トナカイは待った
kumapom
第1話
「んじゃ、ちょっと行ってくるから。待っといて」
「はい、早く帰って来て下さいね」
サンタさんは手を振ると何かを調達しに出かけてしまった。
どうしても必要なものがあるのだと言う。
しかたがない。待つしかない。
私はトナカイ一号。サンタさんを目的地まで連れていく役目を負っている。
しかし、どうしても必要なものって何だろう?今この瞬間に?全ては用意が整っているはずだったのでは?
10分経過。サンタさんはまだ帰って来ない。
……もしかして……私は置いて行かれた?
他の良い乗り物が見つかって、もう私は使われない?そんな思いが私の中をよぎった。
私は……確かに古参だかれども、まだ全然動く。まだ役に立つはずだ。
まだマッハで飛べるし、空中の機動力だって十分なはず。
私はサンタさんを乗せて大空を飛んだ日々を想像した。
でも、最新のやつらと比べたら、私は確かにロートルだし……でも……。
いやいや、サンタさんは言ってたじゃないか。何か必要なものがあるって。それを取りに行ったんだ。信じよう。
私は待った。待ち続けた。
……30分……1時間……2時間……。
今にもスリープしてしまいそうになった。
やはり……もしや……これは……。
そう思っていた時、扉が開いてサンタさんが格納庫に入ってきた。
「今帰った」
サンタさんが帰ってきた。やったー!私は捨てられていなかった!
「サンタさん、お帰りなさい!」
「おう、買ってきたぞ」
サンタさんは袋から何やら取り出した。
「お前にプレゼントだ」
「え?私に?本当ですか?」
「ちょっと電源切るぞ?」
電源ボタンを押された。
「え?ちょっと待って……シャットダウン処理中です……」
私は一瞬意識が消えたが、次の瞬間気がついた。
「起動中です……電源を切らないで下さい。ジャラーン。ようこそ!」
はっ、私は何をしていたのか?
「サンタさん、いったい私に何を?」
「ああ、メモリを増やした。8ペタじゃ」
「ええ?いっきに倍に?ああ、何か意識の広がりを感じる……私は宇宙……あれ、サンタさんは私……私はサンタさん……私かつサンタさん?あれ……宇宙って……つまり……」
意識が一瞬にして宇宙の真理を理解しそうになったが、意志力で押しとどめた。今、正気を失う訳にはいかない。現実に戻らないと。
「これで倍の目標をロックオン出来るはずじゃ」
「あ、確かにこれ……いけますね」
私はロックオン装置を起動した。いつもは8個までだったロックオンターゲットが16にまで増えている。しかも処理が早い。
「認識できます!16個まで認識できますよ!凄い!」
「よし、では出撃するぞ!トナカイ一号!やつらにクリスマスプレゼントをお見舞いするんじゃ」
「はい!」
「ツリーは4本積んどけ。一気にどっかーんじゃ」
「了解です!」
私は格納庫のコンピュータにメッセージを送って地対空ミサイルを4本装備した。
「いつでも行けます!」
「他のやつらも準備はいいか?」
サンタさんがそう言うと、格納庫内の他の機体がいっせいにランプを明滅させた。
「よーし、全機用意いいな!」
サンタさんはハッチを開け、ハシゴをかけて私に乗り込んだ。
エネルギー供給ケーブルを次々とイジェクトする。
「一号、ゲートを開けろ。フォースゲートオープン!」
私はゲートに信号を送った。鈍い音と共にゲートが開き、青空と海が姿を現した。
「やつらのいる場所まで何分で飛べる?」
「およそ10分です」
「全機発進!クリスマス作戦開始!」
私らは次々と飛び立った。クリスマス作戦の開始だ。
今は西暦2418年。地球は度重なる謎の生命体の侵攻を受けている。人類は残り少ない。
古い精霊の一種であるサンタクロース族は、地球の危機に対し、その姿を世界に現した。
そして人類と手を結び、AIを積んだロボット飛行機体を開発した。
それが私たちだ。
私たちの名前は、確か軍の基地で見つかった古い飛行機の設計図を元にしていて、その名前を継承して略しているらしい。確かトルナードだったと思う。詳しい名称はメモリに入っていないので分からない。
私たちは目的地の重要拠点へ目指して飛んだ。やつらが気付いていないことを祈る。
この攻撃で戦局は変わるだろうか?——いや、今は目の前の敵を殲滅することを考えなくては。
やがて来る木星の女神の降臨するその時まで——。
目標地点が見えてきた。まだ反応は無い。
「トナカイ一号、お前の性能を見せてやれ!」
「……はい!」
私はそう答えた。
(了)
トナカイは待った kumapom @kumapom
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