ちょっと遅めの時間帯、孤独な男性がひとりチェーン店のカレーを食べるお話。
見たものや感じたこと、脳内に浮かんだ事柄をそのまま活写したような、独白形式の文章。つらつらと流れていく文章の、独特の滑らかさがなんだか癖になります。
カレーの味や見た目、あるいは店舗内の様子などを逐一、それもかなり詳細に描写しているのですが。面白いのはカレーそのものではなく、『それらが主人公の目にはどう見えているのか』という、つまりは主人公の視点です。
といっても、特別極端な考え方をするわけでもなく、ただ次々に思考が重なっていくだけなのですが、でもその流れの中で少しずつ浮かび上がる主人公の人格。目の前にあるのは普通のチキンカレーでしかなく、しかも客観的にはそれをただ黙って食べているだけだというのに、確かに文章の中に積み上がっていく、何か面白みのようなもの。
書かれている出来事から、その世界の枠を規定する〝視点保持者の目〟を紐解き、それを脳の中で再構築する楽しみ。その上で浮かび上がってくる小さな情動の、そのびっくりするくらいの生々しさ。なんとも味わい深いお話でした。