答え合わせ(最終話)

 狭苦しい部屋に、英雄と科学者。

 科学者の背後の窓からは、傾き始めた太陽の黄色い光が差し込んでいた。


「……何を言い出すんですか、いきなり。私が掌で踊らせていたって、どこをどう捉えたらそうなるんです」


「言ったはずだ。俺は君に指南ではなく、答え合わせをしたいと。俺のもっている“推測”と君が知っている“真実”、この両者の擦り合わせをするため、君を呼んだのだ」


「何を言ってるかさっぱりわかりません」


「悪の組織があって、それを正義の味方がやっつける、そんなありがちな映画があったとする。このとき、悪の組織と正義の味方は作中では確かにいがみ合っているが、実際には両者を演じる役者がいて、観るものを楽しませようという共通の目標がある。今回の構図も、これと殆ど同じだったということだ」


「……今回の観客は『全人類』。我々は『やっつける役』と『やっつけられる役』、それぞれ〈Messiah〉と〈AI軍〉という名前をつけ、演者を設けた」


「そして君たちは、戦争を自作自演。サイバー戦争のみならず、現実世界をも舞台にして壮絶な戦いを演出した」


「しかし、我々としても人間の社会構造の中枢を叩いてしまっては、流用する上で都合が悪い。だから東京などの都市は狙わず、鳥取に対消滅爆弾を落とした」


「綿密に練られたそのシナリオは見事に成就。君らは晴れて、人間の疑念を解き放つことに成功した。……しかし、まだ一つ、不都合なものが残っていた。AIの謀反を予期した邪魔な科学者が、まだ生きているのである。そして今日、それを消しにやってきた」


「さすがだよ爺さん、満点だ」


 銃口を向けられた老人は、この上なく幸せそうな顔をした。

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シンギュラリティ @Sureno

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