●はじめに
タイトルを見て読むのをやめてしまった、そこのあなた!
あるいは、あまりにも強烈な本文一行目にドン引きして画面をそっと閉じた、そこのあなた!
作品を読み進めたものの「うわあ、コイツ(主人公)変態じゃん……見なかったことにしよう」とサヨナラした、そこのあなた!
ぜひ! 戻ってきて最後まで読んで欲しい!
数々の変態的なシーンの先に、素晴らしい感動があるから。
面白い。とにかく面白い。
キャラが、会話が、設定が、ストーリーが、すべてが面白い!
こんなに面白い作品を読まないなんてもったいない!
下ネタが苦手でなければ、ぜひお勧めしたい!
ただし、読むときには【ちょっと背後に注意】!!
(σ゚∀゚)σ
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●作品紹介
まず、さらりと作品の紹介をしておく。
主人公のノミスは『本の世界へ入ることができる』という特殊能力を持つ『ブックライダー』だ。
しかし、本の世界を「所詮は絵空事」とあなどるなかれ。
ライドして本の世界へ入り、負傷をした場合、現実世界でも負傷してしまうというリスクがあるのだ。
そこへ「死にたい」という気持ちを抱えた中学生・エナがやってくる。
彼女が提示した「ライドさせてくれたらエッチさせてあげる」という条件に飛びつくノミスだったが、彼女が持ってくる本はどれも物騒なものばかりで……。
続きはぜひ作品で!
『エロ本ライダーと自殺系女子のメランコリア』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893294221
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●作品の魅力
さて、作品紹介も済んだし、作品の魅力について存分に語ってゆきたいと思う。
「この作品のどこが好きか?」と聞かれたら、まずはキャラクター!
主人公のノミスが格好いい!
正直に言うと、最初は「あわわわ、これは大変な変態だ! おまわりさんこっちです!」と叫びたい気持ちで読んでいた。
だが、彼に対する評価が変わるのは案外早かった。
彼が最初に「リジェクト」を発動させたときだ。
(※リジェクト=本の世界から現実世界に戻ること)
咄嗟の判断力と、迷うことのない行動。ノミスはたしかに「ど」のつく変態ではあるが、腐ってもブックライダー。さすがの判断力だ!(……と、私の中では評価うなぎのぼり案件だった。)
(余談になるが、『咄嗟の判断力』といえば、同作者の『降る空ノ鼓動』の冒頭も見事だ。
ヒロインの危機に対して主人公がとっさに機転を利かせるシーンが格好良くて痺れる。未読の方がいたら、ぜひ冒頭だけでも!
『降る空ノ鼓動』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054891793168)
……話をノミスに戻そう。
人間には、『長所』と『短所』がある。
ノミスの短所は『ど変態』なところだ(変態であることが短所かどうかは別として)。
そして、物語を読み進めていくにしたがって彼の『長所』が次々と顔を出す。観察眼。判断力。面倒見の良さ。過去を悔いる誠実さ。意外と紳士的。そして、人のために泣ける熱さと優しさ。
展開が進み、ノミスというキャラとの付き合いが長くなるにつれ、冒頭でど変態な姿を晒していたはずの彼の見え方が少しずつ変わってゆく。
ノミスの短所といえば、もうひとつ『●●』(※ネタバレ防止)がある。
しかしそれは、おそらく『優しさ』の裏返しなのだ。つまり、彼は本来、心優しい人間なのである。たぶん。
ヒロインのエナも、『死にたがり』という面を抱えながら、同時に『賢さ』『芯の強さ』『物怖じしない度胸』『約束を反故にしない誠実さ』などといった面を併せ持つ。
また、人の優しさを感じ取り、それを疑うことなく受け入れられる素直さも、彼女の魅力のひとつだと思う。
