海の底で、君を想う
聖願心理
思い出の少女
誰もいない静かな海辺に、波の音が響く。そんな静寂の中、浜においてある孤独なテトラポットに、麦わら帽子をかぶった少女がひとり、座っていた。その少女は、飽きることなくぼんやりと海を眺めていた。
「ねえ」
「……」
「ねえ!」
「……私に話しかけてるの?」
「他に誰がいるの?」
そう言われて麦わら帽子の少女は、周りを見渡す。そこでやっと、この場に私と貴女、2人だけしかいないことに気がついたようで、本当だ、と照れくさそうに漏らした。
「ねえ、何してるの?」
少女がこちらを向いたので、疑問に思っていたことを聞く。
「海を見てるんだよ」
「それだけ?」
「それだけ」
「……楽しいの?」
「楽しいっていうか、落ち着くの」
意味がわからなくてむっとしていると、麦わら帽子の少女は微笑んだ。
「安心するんだ。変わらずに碧い海を見てると。変わらずに押しては引いてく波を見ていると」
「……変わりたくないの?」
「変わりたくないって言うか、変わることが怖いんだ」
「変なの。海だって毎日毎日、違うんだよ?少しずつ変わってる」
「……そうだね。きっと変わりたいんだけど、変われないんだ」
「怖いから?」
「そう」
ふうん、と適当に相槌を打つ。なんとなく難しい気がして、興味が失せていた。
「そんなことよりさ、遊ばない?」
「遊ぶ?」
私と貴女で?
きょとんとした顔を少女はした。
「海ばっかり見ててもつまらないでしょ」
そう言って、少女の手をとった。少女は戸惑いながら、うなずいた。
◇
幼い頃の記憶。たった一日の特別な思い出。
麦わら帽子の少女とは、それ以来会っていないし、名前も知らない。
ただ、楽しかった記憶は十年経った今でも、私は忘れていなくて。
今でも、ふとした瞬間に思い出すのだ。
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