藍色のジーンズを履いている。足元は白のスニーカーだった。


 古木は今年、大学生になったばかりの少年で、志望校であった、名門の大学に合格して、ようやく受験が終わり、それから約一年が過ぎて、自分のやりたいことや、本当に勉強したいことも決まって、ほっと一息をついたばかりの時期だった。


 古木の高校の後輩である日宮(ひのみや)紗枝は、今、高校三年生。本来であれば今頃の時期は、受験が目前の時期なので、こんな風にして、遠い場所に外出している場合ではないのだけど、紗枝の場合は少し事情が違った。


 紗枝は来年、海外に引越しをすることが決まっていた。


 向こうの大学には、すでに入学が決まっているそうだ。(入試試験も終えているらしい)

 

 古木と紗枝が通っている高校はかなり偏差値の高い進学校だったので、紗枝のような進路の選択はそれほど珍しい、というほどのことでもなかった。(海外の有名大学に進学する生徒は結構たくさんいた)


「……来年は、私たち、遠い場所に離れ離れになっちゃいますね」

 ちょっとだけ悲しそうな顔で笑って、紗枝は言った。


「そうだね。遠いところに、離れ離れになってしまう。でも、手紙書くよ。それにたまには電話をする。メールだってするし、そんなに寂しくはないよ。それに少しして落ち着いたら、そっちの国に遊びに行ってもいいし、日宮さんがこっちに帰ってきてもいい。そのときにまた会えるよ」紗枝を見て、古木は言う。


「……そうですね」にっこりと笑って、紗枝は言う。(でも、ちょっと不満そうな顔で)


 それから紗枝はまた、夜空に輝く星の光に目を向けた。


 古木も同じように、紗枝の隣で星を見た。


 二人の距離は、数センチ、というところだった。


 あの星が輝いている場所に比べて、僕たちはとても近い場所にいる。手を伸ばせば、その手が君の体に届いてしまうくらいに……。(それはきっと、奇跡のような出来事だった)


 そんなことを星を見ながら古木は思った。

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