会話のシーンもとても興味深い。
特に、序盤での二人のやり取りはテンポ良く笑わせてくれる。
たまにノミスが年上ぶってエナを気遣ったり、叱ったり、ちょっと偉そうに話しているところも好きだ。(エナの賢い返しがあることでより自然に会話が成立しているのだと思う。)
そして、お互いがしんみりした話をするとき、二人とも茶化すことなく真面目に聞いているところにも好感が持てる。
なにより、ノミスとエナとの相性が最高に良い。
二人がそこにいるだけで、なぜかとても「しっくりする」。
この二人がこれから先も寄り添うように生き続けていけるなら、それも悪くないな、と思わせてくれる組み合わせである。
さて、この作品の魅力として『キャラクター』と『会話』を挙げさせてもらったが、『設定』と『構成』も実に興味深い。
『本の世界へ入る』という設定自体は、エンデの『はてしない物語』など古今東西あるが、この作品では『ライド』と表現をしているところに独特の世界観を感じる。
また、「既読の本にはライドできない」という設定が巧い。
物語を読み進めていくとわかるが、もしこの設定がなければこの話は破綻してしまう。実はとても緻密で繊細な設計の上に成り立つ物語だということに気付く。
設定の巧さもさることながら、説明の仕方もまた巧い。
設定が複雑になるほどグダグダと長文で説明してしまいがちになるが、それをせず、ノミスとエナに会話をさせるという形でスッキリわかりやすく説明している。
こういった書き方は、実際にやろうと思ってもなかなかできるものではない。
そして、物語の構成も興味深い。
一度目のライドでエナの目的が明らかになり、ノミスがライドに条件をつけるようになる。
二度目のライドでは、ノミスの過去が明らかになる。
そして三度目のライドで、ノミスはとある決心をする。
ライドをきっかけとして新たな情報が開示され、それと同時進行でストーリーが展開してゆく。
……え? この手法すごいな? 天才ですか?
その素晴らしい才能に嫉妬するばかりである。ぐぬぬ!
言葉選びにも、ぜひ注目していただきたい。
作中では『ライド』の他にも『ニケツ』『リジェクト』などといった言葉が使われているが、それぞれイメージがわきやすく、実にわかりやすい。
言葉選びのセンスが抜群に良い。良すぎる。最高。
そしてなんと、この作品の作者さんは『作品ごとに文体が違う』という離れ業をやってのける。
器用すぎる。すご過ぎる。すごい! 神ですか!?
……そんなわけで、作品の魅力を声高に熱く語ったけれど、少しでも多くの方にこの作品を(背後に注意しつつ)読んでいただけたら幸いです。
メランコリニスタ 静かなハイで眠れない
――YUKI「メランコリニスタ」より
冒頭から始まるぶっ飛んだ設定。
エロ本にライドする男。(意味がわからないと思うが、そのままの意味だ)
その男に依頼を持ち掛ける少女。
ブックライダーという能力を持つ人間がいる世界の話だが、
実のところそんなことはどうでもいい(失礼、どうでもいいは言い過ぎました)
これは、何かが欠けてしまった男と少女の希望の物語だ。
だからこそ、ぶっ飛んだ設定・内容でもぶれることなく読者の心を掴む。
タイトルに惹かれた方はぜひお読みください。
ただし、ニケツする際はご注意を。
レビューさせていただくのになんの躊躇もありませんでした。
センシティブであろうとエロティックであろうとこういうセンスと疾走感だけで成立できる小説こそがわたしが欲するものだからです。
リズム。
私事で恐縮ですがわたしはリズムに命を賭けます。
望むのはアフリカ大陸に端を発する、日本の祭礼のプリミティブな感情に端を発する本能のリズム。
それがこの小説を貫いています。
意味など無意味。
無意味こそが全ての人間にモノを考えさせる究極のコンテンツです。
ライド。
狂っても、構わない。
叫び出し走り出したくなるようなセンスとロック・スピリッツの塊のような作品です。
お勧めいたします。