腕輪のガラス玉を割ると、全てが巻き戻せる男子高校生。

@yuyu777

巻き戻し


「なにこれ」


突然だったが、朝起きると、左手に細い金の腕輪がついていた。

真ん中には、白く半透明で真珠くらいの大きさのガラス球が付いている。

取り方が全くわからない。腕輪に継ぎ目が無いのだ。



どうにもならないので、とりあえず学校に行く。腕輪は、お気に入りで何時もつけているG-Shockの黒い腕時計で重ねて隠した。


そして授業が終わり、放課後になった。授業中も特に違和感なく過ごせた。というより、夕方になる頃にはすでに存在を忘れていた。


高校の体育館で、部活のバスケの練習をしていた。

外はとっぷりと日が暮れ、墨を垂らしたような夕闇が漂っている。


「よーし。練習終わるぞー」


その誰かの掛け声で、体育館の掃除と、ボールの回収が始まる。

急いでバスケットボールをカゴにいれ、倉庫に運ぶ。

友達と「今日も疲れたなー」と他愛のない話をした。


倉庫の入り口は狭く、一人ずつじゃないと入れないため、一列になって

並んでいた、その時。


突然、ガラガラガラっと倉庫の入口から音がしたドアのすぐ近くにあった鉄の棚が崩れた。

その棚が崩れて、人が沢山の物に押しつぶされるのが見えた。


思いの外、積み重なった物が重かったのか、何かで怪我をしたのかわからないが、床にじんわりと血だまりを作り始めている。


誰かの叫び声やら、助けようとする人やらで、ざわついていた。

女子はショックで座り込む人もいた。


自分もパニックになっていた。

叫ぶことも出来ず、かと言って人が潰された現場から目が張り付いたままだった。

ただ呆然と周りがざわついているのを聞いている。


突然、頭に電撃が走った。

それが使命であるかのように、今朝突然腕についた金の腕輪を見た。

腕時計の下に、目立たぬようにしていた金の腕輪。

キラリと真ん中に小さな真珠程度の、少しパールの入った半透明のガラス球が光っている。


「腕輪のガラスを壊せば

!」


ガラス球を、親指でグイと押した。

パキッ。っと音がして、更に力かけると、呆気無くガラス球は砕け散った。


瞬間、目の前でビデオが巻き戻っているかのように、時間が遡り始めた。

言葉になっていない声が聞こえる。


「よーし。練習終わるぞー」

何事もなかったように、皆がガヤガヤと部活の後片付けを始めた。


状況を理解しようと一人、呆然としていると


「なにしてるんだ?とりあえず手伝ってくれよ。」

と声をかけられ気がついた。


「あ、あ・・ちょっと先に倉庫の中に入って、棚片付けてくる。最近バランスが悪くなってきてるから危ないし。」


「おう。じゃあ、俺も片付け手伝うわ。」


今度は倉庫内の棚に注意しながら、部活のボールなどがしまわれていった。


何事も、起きなかった。


深く深呼吸をする。安著していた。

もしかしたら、白昼夢だったのかもしれないと思いながら、体育館の隅で、バスケットシューズの靴紐を解いていた。


「あのっ」

声がした方向を見ると、1年の女子バスケ部の女の子がいた。

ただ、名前が思い出せない。


困惑したような、怒っているような表情で、ズカズカと自分に向かって歩いてくる。

そして、彼女の、少し震えて乾いた唇から出てきた言葉に、僕は目を見開いた。


「その腕輪、どこで手に入れたの?」


背筋に緊張が走り、急にじわりと汗ばんだ。


「それ、私も前持ってたの。気をつけないと、大変なことになるよ。」


彼女は、昔の話を始めた。


腕輪を手に入れたのは、小学校低学年の時らしい。

最初は可愛い使い方で、転んで怪我をしたら巻き戻すとか、自分のために使っていた。


少女に決定的なことが起きたのは、冬の夕暮れ時だった。

4歳離れた弟と、外で夢中になって雪遊びをしていると、辺りはもう暗くなっていた。冬の夜はとても早く訪れる。


そこに、除雪車のような、ブルドーザーのような、とにかく大きい車が来た。

二人は遊んでいて気づかなかったのか、急に現れたように感じたのだった。車の方も、雪で視界が悪く気づいていないらしい。


女の子は走って逃げようとしたが、転んだ。弟は、雪と氷にはまって動けなかった。


弟は、巻き込まれてしまった。


そこで、少女は腕輪のガラスを割った。

が、何も起きなかった。


気まぐれで奇跡が起こるのか、使う相手を選んで奇跡が起こるのか、判断はつかなかったが、いつでも奇跡が起こるわけではないと、この時少女は覚えた。


「それから私は、その腕輪を捨てたの。あなたは、使い方を間違えないで。」

と女の子は言った


男の子は体育館を飛び出して、廊下を走っていった。

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