第4話 85歳になって気持ち溢れてしまう

僕は目の前の佐々木さんに話しかけた。あの時の後悔や想いをぶつける為に

「えっと…こんにちわ」佐々木さんは戸惑いながらも、返答する。

「佐々木さん、、僕は福島です。中学時代、同級生だった。福島です」一生懸命に

佐々木さんに語りかける。僕の思いが届く様に強く願っている。


「ごめんなさい…わたしには、わかりません」佐々木さんは、困った様に謝罪を何度も何度もしている。「ごめんなさい…ごめんなさい」繰り返し、謝りつづける。

「ちょっと…福島さん。いきなり、怖がらせないでください」奥田が僕に向って叱責する。

「まだ、来たばかりの佐々木さんに、強く質問しないで」続けて奥田は皆に聞こえる様に怒鳴る。他の利用者も岡田の顔色を伺い、黙り込む。


だれも、岡田のいる時は、逆らえない雰囲気が場に流れている。僕は、佐々木さんを困らせてしまったのか。僕は焦る気持ちばかりで、佐々木さんの事をまた考えてあげれなかった。

佐々木さんは僕の事を忘れてしまったのだろう。あの時の事を謝りたかった。

でも、これ以上、佐々木さんを困らせる訳にはいかない。

「すみません」僕は一言、皆に告げて自分の部屋に戻った。


あれから暫くして、夕食の時間がやってきた。職員が部屋まで呼びにくる。

「夕食できたので、フロアーに出てきてください」遅番の職員が呼びにくる。

いつも見かける職員だが、名前は知らない。たまに来る職員だった。

フロアーに出てみると他の利用者も席について、食事を待っている。

岡田は帰宅したようだ。フロアーの雰囲気がいつも通りになっている。

他の利用者も会話を楽しんだり。テレビを見て過ごしている。


佐々木さんも、他の利用者の方と会話を楽しんでいるようだ。

此処は女性の利用者が多いので、佐々木さんも馴れてくれるといいのだが。

僕が話しかけてしまったら、また怖がらせてしまうかもしれない。

佐々木さんの表情には、笑顔がみらている。

それだけで、いいのかもしれない。僕は佐々木さんが幸せならそれだけでいい。


「食事食べ終わった方から、部屋に戻ってください」職員が皆に告げる。

職員の一言で、部屋に戻る方もいれば、理解ができずにトイレの場所を探す方もいる。

いつもの光景だった。僕はまだ、覚えている事があるので、トイレも部屋の場所も

理解している。たまに分からなくなってしまうが、今日はまだ大丈夫だ。

とりあえず、部屋に戻り、いつもの日課の日記をつける。忘れない様に、忘れてしまっても

思い出せる様に習慣づけをしている。今日は書くことが多い。佐々木さんの事を沢山書き綴る。決して、明日になっても忘れたくない記憶。忘れたくない思いを文字にする。

そして、夜になり、今日も一日が終わる。また明日も何もかわらない日常が始まる。










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僕の事を覚えていてください じゅうじ@かいごせんし @JYUZI

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